小腸は、私たちの生命活動に欠かせない働きを持つ消化管です。小腸はこれまで、その複雑な内壁構造から、検査と治療が非常に難しい臓器と認識されていました。小腸はどのような臓器で、なぜ小腸疾患の検査・治療は難しいのでしょうか。ダブルバルーン内視鏡の開発者である自治医科大学の山本博徳先生にお話を伺いました。
消化管とは、口腔から始まり食道、胃、十二指腸、小腸、大腸と、肛門までつながる一連の臓器をさします。
消化管は、食べたものを消化し栄養を吸収することで、体の構成成分や活動エネルギーに変換する機能を担っており、そのほとんどが小腸で行われます。また胃・大腸など消化管の他臓器は、病気の治療ですべて摘出しても生命維持機能には支障ありませんが、小腸の場合はすべて摘出すると生命維持が困難になります。このような理由から、小腸は消化管のなかで中心的な役割を担う、非常に重要な臓器といえます。
小腸内壁は絨毛(じゅうもう:粘膜全面に生えた突起)に覆われており、テニスコート一面分ほどの表面積があります。小腸に絨毛があることで、非常に効率よく食べ物を消化し栄養を吸収することができるのです。
通常、夕食で食べたものは翌朝までに小腸で消化され、栄養の吸収を終えて大腸に到達します。食べたものが便として体外に排出されるまでには数日かかることもありますが、これは小腸で栄養吸収を終えた残りカス(不消化物)が大腸で留まっているためです。このように小腸は、数時間のうちに食べたものを消化し栄養吸収を可能にする、非常に効率のよい消化機能を持っています。
人間の体において、ほとんどの外からの異物は消化器もしくは呼吸器で受け入れます。そのため小腸は高い免疫機能を備えて、外から体内に入ってきた異物(細菌、ウイルス、化学物質など)から体を守っています。
小腸は前述のように非常に重要な機能を持っている器官ですが、小腸に起こる疾患は少ないとされてきました。しかし小腸は非常に長く曲がりくねった構造をしており、口からも肛門からも遠い臓器であるため内視鏡による検査が難しい臓器でもあります。つまり、小腸に起こる疾患は従来考えられていたほど少ないのではなく、見過ごされてきた可能性が大いに考えられるのです。
2000年以前には、当院においても小腸の内視鏡検査の実施数は年間に1〜2件ほどと非常に少なかったのですが、2000年に我々がダブルバルーン内視鏡を開発してから小腸検査の精度が格段に向上し、2017年現在、年間400件ほどの検査を行っています(ダブルバルーン内視鏡の詳細については後述します)。ダブルバルーン内視鏡によって、それまでは小腸の疾患と診断がつかなかったケースについても早期に診断・治療を行うことが可能になりました。詳しい検査・治療の方法については記事2『ダブルバルーン内視鏡によって進歩した小腸疾患の検査方法・治療について』でご紹介します。
自治医科大学 内科学講座消化器内科学部門 教授
自治医科大学 内科学講座消化器内科学部門 教授
日本内科学会 内科指導医日本消化器病学会 消化器病指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡指導医
1984年、自治医科大学卒業。卒業後高知県で地域医療に従事。1990年、米国メイヨークリニック、テキサス大学に臨床留学。自治医科大学教授、シンガポール国立大学客員教授、自治医科大学附属病院消化器センターのセンター長などを経て、2014年より現職。ダブルバルーン内視鏡及びヒアルロン酸ナトリウムを用いた内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の開発者である。ダブルバルーン内視鏡によって、それまで非常に難しかった小腸の検査、治療が可能になった。この先進技術は、その有効性によって現在70か国に普及している。
山本 博徳 先生の所属医療機関
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