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「番号創国推進協議会・JUMP(日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会)」共催 「官民データ活用推進基本法」及び「個人情報保護法制2000個問題」公開座談会レポート①「官民データ活用推進基本法とは」

「番号創国推進協議会・JUMP(日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会)」共催 「官民データ活用推進基本法」及び「個人情報保護法制2000個問題」公開座談会レポート①「官民データ活用推進基本法とは」
森田 朗 さん

国立社会保障・人口問題研究所 所長

森田 朗 さん

この記事の最終更新は2017年01月17日です。

今回の座談会は「官民データ活用推進基本法」の成立にあたって、立法に携わった国会議員の先生方と、マイナンバー制度の有効活用を研究する「番号創国推進協議会」の方々らが経済や法律などそれぞれの専門分野を持ち寄り、意見交換をする場として開催されました。「「官民データ活用推進基本法」の成立が、わが国の社会・地域の課題の解決にどのように貢献するのか、「2000個問題」を始めとする今後の課題について何が重視され、どのように取り組んでいくべきなのかをこの場で共有したい」というコーディネーターの森田朗先生の進行のもと、約2時間弱に渡って行われました。今回は前編と題して「官民データ活用推進基本法」とは何か、どのようにして成立したかについてのお話を中心に掲載いたします。

参加された先生方は下記の通りです。

森田朗先生  :JUMP(日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会)理事長

                国立社会保障・人口問題研究所所長

平井たくや先生:衆議院議員・自由民主党IT戦略特命委員長

濱村進先生  :衆議院議員・公明党ICT社会推進本部事務局次長

高井崇志先生 :衆議院議員・民進党情報通信議員連盟事務局長

足立康史先生 :衆議院議員・日本維新の会

横尾俊彦先生 :番号創国推進協議会会長・佐賀県多久市長

北川正恭先生 :番号創国推進協議会調査研究・政策提言部会長

        早稲田大学名誉教授

鈴木正朝先生 :番号創国推進協議会調査研究・政策提言部会主査

        新潟大学教授・一般財団法人情報化法制研究所理事長

梶浦敏範先生 :一般社団法人日本経済団体連合会

        インターネット・エコノミー作業部会主査

        サイバーセキュリティに関する懇談会座長

        (株)日立製作所上席研究員

「官民データ活用推進基本法」とは、2016年12月7日に成立したばかりの法律で、自民党・公明党・民進党・日本維新の会の4つの与野党が協力し、議員立法として発議されました。

2015年に改正された個人情報保護法の議論の際、これからは個人情報を保護するだけでなく、安全に利活用できる仕組みを作り、保護と利活用のバランスが取れた新たなデータ社会が必要となるという判断に行き着きました。「官民データ活用推進基本法」は国、自治体、民間企業などが手を取り合い、各々が保有するデータを効果的に共有・活用することで、それぞれの活動に役立て、国内外での活躍を推進する法律です。

医療の現場でも、複数の病気を持つ1人の患者さんの医療情報を病院間で共有し、治療に役立てることや、同じ病気を持つ患者さんたちの数値やデータを集め、治療の研究や開発に役立てることは、非常に有益である考えられています。その一方で、個人の病気の情報がむやみに拡散されたり、本人の許可なく第3者に知られてしまうことがあっては、患者さんにとって不利にはたらくことも考えられます。

データ

「データ」を使うことによって効率を上げることが時代の要請だと感じます。大きな企業を見てみても、データを獲得し活用している企業が活躍しています。データがガソリンとなり、これを集めていかに燃やすか、エンジンを動かせるように有効に使えるかが、どの分野においても非常に重要です。これからの健全なデジタル社会を作っていくには、日本においてもデータ流通の基本的なルールが必要です。(平井先生)

ICTの中身は「データ」であり、これによってさまざまな合理化や、研究開発、付加価値を生んできました。それが一つの期を終えて、今度は壁を超え、業界を超え、官民を超えて、合法イノベーションを日本全国で行う第一歩となったことは、素晴らしいことだと思います。

2015年の個人情報保護法の改正では、「匿名加工情報」という新しい概念も確立されました。名を伏せ特定の個人を識別することができないように加工されたデータを、学界、産業界、消費者団体などで活用することができるというものです。まだ実際には来年以降に個人情報保護委員会が動き出して初めて決まっていく部分もありますが、今回の法案の成立がそれに向けた地ならしとなったように感じています。(梶浦先生)

