みなさんの勤務先では、ご自身のスマートフォンやタブレット端末を業務連絡などに利用することは認められていますか。
仕事の際に個人所有の端末などを使用することを、BYOD(Bring Your Own Device)といいます。
医療や介護の現場では、24時間365日、いつ何時緊急性の高い業務が発生するか予測できません。そのため、医師が個人の端末を用いて情報共有を図ることは、患者さんを守ることにも直結します。しかし、現在の日本では、個人端末を用いた医療情報の管理や共有は原則禁止と規定されています。この理由のひとつに、重要な情報を保管した端末の紛失リスクなどが挙げられています。東京都医師会理事の目々澤肇先生に、プライベートでも使用している端末を医療現場で使う"BYOD"の是非についてお伺いしました。
患者さんを中心とした地域医療を実現するためには、病院と診療所、介護施設など、患者さんを取り巻く多職種がICTネットワークを介して連携することが不可欠です。
現在、東京都の各区市町村では、メディカルケアステーション(日本エンブレース社)やTRITRUSシステム(カナミックネットワーク社)、サイボウズガルーン(サイボウズ社)などの多職種連携システム(医療分野に特化した非公開型ソーシャルネットワーキングサービス:SNS)を各自で導入し、情報共有を図りはじめています。
ICTネットワークで病院と診療所、介護施設がつながることで、具体的にどのようなことが可能になるのでしょうか。
たとえば、ある一人の医師が認知症患者さんの診察に際し、より専門的な意見が欲しいと感じたとき、システムに相談内容や質問を書き込むことで、同じシステムを利用している認知症専門医から即時的に返事を得ることができるようになります。
医療従事者や介護従事者が、情報を入力または取得するには、ICTネットワークにアクセスするための通信機器(スマートフォンやタブレットなど)が必要になります。
2017年(平成29年)6月に地区医師会・区市町村在宅療養担当者連絡会から報告された調査結果によると、医療・介護従事者がICTネットワークにアクセスするための通信機器とその割合は、以下のようになっています。
1. 医療機関もしくは施設が用意して配布した機器:19%
2. 個人持ちの機器 BYOD(Bring Your Own Device):25%
3. 上記1,2の両方を併用している:44%
4. 無回答12%
この調査では、4分の1の医療・介護従事者がBYODを使用していると回答しています。まずは、BYODとは一体どのようなものか、ご解説します。
BYODとは、Bring Your Own Deviceの頭文字から作られた比較的新しい言葉で、医療の世界に限らず、業務に私用としても用いている個人所有のPCやスマートフォン、タブレットなどを使用することをいいます。たとえば、従業員が会社支給ではない個人のスマートフォンを用い、自社内や他社と業務連絡をとっている企業などは、BYODを認めているということになります。
緊急性の高い業務が発生することの多い医療の現場では、365日24時間、どこにいても迅速に動くことができるよう日ごろから体制を整えておく必要があります。そのため、BYODという概念が登場する前から、多くの医療・介護従事者が「仕事用」と「私用」の通信機器をわけることなく、1台の端末で全ての連絡を受け付け、情報共有を行なっていました。
私自身は、いわゆるスマートフォンの「2台持ち」をしていますが、診療時間外であっても患者さんが診療所にかけてきた電話を受けられるよう、私用の端末に転送する設定を行っています。つまり、私用のスマートフォンさえ就寝時も含めて肌身離さず持ち歩き、常に充電しておけば、患者さんや周囲の医療機関からの緊急連絡に対応することができるというわけです。
BYODは私物端末の業務利用と訳され、各業界でその賛否が議論されていますが、私は医療や介護領域の業務の特殊性から、BYODは許容されるべきものであると考えています。
しかしながら、個人情報法の改正を機に改定された『医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5版』(2017年5月)では、個人の管理下にある端末の業務利用、すなわちBYODは原則禁止という扱いになり、現在各所に波紋を呼んでいます。なぜなら、直前の第4.4版(案)に対し、BYODに関するパブリックコメントの募集があり、東京都からは少なくとも3件の案が上がっていたからです。
原則禁止規定は、後段で述べる端末の紛失や盗難などのリスクを鑑み、医療者を守るために定められたとも聞いています。しかしながら、BYODが患者さんにもたらすベネフィットを考えると、原則禁止規定には懐疑的にならざるを得ません。次項では、これまで患者さんを地域全体でケアしていくために行っていた、BYODによる情報共有の一例をご紹介します。
前の項目で、私はスマートフォンを2台所有していると述べました。いずれの端末も同じレベルの機能を持っており、どちらからもメディカルケアステーションを閲覧することができます。
私の所属する地域ではメディカルケアステーションが導入されていますが、TRITRUSシステム、サイボウズガルーンといったシステムも同様のものとお考えください。
