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医師の説明を理解し、質問するために-「聞いていない」を減らしていこう

医師の説明を理解し、質問するために-「聞いていない」を減らしていこう
山口 育子 さん

NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)理事長

山口 育子 さん

この記事の最終更新は2017年05月24日です。

患者に病状や治療方針などを説明し、理解と合意を得るインフォームド・コンセントは、患者の権利に基づき生まれた概念です。ところが、日本ではインフォームド・コンセントが「説明と同意」と訳されており、患者が十分に理解したかどうかの確認は見落とされていることもあります。医療現場で用いられる言葉や説明内容は非常に難しいため、正しい情報共有のためには医療者と患者双方の努力が必要です。将来、自分や家族が病気になったときのために、私たちはどのような練習をしておけばよいのでしょうか。また、患者の理解を助けるために、主治医や研修医、看護師など、周囲の医療者にはどのような行動が求められるのでしょうか。認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOML(コムル)の理事長・山口育子さんにお話を伺いました。

インフォームド・コンセントという言葉が日本で謳われ始めたのは、COML(コムル)が発足した1990年頃のことです。現在の医療現場ではすっかり定着したかにみえるインフォームド・コンセント。ところが、COMLが受ける相談内容の多くは、「主治医による十分な説明の時間はあった」「しかし、いざ治療が始まると聞いていないと感じることが多い」というもので占められています。

まずは、このような事態が起こる原因を考察してみましょう。

患者と医師が部屋で話し合っているようす

インフォームド・コンセントとは、「患者の権利」としてアメリカで生まれた概念です。患者には、自分が望めば病状などの情報を聞く権利がある。-このような意味合いを持つ言葉が、本来のインフォームド・コンセントなのです。

ところが、日本ではインフォームド・コンセントが「説明と同意」と訳されて定着したため、説明を行うことがインフォームド・コンセントであると思われている医療者も少なくはありません。また、患者の同意をとることを第一義と捉えている医療者もいるようです。

上記のような考え方に基づき行われる説明は、医師が必要だと考える情報のみに偏ったものになってしまいます。つまり、日本で行われているインフォームド・コンセントは、「一方通行の情報提供」となってしまっているのです。

本来の考え方に立ち返り考察すると、インフォームド・コンセントには、以下4つのプロセスが内包されていると捉えることができます。

  1. 医師による説明
  2. 患者の理解
  3. 患者の選択
  4. 医師と患者の同意

つまり、医師と患者にはそれぞれに責務があるということです。ところが、日本ではインフォームド・コンセントから、「理解と選択」という患者の責務が抜け落ちてしまっています。

説明を受けた側が理解にたどり着くことができなければ、それは聞いていないことと同じになってしまいます。また、説明を受けて納得できなかった場合、納得するまでコミュニケーションをとるのではなく、短絡的に不信感を抱くに終わってしまう患者が多いことも事実です。

インフォームド・コンセントが定着した現代においても説明不足が問題視される理由は、このような医師と患者の間のズレにあると考えています。

しかしながら、医療の世界の専門用語は難しく、その場で医師の説明を理解し、不明点を言語化して質問することは、突然病気を突きつけられた患者にとっては困難です。

医師との会話は、日常に生じうるコミュニケーションのなかでも最も難易度の高いもののひとつです。そのため、私は常日頃から心の内に生じた疑問を見過ごさず、質問をする練習を積み重ねておくことをおすすめします。

たとえば、イタリアンレストランで出されたメニューに馴染みのない名前の料理が並んでいたとしましょう。このとき、多くの日本人は以前注文したことがある料理など、知っている言葉を探して選ぶ傾向がありますが、これは勿体ない行為です。尋ねるという行為は、決して恥ずかしい行為ではありません。わからないものがあったときこそ「チャンス」と捉え、積極的に質問の練習をしていきましょう。

