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インタビュー

腎細胞がんの基本情報―腎臓の役割・症状や腎臓がんになりやすい人は?

腎細胞がんの基本情報―腎臓の役割・症状や腎臓がんになりやすい人は?
冨田 善彦 先生

新潟大学医歯学総合病院 泌尿器科 副学長・病院長・教授

冨田 善彦 先生

この記事の最終更新は2017年08月24日です。

腎臓にはさまざまな機能があります。一般的には尿を作る臓器とイメージされがちですが、実際は全身の水分バランスの調整から電解質のバランスの保持、血圧のコントロール、造血ホルモンの産生に至るまで、私たちが健康に生活するための体内環境を整える役割を持っています。この腎臓に発生した腫瘍を腎臓がんと呼び、そのうち腎実質にできたものを腎細胞がんといいます。腎細胞がんは他の腎臓がんに比べてリスク因子がはっきりしておらず、誰でもかかる可能性があり、偶然発見されることも少なくありません。今回は腎細胞がんの基礎情報と原因、発見のきっかけについて、新潟大学医歯学総合病院泌尿器科教授の冨田善彦先生にお話しいただきます。

腎臓は腹部に左右1つずつ存在する臓器です。腹部にある臓器ではありますが、腸管全体を包み込む腹膜と背中のあいだにあたる、後腹膜腔という場所に位置しています。ちょうど肋骨(ろっこつ)の下端の高さにあり、10×5×3cm程度のソラマメのような形をしています。

腎臓の主な機能は尿を作ることと一般的にイメージされがちですが、それだけが腎臓の役割ではありません。腎臓の最大の役割は、全身の水分バランスを調整することです。

腎臓は、体内の水分が過剰にならないようバランスを取り、余分な水分があるときは体外に排出します。また、その際は体にとって不必要な物質(体内で生じたごみ、老廃物など)も、水分と一緒に尿という形で出しています。

人は、たとえ水を1リットル一気に飲んでも下痢をすることはありません。その水は体内に吸収されますが、腎臓の働きによって体内の水分バランスが保たれるために余分な水分は排出されます。

こうした腎臓の機能の獲得は、人類の発生の過程からも考えることができます。人類が海から陸に上がって、乾燥した環境で生きていかなければならなくなったときから我々は水分の摂取と保持が必要になりました。ですから、摂取した水をすぐに体外に出さず、一方では過剰にならないよう調整するような機能が必要になったのです。

このほかの腎臓の機能としては、電解質のバランスのコントロール(血液の酸性・アルカリ性濃度の維持)、血圧のコントロール、造血に関するホルモンの産生が挙げられます。

こうした腎臓の機能が何らかの要因によって低下した場合、尿の排出量が変化します。体内の水分バランス調整が上手くできないので、目の周りや下肢にむくみが生じることもあります。また、腎臓のろ過機能も損なわれていくため、体内にとってごみとなる物質であるクレアチニン(Cr)や尿素窒素(BUN)の値が上昇します。

【腎臓の機能低下で起こる症状】

など

腎臓がんとは、腎臓に発生する腫瘍の総称です。腎臓がんには腎盂がん(腎臓尿路上皮がん)と腎細胞がんの2種類がありますが、そのうち腎実質部分(血液をろ過する働きを担う腎臓の主要な部分)にできた腫瘍を腎細胞がんといいます。

腎細胞がんは、泌尿器がんのなかでは膀胱がん前立腺がんに次いで多く、患者数が近年徐々に増えてきていることが特徴です。50~70代で好発し、女性に比べて男性の患者さんが多い傾向にありますが、はっきりとした年齢や性別にかかわらず、誰でも発症する可能性があります。

腎細胞がんを引き起こすリスク因子として、はっきりと述べられるものはありません。ただしハザード(危険性・有害性)になりうると考えられているものはいくつか考えられます。

たとえば、たばこ(喫煙)は腎細胞がんのハザード(危険性・有害性)となり得ます。しかし、たばこ(喫煙)と腎細胞がんの因果関係はまだはっきりと証明されていないため、喫煙が完全な腎細胞がんのリスク因子とは断定できないのです。

ハザードとリスクの違いとは?

ハザード……その行為に起因する危険性・有害性

リスク……ハザード(危険性・有害性)によって生じる恐れのある疾患の起こりやすさ・重症度

(参考:厚生労働省 http://anzeninfo.mhlw.go.jp/risk/syokuhin07.html

腎盂がん膀胱がんは腎細胞がんと違い、リスク因子が確定しています。

腎盂がんの場合は、染料の一部から生成される芳香族アミンという物質やたばこ(喫煙)が、膀胱がんの場合は、ビルハルツ住血吸虫(エジプトで蔓延している寄生虫で、膀胱に住み着く)が発症のリスク増大に大きく関与します。

VHL病(Von Hippel-Lindau:フォン・ヒッペル・リンドウ)という疾患は、腎細胞がんのリスク因子になることが知られています。 VHL病とは日本国内に200家系以上みられるとされる遺伝性疾患で、患者さんの体のあらゆる部分に次々と嚢胞や小血管に富んだ腫瘍が発生します。ただし、VHL病の患者さんの約30%は発端者といって、これまで血縁者の誰にもVHL遺伝子の異常がみられなかったにもかかわらず、家系内で初めてVHL病を発症した方になります。

VHL病の患者さんのなかには腎臓に腫瘍が発生する方が多いため、VHL病は腎細胞がんの原因のひとつとして考えられます。

提供:PIXTA

末期腎不全の患者さんで人工透析を受けている方は、腎細胞がんを発症する可能性が高いことが知られています。

人工透析を受け続けていると、腎臓に後天性獲得性の嚢胞が高い確率で発生します。後天性嚢胞だけでは症状は現れませんが、進行すると腎出血や腎細胞がんを引き起こす恐れがあります。

腎細胞がんには、特徴的な症状はありません。そのため初期段階に発見される腎細胞がんは、検診や、他の病気のための精密検査などの機会に、偶然に発見されるものがほとんどです。一方で、がんが進行して腫瘍が大きくなり、血尿や腹部のしこりなどの症状が出てから発見されることもあります。

今から30年前にあたる1985年頃はまだCTや超音波などの検査技術が発達しておらず、ほとんどの腎細胞がんは症状が出た進行がんの状態になってから発見されていました。その後、画像診断の進歩と普及により、無症状の時点で偶然腎細胞がんが発見されるケースが増加しました。

現在では、症状がない段階から健康診断人間ドックで発見される腎細胞がんは全体の70%を占め、症状が出てから発見される腎細胞がんの比率は30%程度です。

しかし、症状が出てから発見された腎細胞がんの数そのものが減ったわけではなく、むしろ増えており、2010年の腎細胞がん死亡数は男性約2700名、女性約1300名に上ります。ですから、腎細胞がんの患者数は危険な状態の方・無症状の段階にある方ともに増えていることになります。

膵がんや肺がんと異なり、腎細胞がんの場合、悪性度によっては進行しても全く症状が現れないことがあります。患者さんのなかには、ステージ4で肺転移があっても一切症状がなく、外来通院を続けている方もいらっしゃいます。

しかしその一方で、初回診断時ですでに症状が現れており、治療開始後半年以内に死亡する患者さんがいることも事実です。そのため、ステージごとにどのような症状が現れるのかをはっきりと述べることはできません。がんが全身に広まるにつれて症状が出現する場合もありますが、全く現れない場合もあり、患者さんごとに症状の幅がある疾患と考える必要があります。

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