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医療ビッグデータは4つの性質に分けられる-医療従事者に賢くデータを利用してほしい

医療ビッグデータは4つの性質に分けられる-医療従事者に賢くデータを利用してほしい
濱村 進 さん

衆議院議員 公明党ICT社会推進本部事務局次長、新産業委員会委員長

濱村 進 さん

この記事の最終更新は2017年05月17日です。

来たる2025年問題に対応するため、現在政府は健康・医療戦略において「健康・医療・介護分野におけるICT化」を推進しています。この実現のためには、国が中心となり必要なデータベースやシステムを構築することに加え、利用者がデータの性質と種類を理解し、賢く利活用することが重要です。公明党ICT(情報通信技術)社会推進本部新産業委員会・委員長の濱村進先生は、国民の健康のために医療データを最初に利用するのは、おそらく医療従事者であろうとおっしゃいます。

本記事では、情報を利用する医療者や病院経営者が知っておきたい医療データの性質とそれぞれの整備状況について、濱村先生にお話しいただきました。

医療・介護のパラダイムシフト

ICT・AI等を活用した医療・介護のパラダイムシフト 出典:「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律案について」内閣官房健康・医療戦略室 資料提供:濱村進先生

記事1 『医療データの性質を考える-整理されていないビッグデータは莫大な情報のゴミとなりかねない』では、上記パラダイムシフトに記載されている医療データは、その性質により3分類できると述べました。

(1)先を見据えて収集・蓄積されるデータ(赤色のエリア)、

(2)実際の診療現場で即座に役立つデータ(青色のエリア)、

(3)巡り巡って患者に還元される、医療分野の研究開発に資するデータ(緑色のエリア)

本項では、内閣官房健康・医療戦略室により、(3)のエリアに新たに設けられた「認定匿名加工医療情報作成事業者の実現」について解説します。

現行法では、製薬会社や研究機関が創薬や研究を目的として匿名加工された医療データを使用する場合、匿名加工事業者ではなく、医療データを保有する医療機関等から直接、データを受け取る必要があります。

匿名加工医療情報の提供の仕組み

現行法で可能な匿名加工医療情報の提供の仕組み 出典:「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律案について」内閣官房健康・医療戦略室 資料提供:濱村進先生

しかし、この場合には申請を受けた医療機関等(図中では医療機関等C)が情報利用者の申し出を解釈し、その医療データが本当に必要かどうか、両者で合意を形成しなければならないという問題が発生します。

つまり、情報利用者がデータを用いて本当に行いたいこと(研究など)を、医療機関等の合意を得られないがために行えないケースもあるというわけです。

そこで現在、医療機関等から委託を受けた認定匿名加工事業者が、医療機関等を挟むことなく情報利用者に匿名加工した情報を提供できる仕組みを作るための法案が出されています。

匿名加工医療情報の仕組み

匿名加工医療情報の円滑かつ構成なり活用の仕組みの整備(新法案のイメージ) 出典:「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律案について」内閣官房健康・医療戦略室 資料提供:濱村進先生

これにより、製薬会社や研究機関などの創造性や自由度は高まり、新薬や新規医療機器の開発が活性化すると考えられます。また、図中にもあるように、未知の副作用の発見といったデータ利活用成果も得られることが期待されています。

もちろん、情報利用者が受け取る医療データは、個人を識別できないよう認定事業者により匿名加工されるため、医療機関等を受診した患者さんの個人情報は守られます。

そのため、ここで扱われている医療データとは、先述した「診療現場で即座に役立つもの」とは異なる性質のデータということになります。

医療データの利活用は、日本の産業として大きく飛躍できる可能性を持つものです。したがって、医療機関等の保有する医療データをより効果的に産業界に出していくための環境を整えることは、国の責務であると考えます。

また、今後は情報共有により医療の質の向上が図られていく時代となるため、必要な情報を外部に積極的に提供する病院こそが、信頼を得られる病院として生き残っていくと考えられます。