洋食店で店員に何か尋ねている客

説明を受けた後には、医師の言葉を正しく理解できたのか、自分の認識に誤りがないかを確認するために、自らの言葉に置き換えて口にすることも大切です。

医療者と患者の会話では、同じ言葉を使っていてもその意味合いが大きく乖離してしまうことがあります。

具体例をあげてみましょう。医師に「この抗がん剤は比較的効く」と説明されたとき、皆さんはどの程度の効果が得られると思われますか。

医師は3割程度の確率で腫瘍の縮小を期待できる場合、「比較的効く」という言葉を使いますが、一般の方に上記の質問をすると、大半の方は「8~9割の確率で腫瘍が消失するとイメージした」と回答されます。

医師の話を理解できたと自分の頭の中で結論づけることなく、「私はこのように理解しましたが、この認識は合っていますか」と確認することで、双方のイメージのギャップに気づくことができ、より正確な情報を共有することができるのです。

看護師が患者と話しているようす

また、多くの患者は、インフォームド・コンセントの場で理解した素振りをしてしまう傾向があります。なぜなら、頷かなければ話は先へと進んでいかないからです。

ですから、病室に戻り冷静になった患者に対し、周囲の看護師や研修医が「今日先生から大切な説明がありましたが、どのようなイメージを持たれましたか?」と、理解のすり合わせを手伝うことも重要です。このわずか数十秒の確認の言葉で、患者の認識や思い込み、理解が不足している部分を把握することができます。

現在の日本には、一般の人が医療リテラシーを高める機会がほとんどありません。また、病院のかかり方自体がわからないという人も沢山います。

2014年、私は大阪市立大学で400~500名の大学生を対象に、賢い医療の受け方をお伝えする講義を実施しました。20歳前後の健康な学生に興味を抱いてもらうために、自身が25歳で卵巣がんを発症した経験を話し、誰もが突然大きな選択を迫られることがあるというメッセージを発信しました。

その際にいただいた感想文のなかでも目立ったものは、「子どもの頃から今に至るまで、受診するときは親が病院についてきた。これから先一人で病院を受診することになったらどうすればいいかわからない」というものです。

記事1『医師と上手に付き合うには?いのちの主人公は患者自身、病気は自分の持ち物』でも述べた通り、人は急に「賢い患者」になることはできません。ところが、日本の学校では性教育やドラッグによる健康被害などは教えるものの、病院のかかり方について教える機会はありません。しかし、生きている以上、誰もが予期せず医療にお世話になる可能性を持っています。

いざというときに途方に暮れないためには、小さな頃から医療や病院について一定の知識を持っておくことが大切だと考え、COMLでは子ども向けのワークショップを行っています。

子どもと小児科医

子どもに対するワークショップでは、大人が教えるのではなく、子どもの意見を引き出すことを重視しています。保護者には輪の外から見守ってもらい、後ほど子どもたちの発言について親同士でディスカッションします。

参加者の親子には、着実によい変化がみられています。

発熱したお子さんが、「勉強したから自分でお医者さんに症状を伝えるんだ!」とご自宅で主訴の伝え方を練習され、小児科医もきちんと耳を傾けて聞いてくれたというお手紙をいただいたこともあります。また、「お母さんが伝えるよりも、私がお医者さんに症状を伝えたほうが正しく伝わるかもしれない」と発言された小学生のお子さんもいました。

体や心の変化に自分で気づき、自ら考えて選択する能力を養うには、上述したように子どもの主体性を引き出して尊重していくことが重要です。

子どもの頃から医療について主体的に考え、選択していく習慣を身につけることは、自分が病気になったときだけに役立つわけではありません。

日本はこれから未曾有の超高齢化社会を迎えます。若い世代の方に自分や周囲の方を支える基礎力がなければ、社会は活力を失い、先細っていくばかりでしょう。

また、十数年後には妊婦健診時の血液検査により胎児の遺伝子情報も高い精度でわかるようになるといわれています。つまり、これまで自分が直面してこなかった障害や病気に、真剣に向き合う若い方が増える可能性もあるということです。

このようなときに冷静さを保って考え、医師とやり取りしながら命をつないでいくためにも、子どもの頃から医療リテラシーを高め、コミュニケーション能力を養っていくことは重要だと考えるのです。

 

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