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「番号創国推進協議会・JUMP(日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会)」共催 「官民データ活用推進基本法」及び「個人情報保護法制2000個問題」公開座談会レポート②「個人情報保護法制2000個問題とは」

「番号創国推進協議会・JUMP(日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会)」共催 「官民データ活用推進基本法」及び「個人情報保護法制2000個問題」公開座談会レポート②「個人情報保護法制2000個問題とは」
森田 朗 さん

国立社会保障・人口問題研究所 所長

森田 朗 さん

この記事の最終更新は2017年01月18日です。

今回の座談会は「官民データ活用推進基本法」の成立にあたって、立法に携わった国会議員の先生方と、マイナンバー制度の有効活用を研究する「番号創国推進協議会」の方々らが経済や法律などそれぞれの専門分野を持ち寄り、意見交換をする場として開催されました。「「官民データ活用推進基本法」の成立が、わが国の社会・地域の課題の解決にどのように貢献するのか、「2000個問題」を始めとする今後の課題について何が重視され、どのように取り組んでいくべきなのかをこの場で共有したい」というコーディネーターの森田朗先生の進行のもと、約2時間弱に渡って行われました。後編では「2000個問題」にテーマを絞り、引き続き先生方のお話を掲載しております。

参加された先生方は下記の通りです。

森田朗先生  :JUMP(日本ユーザビリティ医療情報化推進協議会)理事長

                国立社会保障・人口問題研究所所長

平井たくや先生:衆議院議員・自由民主党IT戦略特命委員長

濱村進先生  :衆議院議員・公明党ICT社会推進本部事務局次長

高井崇志先生 :衆議院議員・民進党情報通信議員連盟事務局長

足立康史先生 :衆議院議員・日本維新の会

横尾俊彦先生 :番号創国推進協議会会長・佐賀県多久市長

北川正恭先生 :番号創国推進協議会調査研究・政策提言部会長

        早稲田大学名誉教授 

鈴木正朝先生 :番号創国推進協議会調査研究・政策提言部会主査

        新潟大学教授・一般財団法人情報化法制研究所理事長

梶浦敏範先生 :一般社団法人日本経済団体連合会

        インターネット・エコノミー作業部会主査

        サイバーセキュリティに関する懇談会座長

        (株)日立製作所上席研究員

実は日本で個人情報の取り扱いについて定めている取り決めは、現在およそ2000個もあるといわれています。この2000個の取り決めをどう統率していくかという課題は「2000個問題」と呼ばれ、議論されています。

国の法律では代表的な「個人情報保護法」のほか、国に対して取り決められている「行政機関個人情報保護法」、研究機関や国立大学、国立病院に対しての「独立行政法人個人情報保護法」の3つがあります。そのうえ、47都道府県の1718市町村と東京23区における100以上の広域連合のそれぞれに「個人情報保護条例」というものがあり、個人情報に対する解釈や条文が1つ1つ異なります。

医療の観点から見ても、2000個問題に手を打たなければ、今後地域間で共有する情報が増える一方で、1人1人の命の重さや情報に差はないのに、地域によって取り扱われ方が異なったり、必要な情報が地域間を行き来できなかったりするという弊害が生まれてしまいます。

データのイメージ

近年は情報化デジタル化社会となり、便利なICP端末やデバイスの登場でネットワークもより高度なものに進歩してきています。お話ししてきた通り、医療や行政サービス、災害時の被災者の情報を安全に共有することができれば、様々なニーズや可能性が広がるでしょう。しかし、「個人情報保護」の整備ができなければ、せっかく良い技術や情報が目の前にあるのに活用できないのが現状です。(横尾先生)

「官民データ活用推進基本法」では、19条に「国の政策と地方公共団体の政策との整合性の確保」という項目があり、要約すると「2000個問題を解決せよ」という要請が表面化しています。現在の取り組みを見てみると、1788地方公共団体を含めて、オープンデータについて積極的に実施している団体はまだ233しかないので、推進が急がれます。今回の法案の成立は、これに注力できる良い機会ではないでしょうか。(濱村先生)

2000個問題の具体的な問題はわかりやすいところでいえば情報の転移に関わらず、情報そのものにばらつきがあることです。2000の個人情報保護に関する取り決めは、6類型以上が並存しており、法律を作って日本において一つの基準を作ることが必須であるといえます。

たとえば医療の観点からは、個人情報保護法の改正に伴い、2016年には個人識別符号という新しい用語も採用され、ゲノム情報、生体情報システムで生成された特徴医療情報も個人情報に含まれることになりました。しかし、この概念は元来自治体にはないものであるため、現在のところ、どこが運営している病院かによって情報の取り扱われ方が異なったままです。ゲノム情報単体が個人情報とされる国立行政機関や民間の病院と、個人情報とはされない公立の病院とが並存するような事態を招いています。

また、2000個問題の本質は、定義が2000個あるということではなく、解釈権と法執行権が2000の各自治体に委ねられているということです。総務省自治行政府ではモデル条例を作ることで2000の自治体を統一しようという動きも出ているようですが、条文が同じでも解釈権がそれぞれに委ねられている以上は必ずばらつきは出てきてしまうでしょう。このような背景から国家法での統一は必須であると考えられます。(鈴木先生)

モデル条例による統一は、各自治体にとって非効率的だと私も思います。何故ならば、個人情報保護法自体が定期的に時代に応じて変わっていく中で、その度に2000の自治体が条例を変える必要があるからです。このようなことを各自治体に課すべきではなく、法律で一律に定めるべきだと思います。(高井先生)