「ICT・AI等を活用した医療・介護のパラダイムシフト」の最下部には、「介護保険総合データベースの抜本的改革」という目標が掲げられています。

介護保険総合データベース(以下、介護DB)とは、介護保険法に基づき、介護レセプトデータや要介護認定データなどを電子情報化して収集したデータベースです。

これまで、介護DBの分類は精緻には行われておらず、質の高い介護サービスを提供するために必要な情報もデータ化されていませんでした。

たとえば、通所介護におけるケアの計画で、自立支援を念頭に入れているのかといった意思の有無は、データとして管理されているわけではありません。要介助者の意思によって介護施設が提供するサービス内容は変わりますが、介護の現場ではこういった情報がデータ化されていないために、引き継ぐことができないといった問題が起こっています。同様の理由から、今後はケア内容のデータベース化も必要でしょう。

介護DBに関しては、情報管理項目の精緻化と、よりよいデータベースを構築するための工夫がなされねばなりません。

介護施設

以上が第2回未来投資会議で提示された工程表に記されているデータの性質と現状です。医療に関するデータは多種多様であり、性質を整理して語らねば、一体どのようなデータの話を進めているのかがわからなくなってしまいます。そのため、ここまでに行ってきた性質の整理は不可欠なのです。私は上述した3つのデータに加え、「健康づくりのデータ」という性質区分も必要なのではないかと考えています。

本項で解説する健康づくりのデータは、「ICT・AI等を活用した医療・介護のパラダイムシフト」には記されていないデータです。

工程表に記されているデータは、既に病気になってしまった方や、今現在介護を必要としている方に還元されるものであり、病気になる一歩手前の方に還元できる「健康づくりのデータ」の記載はありません。

工程表には記載がないからといって何もやっていないかというとそうではなく、この分野は経済産業省商務情報政策局ヘルスケア産業課が中心となって、意欲的に推進されています。

健康づくりとは、医療や介護とは規制の度合いが異なる産業化しやすい分野です。

たとえば、心拍数を測るデバイスや歩数を計測するヘルスケアアプリなどによるデータの管理が民間で進められています。

健康づくりのデータの利活用に関して特に進展が著しい分野は、健康保険組合が中心となり進めている糖尿病予防事業です。

糖尿病予防事業が先陣を切って行われている理由は、血液検査によってHbA1C(ヘモグロビン・エーワンシー)値をみることで血糖値の高低がわかるといったように、「病気になる一歩手前」の状態が数値としてみえるためでしょう。

前項では糖尿病予防事業を例に挙げましたが、現時点では様々な組織・事業体が独自の事業を行っているため、健康づくりのデータも一体的に管理できる状況ではありません。

国としては、どのような組織が主体となり、どういった事業を行っているのかを把握し、整理しているところです。

2記事にわたり整理してきた医療データの性質をまとめると、以下のように4分類することができます。

(1)将来的に利活用するため、先を見据えて収集するデータ:AIを用いた診療支援などに活用できる

(2)実際の診療現場で即座に役立つデータ:医療等IDや医療連携ネットワークにより適切な診療・サポートのために活用できる

(3)巡り巡って患者に還元される、医療分野の研究開発に資するデータ:産官学が創薬や研究など多様な目的で、健康や医療、介護データを活用できる

(4)健康づくりのためのデータ:病気や要介護状態になる前の人を対象とし、予防のために活用できる

記事1 『医療データの性質を考える-整理されていないビッグデータは莫大な情報のゴミとなりかねない』でも述べたように、整理されていないビッグデータは有効に活用できないゴミとなってしまいかねません。ですから、読者の皆さんにも、国は上記の4本柱で医療データの利活用に関する事業を進めていく方針を立てていることを知っていただきたいと願っています。

デジタル社会においては、データを利用する側の方々も、より賢く情報を利用できるよう、その種類と性質を明確に意識していただく必要があります。

医療介護ICTが本格稼働した際に、最初に医療データを利用することになるのは、おそらく医師や看護師などの医療従事者や介護従事者であると考えられます。

その次に周辺産業に携わる方々が新薬の開発や医療機器の製造のためにデータを利用し、第三段階になってはじめて医療従事者を通じて患者(国民)へと情報が提供されます。

収集・蓄積され、利活用される医療データは国民のためのものであるということを大前提とし、そのうえで、まずは医療従事者の方々に「医療データには一体どのような性質のものがあるのか」を知っていただきたいとお伝えしたいです。