体内の水分バランス調整、血液浄化を司る腎臓に発生する腎細胞がん。腎細胞がんの治療においては、病期(ステージ)にかかわらず手術でがんを摘出することが基本的で最も確実な方法です。根治を目指す場合は腎臓をすべて摘出しますが、腫瘍の大きさが4cm以下である場合は部分切除術を行うこともあります。腹腔鏡やロボット補助下手術、分子標的薬、免疫チェックポイント治療などを活用した腎細胞がんのさまざまな治療について、引き続き新潟大学医歯学総合病院泌尿器科教授の冨田善彦先生にお話しいただきます。
腎細胞がんを診断するための検査としては、dynamic CTが有用です。dynamic CTにより、腎細胞がんでもっとも頻度の高いがんの淡明(たんめい)細胞がんの診断ができます。
また、腎臓には腎血管筋脂肪腫という良性腫瘍が発生することもあるため、腎臓がん・腎細胞がんと良性腫瘍の鑑別診断が必要な場合、MRIによる画像診断を行う場合があります。腎細胞がんのスクリーニングにあたっては超音波検査が主に用いられます。
腎細胞がんの病期(ステージ)をTNM分類に基づき判定します。Tは原発腫瘍(primary Tumor)、Nは所属リンパ節(regional lymph Nodes)、Mは遠隔転移(distant Metastasis)の頭文字です。
2017年現在では「泌尿器科・病理・放射線科腎癌取扱い規約第4版」における分類に基づき、腎細胞がんの病期が定められています。
繰り返しになりますが、腎細胞がんの治療は、病期(ステージ)にかかわらず手術でがんを摘出することが原則です。術式には腎部分切除術(腎臓の一部をとる方法)と腎摘除術(腎臓をすべてとる方法)の2種類がありますが、他臓器に転移がみられる場合でも、基本的に積極的な腎摘出を行ったほうが患者さんの予後がよく、術後の生存期間も長くなることがわかっています。
がんの発生している側の腎臓をすべてとりだす手術です。以前は腎摘除の際に副腎も合わせて摘出していましたが、現在では副腎をとらず、温存する方法が多く導入されています。
腫瘍の大きさが前項で述べたT1a(直径4cm)以下で腎内にとどまっている場合に検討される術式です。4 cmを超えていても7 cm以下であれば、可能な限り部分切除術で腎臓を温存する方向が主流です。また、それ以上の大きさでも、もう片方の腎臓の機能が著しく低下している場合は、腎機能の温存を目的として腎部分切除を行うことがあります。
どちらの術式であっても現在は腹腔鏡下で手術が行われるケースが多いのですが、腎部分切除においては、ロボット補助下手術が適応になる場合があります。
ロボット補助下手術は、がんを確実に取りきること、がんをとった後の断端(だんたん:手術で切除した組織の切り口)の処理を適切に行うために最適な方法であるため、当院でも一部の腎部分切除適応例に限り、ロボット補助下手術を実施しています。
ただし、すべての腎部分切除術をロボット補助下や腹腔鏡下で手術しているわけではなく、場合によっては開腹したうえで切除を行います。腎機能温存のためにむやみに腹腔鏡下手術やロボット補助下手術を適応すると、手術中にがんを散らしてしまい、これが原因となり再発を起こし死亡するリスクがあるからです。
根治的腎摘除術の場合は腹腔鏡下手術で問題ありませんが、腎部分切除術においてはがんを完全に取りきること、がんを散らさないことを大前提にして、最適な術式を選択することが重要です。
手術で腎細胞がんを取りきれなかった場合は薬物治療が行われます。
2007年頃までは、インターフェロンとIL2によるサイトカイン治療が腎細胞がんにおける薬物療法の中心でしたが、近年では6種類の分子標的薬が用いられるようになり、薬物療法のあり方が大きく変化しました。分子標的薬とは、がん細胞の増殖・転移に関与する分子に作用するタイプの抗がん剤で、この治療薬の登場により、転移性腎細胞がんの治療成績は飛躍的に向上しました。それぞれの分子標的薬には特徴があるので、個々の患者さんに一番合っているものを選んで治療を進めていきます。
ただし、分子標的薬には重篤な副作用が起こるなど、治療にリスクが伴います。
最近では、ニボルマブを代表とした免疫療法薬による「免疫チェックポイント治療」が、最新の腎細胞がんの2次治療以降の治療法として注目を集めています。2次治療とは、手術不可能ながんに対して2番目に行われる抗がん剤治療のことです。今後は免疫チェックポイント治療を中心とした開発が進み、数年以内にはより有効な腎細胞がんの治療が実現される見込みです。
