インタビュー

成人先天性心疾患とは-生まれつきの心臓病をもちながら成人になること

成人先天性心疾患とは-生まれつきの心臓病をもちながら成人になること
丹羽 公一郎 先生

千葉市立海浜病院 循環器内科

丹羽 公一郎 先生

成人先天性心疾患(Adult Congenital Heart Disease・ACHD)という言葉をご存知でしょうか。成人先天性心疾患は、生まれつきの心臓病を抱えながら成人になった方のことをいいます。小児科医療の発達の恩恵により、小児期に心臓病で亡くなる方は減り、多くのこどもが成人へと成長することができるようになりました。一方、生まれつきの心臓病を抱えたこどもが成人へと成長する過程で出てくる課題も少なくありません。聖路加国際病院 心血管センター 特別顧問の丹羽公一郎先生は、この課題に対して先進しているアメリカでの留学経験をもとに、成人先天性心疾患診療の必要性と診療教育体制の確立に向けて尽力されています。移行期医療の重要性と成人先天性心疾患診療の必要性についてお話しいただきました。

移行期医療とは

近年の小児期医療の発展の恩恵を受け、多くの命が救われてきました。その結果、がんや心疾患・神経の病気などの慢性疾患を抱えながらも思春期・成人期を迎えられる患者さんが増えてきています。しかしながら、小児と成人では直面する問題が異なるため、提供される医療も患者さんの年齢とともに小児期から成人期へと移行する必要があります。つまり、生涯にわたる観察と管理・治療が必要となります。

しかしながら、移行期医療は専門性が求められるため、一般の病院で受け入れることができないケースもあります。その場合、小児期を診ていた小児科医は、成人となったその患者さんをどの病院に紹介するべきか、小児の病院に通わせ続けるべきなのかなど、移行期医療の診療体制が構築されていないため起こってしまう課題があります。移行期医療は、日本小児科学会や日本医学会総会でも取り上げられ、早期に解決すべき課題といえます。先天性心疾患は移行期医療のモデルケースとして挙げられており、以後、先天性心疾患について述べていきます。

成人先天性心疾患とは

先天性心疾患は生まれつきの心臓病で、その多くは、新生児、乳児期あるいは小児期に発見されて治療を受けます。最近では胎児期に診断される場合もあります。以前は先天性心疾患のほとんどは、こどもの病気と考えられてきました。しかし、心臓外科手術治療の発達、内科治療の進歩によって先天性心疾患のこどもの90%は思春期、成人期を迎えられることが可能になってきているため、現在は成人患者のほうが小児より多くなっています。

成人先天性心疾患の頻度

先天性心疾患は人種や国による発生頻度に大きな差はなく、100人に1人の確率で起こるとされています。一方で、小児期の治療により、90%が思春期、成人期を迎えることができます。現在、日本には45万人の成人先天性心疾患の患者さんがおり、毎年約9,000人ずつ増えていくと推測されています。この45万人という数字は、一年間の心筋梗塞の発症者と同程度ですので、非常に患者数の多い分野といえます。

成人先天性心疾患という領域が求められる背景

先天性心疾患は、小児科のなかでも専門性が求められるため、小児循環器の医師が中心となって診ています。しかしながら、小児期と成人期では起こる問題が異なるため、成人となった先天性心疾患患者を小児循環器の医師が診るというのは難しく、これは小児科医が内科の患者さんを診ることと同様です。成人期ならではの問題は、たとえば、心不全や不整脈、妊娠・出産などです。また胃潰瘍や胆石などの年齢を重ねるごとに出てくる消化器疾患の合併などは、小児期には問題とならなかったものですので、小児科医ではほとんど診ることがありません。つまり、成人期の問題(疾患)を抱えている成人先天性心疾患を小児科医だけで診るのは難しい場合が多いのです。

それでは、成人患者を中心に診ている循環器内科医が診るといいのではないかと思われるかもしれません。しかし、循環器内科医は高齢者の循環器疾患(心筋梗塞や大動脈が拡張して破裂する疾患、不整脈など)を多く診ており、生まれつきの異常を伴う心臓病を診ることがありません。つまり、循環器内科医も成人の先天性心疾患の患者さんを専門としていないため、診ることが難しい場合があるのです。

そこで課題となったのが、成人の先天性心疾患患者の診療体制が整っていないということでした。医師だけではなく患者自身も、どの病院で診てもらえるのかという不安を持つことになるでしょう。たとえば、小児の心臓の手術は小児の病院で行われることが多いため、その後の経過も小児の病院で診ていくことになります。しかし成人となった先天性心疾患患者さんにとっては、小児の病院に通うことはあまり居心地がよいとはいえません。成人を専門とする外科・血液科・内分泌科などすべての領域で総合的に診られるような施設を今後つくっていく必要があります。(参照:「移行期医療の確立に重要なこと」