「成人先天性心疾患とは-生まれつきの心臓病をもちながら成人になること」では、移行期医療の重要性や成人先天性心疾患患者を取り巻く問題についてご説明しました。聖路加国際病院 心血管センター 特別顧問の丹羽公一郎先生は先天性心疾患の患者さんのために、早急に診療体制を確立したいという強い想いをもって尽力されています。今後の先天性心疾患における移行期医療の確立についてお話しいただきました。
先天性心疾患に限らず、がんや神経疾患などの慢性疾患をもつ小児の患者さんは、一般の小児に比べ多くの医療サービスを必要とします。移行期医療とは、それらの小児の患者さんが小児期から成人期にわたって継続的かつ良質な医療を受けられるように、小児期医療から成人期医療へ移行を達成することをいいます。この移行期医療を達成するには次のようなことが重要となります。
成人の診療科への転科の準備として、患者自身の自立を促す指導を患者自身の成熟度に合わせて行う必要があります。小児期では、病院に家族がついてきて、ご家族が医師と話すことが多く、その結果、患者自身が自分の病気のことや病名さえ知らずに過ごしてしまうことも少なくありません。20歳、30歳になっても親がついて来て診察室に一緒にはいるということもあるのです。しかし、成人になる過程で、患者自身が病気を受け入れ、責任をもつ必要があり、そのために、小児科医が患者さんやそのご家族に指導・教育を行います。女性患者では、妊娠・出産のときの注意点など、親ではなく自分自身が知らなくてはいけないことが多々あります。成人とみなす年齢に関しては、15歳、18歳、20歳など、国や施設により定義はさまざまですが、成人期医療に移行できる準備として患者自身への教育は重要です。
移行期から成人期医療においては、成人先天性心疾患を専門とする医師を中心として、循環器内科医と循環器小児科医が連携して診るという体制が望ましいと考えます。しかしながら、この2科だけの連携だけではなく、疾病自体の治療を直接担う(小児)心臓外科医や麻酔科医、出産においては産科医など、必要に応じて多くの診療科との連携が行われます。また、看護師、検査技師、臨床心理士などの多職種専門職の役割も大切です。チームとして協働することが重要になります。成人期の社会保障制度も重要な問題となりますので、ソーシャルワーカーなどの社会福祉の窓口も必要になります。
2012年に、成人先天性心疾患診療を行う循環器内科施設グループ「成人先天性心疾患循環器内科ネットワーク」を立ち上げ、現在全国の33施設で循環器内科医を中心とした成人先天性心疾患のチーム診療が開始されています。今後は都道府県に少なくとも1つか2つは設置できるようにしていきたいと考えています。
現在、日本心臓病学会や日本循環器学会という大きな2つの大きな心臓病に関する学会が成人先天性心疾患についての委員会を作り、学術集会でのセッションをもうけるようになったことで、ここ数年で多くの若い循環器内科医師がこの分野に興味をもってくれているように感じます。アメリカでは、成人先天性心疾患専門医制度が今年2015年に開始され、成人先天性心疾患を循環器内科や消化器内科専門医と同列に扱い、専門医育成に向けて進めています。日本でも成人先天性心疾患の患者数が増えていますので、この分野の専門医の育成が求められます。また、特定看護師のように、成人先天性心疾患に関わる専門的な知識を有する専門看護師を認定してくことも重要となってくるのではないでしょうか。
千葉市立海浜病院 循環器内科
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