私はこれまで、すべての腎細胞がんの新薬開発に携わってきましたが、2017年現在は新潟大学内においてさらなる新薬の開発を進めている最中です。この開発が完了すれば、複数の薬剤の組み合わせによって、奏効率(そうこうりつ:がん治療実施後にがん細胞が縮小・消滅した患者さんの割合)30%である薬物療法の現状を、80%にまで高めることが期待できます。
腎細胞がんが骨転移した場合の疼痛緩和など、放射線は補足的な治療として用いられているのが現状です。ただし、現在は粒子線など新しい放射線治療の技術を応用した、腎臓の原発巣に対する治療の可能性が探求されています。
※標準的な治療の指針は、2017年7月10日に出版された最新の腎癌診療ガイドラインに掲載されています。
腎細胞がんの発症を予防する確実な方法は残念ながらまだありませんが、一般的にいわれている肥満や高血圧対策、禁煙、食生活の改善、減塩などを日常的に心掛けることは大事です。
腎細胞がんと診断されて、治療に不安を抱えている方も少なくないと思います。新潟大学医歯学総合病院では腹腔鏡手術やロボット補助下手術などの手術治療をはじめ、薬物治療や放射線治療など、一人ひとりの患者さんに最適な治療を行っています。その方に合った治療法をご一緒に考えたいと思います。
新潟大学医歯学総合病院 泌尿器科 副学長・病院長・教授
関連の医療相談が13件あります
腎癌の治療法について
肺がん罹患して5年目になります。10月末から膀胱に違和感を感じ、本来治療してもらってる病院には泌尿器科が無いため、違う総合病院の泌尿器科を受診しました。 わたしが肺がんがあると分かると転移の可能性を探るためCT検査をしました。結果、腎臓と後腹膜リンパ節に転移がわかりました。膀胱の違和感はまだ検査してないので分かりませんが、多分間質性膀胱炎じゃないかと疑ってます。 泌尿器科の先生は最初は腎癌には手術しかない、と言ってたのですが、途中から、放射線だな、放射線がいい、と言い始めました。 自分なりにネット検索したら腎癌には手術が標準治療とありました。放射線治療はあまり効果が無いと書いてありました。腎癌ですが、わたしは症状はまだ感じていません。 放射線治療は時間がかかるし、今は膀胱の状態が良くないし、別の病院で肺がんでの通院もあるので、私としては手術して欲しいと思ってるのですが?放射線治療がベストなんでしょうか?回答よろしくお願いします。(補足ですが、肺がんは今は強い抗がん剤は使えない状態で、緩和ケア1歩手前状態だそうです。月に一、二回変化を診るためにレントゲン撮影しに行くくらいになってます。)
腎臓の腫瘍全摘の診断。セカンドオピニオンが必要でしょうか。
家内ですが、数か月前より排尿時の不快症状があり、市立病院を受診しました。エコー検査で腎臓に腫瘍が有ることが判明、大学病院を紹介され、MRI、CTなどの検査を受けました。昨日その結果の説明があり、良性か悪性か現時点でははっきりしないものの、それなりの大きさなので、左側の腎臓を全適する必要が有るとのことで、5月半ばに手術日が決定しました。排尿時の不快症状と腎臓の腫瘍は基本的に無関係とのことで、偶然発見された形ですので、私たちにしてみれば、あまりに急な展開で少しびっくりしています。またそれほど重大な状態なのかと不安です。セカンドオピニオンを求めるなら紹介状も出していただけるということなのですが、あまり時間がかかってよくないことになってもいけないし、家内も仕事があるのであまり時間が取れません。5月に手術を受けないと、次は8月になってしまうそうです。4月初めに再度説明があるそうなので、その時は自分も同席するつもりですが、健康だった家内の初めての事態にかなり気が動転しています。やはり早く手術を受けたほうがよろしいでしょうか。他の機関でセカンドオピニオンを受けたほうがよろしいでしょうか。また負担が軽い手術方法はありますでしょうか。
母が腎臓がんと診断されました
母(80歳)はもともと腎臓が悪く、通院していました。先月、たまたま行ったCTの検査で腎臓がんがみつかり、手術しなければならないと言われています。しかし。腎機能がもともと悪いため、手術で腎臓をとることで、さらに腎臓機能が悪くなり、最悪透析になる可能性もあると言われ本人はかなり落ち込んでいます。手術はするしかないと思うので仕方ないのですが、腎臓がんの手術で透析になる可能性はかなり高いのでしょうか。現在の母の腎機能はクレアチニンが2.1です。腎臓がんのサイズは右の腎臓に4cmほどと言われています。よろしくお願いします。
腺癌の専門の病院
今日 結果を聞いて抗がん剤治療をします。と言われたが、ほかにどんな治療があるか知りたい
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