今回の「官民データ活用推進基本法」は、2001年に成立した高度情報通信ネットワーク社会形成基本法(以下「IT法」)、2014年成立の「サイバーセキュリティ基本法」を補完する形で生まれました。2001年から比べると、現代は我々の社会はインターネットを使うことが前提の社会となっています。当時では考えられなかったクラウドやIoT(通信機器に限らずすべてのものがインターネットと繋がる可能性)、AI(人工知能)などが発達している昨今、大きなルールが変わっていかざるを得ません。(平井先生)

官民データ活用推進基本法は、防災減災の分野、災害対応の分野、健康分野においても効果が期待できます。(濱村先生)

日本は世界でも稀な医療分野の準市場化が確立しています。国民皆保険制度を持ち、財政は公的機関が担い、医療サービスや機器、医薬品などは民間企業の市場から調達することができます。この日本において、官民データ活用推進基本法が進んでいけば、世界のどのような国にもできない取り組みができると期待しています。(足立先生)

エストニアは電子政府を実現できている国です。電子政府とは今の政府を電子化するものではなく、新しい政府を創造する必要があります。エストニアは比較的小さな国で、九州の面積に大分県の人口しかおらず、その上もともと160万人いた人口が少子高齢化でどんどん減少しています。EUのメンバーではあるけれども、移民を受け入れづらい国民性もあり、徹底した電子化というかたちで国の再生を図りました。セキュリティを確保し電子化を進めた結果、人口減少過程においても国自体は目覚しい成長を遂げている最中です。(平井先生)

エストニアは小さな国ですが、デジタル社会を形成し、より良い行政サービスを行なっている国として知られています。一方で日本では未だにアナログな手続きが多く、労力が絶えません。たとえ引っ越しであっても自治体をまたぐと、公務員の方々がデータを手入力せねばならず、大きな会社の異動時期は特に大変だと聞きます。ファイルデータでの転送などが安全にできればもっと便利で、利便性の高い社会が目の前に来ようとしています。(横尾先生)

座談会の様子

注目していただきたいのは、先に述べた2014年の「サイバーセキュリティ基本法」も今回の「官民データ活用推進基本法」も、議員立法で成立していることです。私はこの分野の法律は、現行の政府で考えることは難しいと思っています。どうしてもいま現在すでに存在する法律に当てはめて考えがちになるからです。インターネットが前提になる前の社会と、インターネットが前提の社会とでは、必要となるルールそのものが大きく変わってしまうため、前代主義では作れないと考えています。(平井先生)

ITのインフラ整備に与野党の垣根はないという思いに同意し、この基本法を通してくださった議員さん方に感謝しています。この問題に関しては国地方関係なく、お互いの話し合いによって進めていくことが重要だと思っています。基本的な法律を作るのは内閣府や委員会ですが、今後それらを個別に落とし込む際には省庁間でも権力争いや闘争が起きるかもしれません。国会議員さんたちが与党も野党も関係なく力を合わせて作った背景を各省庁にもきちんと伝え、各省庁でも協力して話し合いを進めていってほしいと思っています。(北川先生)

議員立法はとても難しく、今回の「官民データ活用推進基本法」も足掛け3年かけて作り上げました。今後の展望として2000個問題だけを取り上げた法律を更に議員立法で作るとなると、目標としてはやや小さくなってしまうので、もっと広げて取り組んでいきたいと考えています。(平井先生)

今までも民進党では、2002年に韓国で成立した「電子政府法」に倣って、2009年に行政手続きの電子化を推し進めようとしたことがありましたが、閣法となるとそれぞれの省庁の抵抗も強く、なかなかうまくいきませんでした。今回新たな課題も含めた「官民データ活用推進基本法」の成立も、針の穴を通すような大変な作業でしたが、重要な法案なのでなんとか成立させたいという思いがありました。(高井先生)

国会議員の中でもデジタルディバイドが大きく、デジタル系の法律に関心のない先生方も多くいらっしゃいます。こう言った方に理解していただき、法律を通していくことが大変なのです。今回のようにそれらに深い関心のある国会議員が党派を超えて集まったことは素晴らしいことだと思います。今後デジタルソサエティや、経済、コミュニティの観点を健全に発展させる超党派の議連を作る提案をしていきたいと考えています。(平井先生)

国会の中にも、個人情報に重きをおく方や、地方自治体にオープンデータ(機械判読に適したデータ形式で二次利用が可能な利用ルールで公開されたデータ)の計画を作ってもらい、国ですぐに法律化はしないという提案をする方もいますが、2000ある自治体それぞれの負担になってしまうことも考え、説得に尽力しました。法案の修文なども行い、結果的には民進党でも全党一致で法律を通すことができました。(高井先生)