インタビュー

先天性心疾患は遺伝するのか-成人先天性心疾患と遺伝・妊娠・出産

先天性心疾患は遺伝するのか-成人先天性心疾患と遺伝・妊娠・出産
丹羽 公一郎 先生

千葉市立海浜病院 循環器内科

丹羽 公一郎 先生

前の記事「心臓病と付き合う-小児期から生まれつきの心臓病について知ることの重要性」で、小児期医療の進歩の恩恵を受け、先天性心疾患の患者さんが成人を迎えるようになってきたということをご説明しました。成人先天性心疾患患者の半数が女性ですので、妊娠・出産を望まれる方も多くいます。本記事では、成人先天性心疾患と遺伝・妊娠・出産について、聖路加国際病院 心血管センター 特別顧問の丹羽公一郎先生にお話しいただきました。

成人先天性心疾患と遺伝

妊娠・出産を望む患者さんの多くは、こどもに遺伝するのではないかという不安をもたれます。しかし、先天性心疾患の成因がわかっているものは少ないのが現状です。現時点でわかっている成因は次のとおりです。

  • 染色体異常 8%
  • 単一遺伝子病(単一の遺伝子によって決まる遺伝性疾患) 2%
  • 環境因子 5%
  • 多因子遺伝(原因不明、遺伝と環境因子の相互作用) 85%

多くの場合、多因子遺伝、遺伝と環境因子の相互作用で起こると考えられています。そのため、お子さんが先天性心疾患になる確率は、患者さんのお子さんの2人に1人が先天性心疾患をもつというほど高くはなく、一般の頻度よりも心疾患をもって生まれる確率が数%高くなるというものです。先天性心疾患の種類によって多少の差があり、性差や人種差もあります。心疾患の状態によって異なりますが、先天性心疾患患者が妊娠・出産ができないということは少ないので、医師と相談して妊娠・出産を検討されるとよいでしょう。

成人先天性心疾患と妊娠・出産

先天性心疾患の2人に1人が女性ですので、妊娠・出産は成人先天性心疾患患者において重要な問題になります。この場合、妊娠・出産には注意が必要ですが、9割の方が出産できます。妊娠・出産はご本人にとっての重要なイベントですので、最終的にはご本人が決めることではありますが、たとえば肺高血圧疾患は母体死亡率が30%ありますので、出産を勧めないことが一般的です。

また、心不全(心臓の働きが非常に悪い状態)の場合は、妊娠を契機に心不全が悪化します。マルファン症候群(大動脈の高度の拡張)では、妊娠時に血管が破裂する可能性があります。マルファン症候群で大動脈の高度拡張がある場合は妊娠・出産前に外科的な治療を行います。また、機械弁置換術をおこなっている場合は、血栓予防のため、血液が固まらないようにするワーファリンという薬を飲む必要があります。ただし、ワーファリンは妊娠中に服用すると、胎児に奇形を起こす確率が高くなるため、ワーファリンの中止などのコントロールが必要になります。しかしその影響で、母体死亡の可能性が少なからず出てきますので、妊娠をお勧めしにくい場合もあります。

近年は、妊娠・出産の高年齢化がみられていますが、先天性心疾患の女性は、一般の女性よりも子どもを持ちたいという希望が強いことが多くあります。しかし、母親が亡くなってしまった場合や、もし妊娠・出産によって亡くならないまでも母親が子育てできる状態でなくなってしまった場合、誰が生まれたこどもを育てるかという問題が起こる可能性があります。そのような可能性のある疾患では、これらのことも含めて相談し、妊娠出産をすすめるか決めていきます。

妊娠・出産・育児で求められるのは、病院の連携や家族のサポート

聖路加国際病院では、先天性心疾患の女性が妊娠を望まれる場合は、産科と循環器内科で併診(複数の診療科で診療すること)します。たとえば、妊娠中の心臓の状態や出産方法など、産科との連携が重要になります。また、帝王切開を選択した場合には麻酔科、早産となれば新生児科など、さまざまな診療科と連携する必要が出てきます。ほかにも、妊娠中は精神的に不安定になる時期ですので、精神科や看護師、臨床心理士などの多職種とも連携します。

出産後の育児では、家族のサポートが非常に重要になります。心疾患の患者さんは一般の方よりも疲れやすく、日々の育児のなかで心不全の症状が出たりする場合があります。その場合、患者さんの母親や旦那さんなどのご家族のサポートが得られる環境であるというのは非常に重要です。特に実の母親のサポートは、遠慮なく頼めるという点でも大切です。

妊娠・出産が心臓に及ぼす影響

前述したとおり、肺高血圧疾患など、妊娠・出産時に危険をともなう疾患はわかってきました。しかし、妊娠・出産時に低下した心臓の働きが、出産後は回復するかどうかに関してはわかっていないこともあります。一般の方では、1ヶ月程度で心臓の働きは回復しますが、先天性心疾患の患者さんでは半年続く場合や、場合によっては回復しない場合もあります。今後、長期的に経過をみて、妊娠・出産が心臓に及ぼす影響を検討していく必要があります。ただし、先天性心疾患の患者さんの妊娠・出産にはさまざまなリスクが伴いますが、周囲のサポートがあれば、妊娠・出産ができないことはないというのは強くお伝えしたいと思います。以前考えられていたように心臓病の方は、出産ができない、ということはありません。