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ジェネラルマインドを持つ小児科医を育てるために

ジェネラルマインドを持つ小児科医を育てるために
寺井 勝 先生

千葉市立海浜病院 小児科 、千葉市病院 前事業管理者

寺井 勝 先生

目次
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この記事の最終更新は2017年02月05日です。

記事1『小児救急領域における開業医と勤務医の新しい協働のカタチ』では、千葉市立海浜病院で行われている開業医と勤務医が協働した救急外来のかたちについてお話しいただきました。これは全国的に見ても珍しく、集約化が進む小児医療の現場において新しいモデルとして注目されつつあります。

今回は、千葉市立海浜病院の小児医療の特色について、引き続き寺井勝先生にお話を伺いました。

小児病棟から見える富士山 写真提供:千葉市立海浜病院

小児病棟から見える富士山(写真提供:千葉市立海浜病院)

 

現在(2017年5月時点)、千葉市立海浜病院は小児科医16名、新生児科医7名、合わせて23名の医師が市内の子どもたちに医療を提供しています。平均年齢も30歳代と若く、大変活気にあふれています。

千葉県内には小児科医の充実した病院は限られています。記事1『小児救急領域における開業医と勤務医の新しい協働のカタチ』で取り上げた小児科の救急外来の特色ある体制もあり、小児科医を目指す医師はもちろん、最近取り上げられるようになった「総合医」を目指す医師が小児科の研修に来られています。米国ではホスピタリストという総合医が中心に位置し、必要なときに循環器や感染症などの専門医にコンサルトする仕組みが浸透しています。日本のジェネラルホスピタルで働く小児科医は米国のホスピタリストに近い役割を担っているといえます。

(参考記事:総合医とは-「ホスピタリスト」とは?アメリカと日本の医療体制の違いと、日本の病院が抱える課題点

救急医療に特色のある当院は、日頃経験できないさまざまな病気の初期症状を学ぶ重要な場でもあります。同時に、子どもの貧困化、ひとり親の増加、さらには現代社会が生み出している子どもたちを取り巻く現実に向き合い、対応することも小児科医に求められます。

(参考記事:児童虐待の早期発見・介入のために)

日本では、小児病院がどこにでも整備され、小児科においても専門分化が進み乳児死亡率の低さも世界のトップクラスになりましたが、私が危惧しているのは、専門性を磨くことで「子どもの全身を診る」という小児科医の誇りが希薄になるのではないかということです。日本小児科学会でも「小児科医は子どもの総合医」であるというメッセージを強く打ち出しました。

戦後の日本は乳児死亡率が高い国でした。私が医師になったのは1978年ですが、人工心肺装置や人工呼吸器が十分に機能できなかったために、手術ができる年齢まで体重を増やそうと頑張りながらもやせ細ってしまい手術までたどり着けなかった心臓病の子どもたち、無菌室がなく感染症を併発、あるいは薬物の副作用に苦しむ急性白血病の子どもたちが、小児病棟には大勢あふれていました。そして、先天性心疾患や急性白血病の子どもたちの死亡診断書をたくさん書きました。当時は、子どもたちの命を救う、つまり「キュア」を目指した時代だったのです。

専門医制度の歴史的経緯から、小児科と内科では事情がかなり異なるのですが、小児科でも大学や子ども病院においてsubspecialty専門医が大勢育っています。

現行の専門医制度では、小児科医を目指す医師はまず小児科専門医資格を取得したのち、いわゆる「二階建て」といわれる循環器・感染症・神経・アレルギー・集中治療・血液・内分泌・腎臓・新生児などsubspecialty専門医の資格を得ることのできる仕組みになっています。たとえば、子どもの循環器の専門医としてスキルを高めることができれば、心臓病の子どもたちのキュアにつながっていきます。

この20年、小児科のsubspecialty専門医が急速に育っていった日本において、ジェネラルマインドを持った小児科医の育成が再び求められる時代になったと私は強く感じています。専門医制度がなかった時代の小児科医は全ての子どもたちを診ることが責務でありそれができた時代でした。小児の専門病院が整備され、小児科医が小児のsubspecialty専門医を目指したことで救命率が格段に向上しました。問題は、仕組みも医師のマインドも縦割りになり過ぎることで、迷子になる子どもたちが生じることです。つまり、ジェネラリティと専門性のバランスと連携が重要になってきます。

私たち小児科医は、命が助かった子どもたち、幼くてして障害と向き合う子どもたち、このような子どもたちを長くケアする時代に向き合っています。子どもたちを縦長にケアしていく移行期医療も今後ますます重要になってくると思います。

(参考記事:移行期医療の確立に重要なこと)

当院の小児救急医療の現場はsubspecialtyを持った小児科医であっても常日頃ジェネラルマインドを持つ小児科医として働いています。小児救急患者さんの数も多く、子どもの入院患者数は年間2,200〜2,300名にのぼります。救急外来の現場では、小児科医に代わって外科医が診ることの多い外因性の病気(けがなど)も小児科医が初期対応をすることになります。

また、記事1「小児救急領域における開業医と勤務医の新しい協働のカタチ 」で述べたように、地域で活躍するさまざまな経験や専門性をお持ちの開業医の先生との交流を深めながら成長できる環境にあります。開業医には小児内科だけでなく小児外科を専門とする先生もいらっしゃいます。これから専門性を高めたいと考えている若い小児科医にとって、救急医療の経験と医師会との交流は貴重なものになると感じています。

千葉市立海浜病院の飾り付け
保育士によるケア

現在、当院の小児科医は男女比が1:1ととてもバランスがよく、院内保育所の完備や千葉市よる短時間勤務制度の整備もあり、女性の医師にも働きやすい環境が整っています。出産したばかりの女性にも本人の希望に応じて、早めに復帰し、活躍できるようにしています。復帰直後は短時間常勤医として研修・診療の再開をしつつ子育ても行っています。これらはある程度医師の数が多くなければなし得ないことだと思っています。

これまで述べてきましたように、当院の小児科では若い医師や女性の医師も活躍し、地域の子どもたちの健康と成長を支えています。救急医療現場を経験でき、数多くの入院患者さんを担当することで、ジェネラルマインドを培うことができます。小児の循環器や神経、小児外科などの小児のsubspecialty専門医と連携した小児医療も経験することで、小児科医として大きく成長することができるでしょう。

「子どもの全身を診る」小児科医が育った当院では、子どもたちを縦長にケアする移行期医療も可能とするジェネラルホスピタルとしての使命があると思うのです。

そして、多くの小児科医を抱える社会的責務が新たに発生します。千葉市の子どもたちだけではなく、市外の過疎地の子どもたちにどのようにアウトリーチして支援していくか、予防医療を含めて、千葉市の小児医療の拠点病院として、10年後、20年後に必要な小児医療を見据えた準備を今からしていくことが求められています。

小児救急市民公開フォーラム(2017年11月11日@千葉)について詳しくはこちら

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