これらのシステム上に書き込んでいる共有が必要な情報とは、患者さんの病名や処方されている薬剤の名称といった表面的なものではありません。
実際にその患者さんに何が起こったか、これからどういった治療をしようと企図しているか、患者さんはどのような医療を希望しているのか。こういった即時的な情報や具体的な治療目標を共有できてはじめて、同じ方針のもとで医療・介護従事者は各々の役割を果たすことができます。
患者さんの置かれている状況や困りごとなどを共有しながら診察にあたることで、たとえば現在処方されている一般的な量の薬剤が、その患者さんにとっては不適当であると気づくこともあります。患者さんが介護従事者に伝えた「日中眠くなって困る」「イライラすることが多くなった」といった言葉をメディカルケアステーションでみて、薬剤の量を調整することあります。
読者の方のなかには、あえて多職種連携システムを使わずとも、電話などで情報を共有すればよいのではないかと疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。確かに、介護従事者と医師の関係性やその地域の文化によっては、電話による迅速な情報共有も可能です。しかし、現実には医師に対し、何度も電話をかけることを躊躇われる介護従事者の方がいることも事実です。地域によっては、まだまだ医師とそのほかの医療・介護スタッフの立場が対等ではないこともあります。
では、多職種連携システムへアクセスするための機器や、業務利用する機器を、個人の端末ではなく、医療機関や施設から支給された端末に限定することには、どのような不都合があるのでしょうか。BYODと支給された通信機器の扱いの差をみてみましょう。
患者さんの医療や健康に関する情報というセンシティブな情報を扱うにあたり、BYODを認めることは不適切であると考える方の多くは「紛失や盗難のリスク」というデメリットを挙げられます。
しかし、紛失や盗難のリスクは、過去の事例を鑑みても、支給された仕事用の通信機器のほうが大きいといえます。
一般的に考えて、スマートフォンを失くしたとき、すぐに気づくことができ、迅速に捜索するのは自身やご家族の情報が入っているBYODでしょう。仕事用のスマートフォンは、しばしば「事業所やロッカーに置いてきたのだろう」と考えられてしまい、手元にない場合でも焦燥感につながらない傾向があります。
実際にある医療機関では、スタッフに支給していた約3,000台のPHSを回収し、改めてスマートフォンを支給しようとした際、膨大な数のPHSが回収できなかったという事態が起きています。
その後、発見されたPHSのなかには、既に転勤した医師のロッカーから電源が切れた状態で出てきたというものもあります。また、残念ながら遂には発見にいたらなかった端末も多数あると聞きます。取り扱いに慎重を期すべき医療情報が入ったPHSは、おそらく過去に勤務していた医師が転勤先まで持っていってしまったか、捨てられてしまったのではないかと推測されています。
上記は支給された業務用端末の紛失事例ですが、一方で、「支給されたものだからこそ紛失してはいけない」という心理が働き、事業所から持ち出さないという在宅医療・介護スタッフも多数存在します。この場合、当然ながら医療や介護の現場で得た患者さんの情報や、そのとき起こった出来事は、多職種連携システムに書き込まれることはありません。
このような実例から、私は多数の医療・介護従事者が個人で持つ端末は1台が限度なのではないかと考えています。
もちろん、私自身が2台のスマートフォンを所有しているように、自らの意思により複数の通信機器を持つ場合は、個々人に「自分で管理する」という意思が働いているため議論の対象とはなりません。しかし、これを若手から高齢まで全てのスタッフに求めることは、結果として多職種連携システムの普及を阻む一因になると思われます。
医療介護のための情報連携に使用する通信機器は、使いやすさや簡便さを重視し、それなりにハードルを下げる必要があります。
次の記事では、BYODを認める場合、医療情報をどのように守っていくべきか、その方法についてお話しします。
2019年1月19日に「救急電話相談の現況と展望 ~救急看護・救急医療の新たなフィールド~」を下記のとおり開催させていただくことになりました。
■概要
救急安心センター事業(救急電話相談)における 事業の質改善 や 看護師教育 は これまでも行われてきましたが、事業の全国展開が進む昨今にあっては 医師・看護師・運営事業者・自治体を包括した、更に統合的な取り組みが求められます。
本会では、
・各団体における試みにつき意見交換することで 更なる向上に繋げること
・とくに相談看護師のスキルとはなにかを明らかにし、専門性のあり方を検討すること
を目的とします。
■日程・会場
日程:2019年1月19日 12時30分~17時00分
会場:東京都医師会館2階講堂
※参加費は無料です。当日直接会場までお越しください。
■主催:日本臨床救急医学会・日本救急看護学会
共催:東京都医師会
■URL
東京都医師会 理事
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まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。