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急増する外国人患者を地域の医療機関が受け入れるために-多言語対応と医療費未収対策

急増する外国人患者を地域の医療機関が受け入れるために-多言語対応と医療費未収対策
近藤 太郎 先生

近藤医院 院長、公益社団法人東京都医師会 顧問

近藤 太郎 先生

観光立国の実現を目指す政府は、2020年の訪日外国人旅行者を4000万人とする目標を打ち立てています。昨年2016年には訪日外国人客数が過去最高の2400万人を突破し、東京都に訪れる旅行客も1300万人を超えました。このうち約2~4%は、体調不良や怪我により都内の医療機関を受診したと推計されています。しかしながら、地域の診療所や薬局の多くは外国人患者を受け入れる準備が整っておらず、多くの患者さんは軽症であっても大病院を受診しています。言葉の壁や医療費未収リスクが懸念される中で、急増する外国人患者に対応していくために、行政や医療サイドはどのような仕組みを作る必要があるのでしょうか。東京都医師会顧問の近藤太郎先生にお伺いしました。

浅草寺

東京都は2019年にラグビーワールドカップ日本大会、2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催を控えています。また、国をあげたビジット・ジャパン・キャンペーンも軌道に乗り、日本を訪れる外国人旅行者数は急激に増加しています。

このような背景から、外国人旅行者が東京都内で医療を受ける機会も急増すると予想されるため、東京都医師会では、外国人患者対応のための部署を新設しました。議論を重ね始めてから3年目に入り、ようやく問題克服のための具体的な構想が見え始めています。去る2016年12月には、小池都知事に外国人への医療機関の受診方法等を周知する必要があるとの要望を提出しました。

本記事では、東京都における外国人患者対応の現状と課題、構築すべき仕組みや制度についてお話しします。

日本で医療を受ける外国人は、以下のように三大別されます。

(1)在留外国人患者

(2)訪日中に治療が必要になった訪日外国人患者(観光客など)

(3)日本で医療を受けることを目的として訪日した外国人患者(医療ツーリズム)

このなかでも、近年の東京都ではとりわけ(2)の訪日外国人患者の増加が目立っています。

日本政府観光局の発表によると、2016年に日本を訪れた外国人客数の推計値は約2400万人と過去最高記録を更新しています。このうち、東京都を訪れた外国人は約1300万人にのぼると推計されます。

2015年の訪日外国人客数は約1974万人と発表されており、うち約1189万人が東京に来訪した(もしくは宿泊した)といわれています。

このうち、何らかの治療が必要となり、東京都内の医療機関を受診する人の割合は約2~4%です。仮に約4%が医療機関を受診したとすると、その人数は年間約45万人(2015年)となり、1日あたりおよそ1300人の外国人が都内のいずれかの医療機関に足を運んでいたということになります。

では、このように多くの外国人患者は、どのような医療機関を受診していたのでしょうか。

体調不良

世界で最も知られているガイドブックの日本版”lonely planet Japan”のなかには、「クリニックよりも大学病院や大病院のほうが、よりよい治療を受けられる」、「日本の医師や病院は、時として外国人旅行客の治療に消極的である」(※意訳)といった記述がみられます。

実際に日本の診療所では外国人患者を受け入れるための準備が整っているとはいえず、多くの外国人患者は軽症でも大学病院を受診している実態があります。

具体例を挙げてみましょう。東京大学医学部附属病院国際診療部を受診した外国人患者のうち、風邪や腹痛などで受療した軽症患者の割合は、約7割を占めています。また、その大半は観光客であるため、日中は観光を楽しみ、夜間に救急車に乗って病院を受診される方が多いという問題点が挙げられます。

本来地域の診療所が診るべき軽症患者に積極的に対応することができない理由は、大きく2つ挙げられます。

【医療機関における重要な課題】

・多言語対応

・医療費未収対策

医療機関を受診する外国人患者は、受付・診療・(検査)・会計・処方箋薬局での薬の受け取りといったすべての工程において、「言葉の壁」というハードルを乗り越えねばなりません。外国人患者の受け入れに不慣れな医療機関や薬局側にとってもこれは同様であり、医療事務作業や対応にかかる労力は、通常の診療に支障をきたすほど大きなものとなります。