1995年に地方分権推進法が成立しました。これは、財源や権限を国から地方に委譲し、国と地方の役割分担を明確にするための法律です。20年の経過を経て、形式的な部分はかなり整備されましたが、地方が元気になったかと問われれば、そうとはいえません。地方の先進的な首長さんには国と対等な関係で話し合いに参加してもらいたいと思っています。

現代は地方分権時代が終わりつつあり、国と地方の関係が上下から対等に近づいてきました。国と地方がwin-winの関係を築くうえで、その共通インフラがICTではないでしょうか。地方のリーダーが協力し合い、各省庁の課題を議員立法で整え、国と地方が力を合わせていける体制を築きたいと思っています。(北川先生)

現在は災害時に特別対応として、個人情報を支援団体等に提供しても良いはずなのですが、3.11の東日本大震災のときに実際に支援協力が実現した事例はわずか2つの自治体のみでした。解釈や条例が2000もあると、現場の繁忙・混乱もあり、なかなか緊急措置に踏み切れません。地方分権の尊重はもちろん大切ですが、災害・救急救命の現場で1700を超える自治体別に人の価値や予後が変わることはないでしょう。全国統一の基準で迅速的確な対応ができる体制を整えていくべきだと思います。(横尾先生)

2000個問題を解決するには国で一律の法律を作る必要があるにもかかわらず、それがなかなか実現しません。総務省はこの問題に対し地方分権の歴史が深く関係しているといいます。地方自治体における「個人情報保護条例」の歴史は、国が定めた個人情報保護法よりも歴史が古く、1984年福岡県春日市にて初めて取り決められました。先に地方自治体が決めていたものを、後から国が法律で覆すのは難しいというのが1つめの理由です。また、もう1つ理由としてあげられていたのが、条例が自治体ごとに2000違うと言っても本質的な差はないと考える方もいるということです。これは議論されるところではあると思いますが、このように考える方もいるということは視野に入れる必要があります。(高井先生)

地方分権すべきこと、そうでないことの峻別が必要だと思っています。命の重さ・尊さが1700の自治体ごとに変わってしまっては困ります。地方自治体の立場から見ても、たとえ、地方自治体の方が個人情報保護条例の歴史が長いからと言って、国が遠慮する必要はないと思っています。(横尾先生)

実は個人情報保護法も、官民データ活用推進基本法や、サイバーセキュリティ基本法も、海外にはなく、日本特有の法律です。海外では「データ活用法」などと法律で定めなくても、それぞれの企業がすでにデータを活用しています。(平井先生)

北欧諸国を中心に人の健康状態をレコードに残し、それを匿名化して、横に比較することでビックデータ(巨大で複雑なデータ集合)を取得し、活用していく動きが強まっています。これは、それぞれの病気がどのように起こって、どのような治療が有効なのか追求する点で非常に重要なデータとなります。

ここで問題となるのが、匿名とは言え多数の個人情報が集められ、活用されることです。これらの動きが活発な北欧諸国に「個人情報上の問題はどうなのか?」と尋ねてみると「日本はなぜそれを心配するのか?」と逆に聞かれることもあります。それだけ、「個人情報」に対する日本の考え方は独特であることが伺えます。(森田先生)

海外・ビジネスマン

日本の企業は非常に真面目で、海外の企業が無視している法令に対しても、その国の決まりはきちんと守るという姿勢の会社が多いです。そんな日本の企業やプレイヤーが持ち味を生かして活躍していくためには、コンプライアンスなどで躊躇せずに活動できるようなインフラ整備がすぐにでも必要だと感じています。現在パリと大阪で万博開催を巡って熱戦が繰り広げられていますが、万博が開催される2025年には、データ活用において日本が先頭を走っているというようなスピード感で、この問題に着手していきたいです。(足立先生)

データ活用の取り組みについては近年EUが厳しいスタンダードを行なっていく動きがみられます。日本もきちんと整備をしていかねば、対外的なビジネスが進みません。今の状態のまま2000個問題を解決せずにいると、他国からすれば日本という国の中に2000の国家があるような煩雑な国に見られてしまい、国際社会においても問題を抱えてしまいます。(横尾先生)

確かにEUやアメリカのプライバシー制度は強化されつつありますが、そうは言ってもまだまだ決まっていない部分もあるように私は思います。日本もEUに言われたから、個人情報を改正するというのではなく、相手と同等の立場で流通させることができるよう強気でいかねばならないと考えています。(平井先生)

座談会の様子

例えば地方自治体の税金伝票の煩雑さも、2000個問題の1つだと思っています。各自治体にいろんな税金があり、その帳票の種類は何十万と多岐にわたっています。私自身これらが全て銀行で手作業によって処理されるのを見て、なんとかならないものかと調査をしたことがあります。結果的には自治体ごとに業務も違っていて、根拠となる条例も異なるため、どうしても波及する銀行業務の統一ができなかった苦い思い出があります。申請処理の電子化はサービス向上、行政の効率化など、市民の満足が高まるものとして何年も前から考えていますが、まだまだ課題が多く道半ばです。これらも含めた2000個問題を国会議員の先生方にも議論いただきたいと感じています。(梶浦先生)

2000個問題を解決する目的は、その先にある行政サービスのレベル向上にあると思っています。今これに必要なのは、電子化ということより、業務の効率化でしょう。文書や紙主体で行われていたことを単純に電子化するのではなく、「この業務はこうしたほうがいい」というような改善をコンサルティング企業と協力してやり始めています。こうした取り組みを地方で加速化させるためにも、効率化する必要があるのだといえます。(濱村先生)

 

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