また、日本は国民皆保険制度が敷かれた国であるため、医療機関は保険証を持たない患者さんを積極的に診ようとしない(※通常の外来診療とは異なるため)という姿勢になりがちです。

しかしながら、冒頭で述べた通り東京都を訪れる訪日外国人は増加の一途を辿っており、今後は地域の診療所や歯科診療所、薬局で軽症の方ならば対応するべきであると考えます。

上述した課題への対策を地域の各医療機関に一任することには無理があります。会計事務ひとつをとっても、事務作業を軽減化させる仕組みが作られなければ、小さな診療所の運営には支障が生じてしまうでしょう。

そのため、東京都医師会として、東京都保健医療計画(東京都福祉保健局)における事業に外国人医療を入れることを要望し、事業として取り組むこととなりました。これにより医療機関のみならず関連する団体すべてが手を携えて柔軟に対応・連携できる仕組み作りがやりやすくなると考えています。

前項では会計事務に触れましたが、ひとりの外国人旅行者の受付から薬剤処方までには、日本人患者とは異なる様々な事務作業が発生します。

パスポートや連絡先、支払い方法の確認はもちろんのこと、一人ひとりの患者さんが一時滞在先である日本で「どこまでの医療を求めているのか」といった意向も確認する必要があります。

これらの確認と伝達を現場が混乱することなく実践できるよう、訪日外国人旅行者を受け入れるための医療事務マニュアルを整備し、各医療機関に啓発していくことが必要だと考えます。

医療通訳士の派遣や電話通訳などを行う医療通訳会社との契約は、医療機関ごとではなく、地区医師会単位で集合契約することが望ましいと考えます。予防接種を行うための保健所との契約も、その地域の地区医師会が取りまとめて契約しているようにです。

これにより、受付のスタッフや看護師、医師、歯科医師、薬剤師など、医療従事者が電話通訳サービスなどを利用しながら、外国人患者に対応することができるようになるでしょう。

また、医療通訳の確保にもコストがかかるため、必要に応じてスマートフォンやタブレット端末の通訳アプリを用いるといったことも必要になるでしょう。

たとえば、”VoiceTra”や”Google翻訳”といったアプリケーションによる翻訳は、完璧とはいえないものの診療の現場でも十分に役立ちます。

外国人患者の対応時には、多言語対応のほかに医療費未収問題が大きな課題となります。軽症患者を地域の医療機関でみていく地盤を作るためには、医療費を一旦支払ってもらい、その後の諸手続きは患者さんにしていただくことが現実的だと思います。尚、この案は患者さんが軽症であり、医療費がさほど高額にならない(全額負担できる範囲に留まる)ことを前提としています。

このほか、会計後の事務作業を外部の専門機関に委託できる仕組みや、未収発生時に利用できる補償制度の整備も必要です。

東京都が運営する医療機関案内サービス「ひまわり」の英語版WEBサイトでは、16の言語ごとに対応できる都内の医療機関の所在地地図や電話番号を紹介しています。

スマートフォンやタブレットから閲覧できる「ひまわり」を周知するとともに、軽症外国人患者の院外処方箋に対応できる薬局も、同じ地図上に表示されるよう改修していただきたいと考えています。

これらの本格稼働の前には、挙手制で地域の医療機関や薬局の協力を募り、試行実施と結果検証を行うといった段階を踏む必要があります。

また、連携して外国人医療の事業化を進める団体とは、各地区の医師会や歯科医師会、薬剤師会や東京都福祉保健局、都立病院を管轄する東京都病院経営本部だけではありません。

東京消防庁や東京都看護協会などとの連携はもちろん、観光産業を所轄する東京都産業労働局との協働も欠かせません。

日本政府は2020年の訪日外国人旅行者を4000万人とすべく動き始めています。増加していく外国人患者に対応する準備を関係団体が一丸となって始めていくべき時が来ていると感じています。

 

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