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日本の小児外科をとりまく現状を打破するために-名古屋大学小児外科で行う...
子どもの数が減少傾向にある現代では、小児外科医の治療対象となる症例数も少なくなっています。そのため、限られた症例に関する情報を全国規模で共有することが、子どもの命を救うために、そして若い小児外科...
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日本の小児外科をとりまく現状を打破するために-名古屋大学小児外科で行う小児外科医育成の取り組みとは?

公開日 2018 年 07 月 05 日 | 更新日 2018 年 07 月 05 日

日本の小児外科をとりまく現状を打破するために-名古屋大学小児外科で行う小児外科医育成の取り組みとは?
内田 広夫 先生

名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科学教授

内田 広夫 先生

目次

子どもの数が減少傾向にある現代では、小児外科医の治療対象となる症例数も少なくなっています。そのため、限られた症例に関する情報を全国規模で共有することが、子どもの命を救うために、そして若い小児外科医を育てるためにも重要です。

今回は、名古屋大学大学院医学系研究科 小児外科教授である内田広夫先生に、現在(2018年)名古屋大学で行っている小児外科医育成のための取り組みについてお話を伺いました。

日本の小児外科が抱える課題とは?

5歳くらいの子ども

症例数が限られるなかで、小児外科医の育成をいかに行うか

小児外科医による治療が必要となるお子さんは、全国各地さまざまなところに点在しています。そのため、すべてのお子さんに正しい治療を行うためには、経験豊富な小児外科医を全国各地に配置する必要あります。

しかし、患者さんは全国にいたとしても、患者さんの数は多くはありません。そのため、特に子どもの少ない地域にいる小児外科医は十分な診療経験を積むことができません。

たとえば、年間100人ほどしか赤ちゃんが生まれないような病院では、小児外科疾患を持って生まれる赤ちゃんはほとんどいないため、小児外科医が活躍できる場も限られてしまいます。

しかし、このような病院にも、小児外科医の存在は必要不可欠です。一方で、そこに配置された小児外科医は十分な診療経験を積み重ねられないため、小児外科医として必要な診療能力や治療技術の進歩を得がたく、病気をみよう、治そうというモチベーションももしかしたら低下してしまう恐れがあります。

このような状況のなかで子どもたちを救うためには、全国に配置するべき、もしくは配置された小児外科医をいかに育成するかが非常に重要な課題です。そして、この課題を解決するために、名古屋大学小児外科ではいくつかの取り組みをしています。

次章からこれらの取り組みについて詳しくお話ししていきます。

全国の医師で患者情報を共有する「遠隔医療支援体制」

診療のサポートをリアルタイムで行う

名古屋大学では、2018年現在、遠隔医療支援体制の構築に向けた研究に取り組んでいます。

遠隔医療支援体制とは、全国にいる小児外科医同士で患者さんの情報を共有することで、診療のサポートを行う体制のことです。

たとえば、経験のない若手の小児外科医が、患者さんの診断や治療に悩み、経験豊富な小児外科医に相談するとします。すると、大画面モニターに医師や患者さんがリアルタイムで映し出され、患者さんの見た目の様子や症状、画像所見などの情報を共有することができます。そして、経過観察でいいのか、中核病院に搬送するべきか、緊急手術が必要なのか、などの判断を一緒に相談しながらできます。

このような遠隔医療支援体制を充実させることで、全国どこでも、いつでも、どのような患者さんが治療を必要としても、信頼できる診療を受けることが可能になります。そして、患者さんの命を救うことができると同時に、全国にいる若手小児外科医の育成もできると考えます。

地域単位でカバーすることで、緊急手術などにも対応

もちろん、名古屋大学だけが支援を行うのではなく、全国各地の中核病院を中心として、またそれぞれの病院の得意分野を活用すべく、地域単位で支援できる体制も構築できればと考えています。このように地域でカバーできる体制を作ることで、多くの緊急事態に対応が可能になると考えています。

自動診断システム「アキネーター」の構築

症状から危険度を判定して知らせてくれるシステム

2つ目の取り組みはアキネーターの構築です。私たちが研究しているアキネーターとは、いくつかの症状から自動的に、患者さんが苦しんでいる疾患を明らかに示すようなシステムのことです。

たとえば、ある若手小児外科医が、アキネーターが提示するいくつかの簡単な質問に応えることで、アキネーターによって可能性の高い疾患が自動的に提示され、人の思い込みなどによる誤診を減らすことができると考えています。最終的には電子カルテに患者さんの症状を入力するだけで自動的に疾患の鑑別診断を行い、さらに危険度を判定し、「危険度の高い患者さんがいます」ということを知らせてくれるようなシステムにしたいと思っています。つまり、鑑別診断をある程度行うことで、危険度が高いと思っていなくても、実は非常に危険な状況にある患者さんを無意識のうちに拾い上げることが可能となるような安全性を担保するシステムです。アキネーターを活用することで、患者さんにより適切に対処することができるようになり、危険が見過ごされてしまう状況を回避することができ、子ども達の命を守ることができると考えています。

シミュレーターを使った手術技術の修練

3つ目の取り組みはシミュレーターの開発です。

私達は外科医ですから、診断したあとに、治療が必要な患者さんに対して、適切な手術を行う必要があります。そのためには高い手術技術を習得する必要があります。これまでの外科一般ではオンザジョブトレーニング(OJT:On the Job Training)、すなわち患者さんを実際に手術することで、より取り澄まされた手術技術を身につけて来ました。開腹手術、開胸手術では熟練の手術助手が一緒に手術をすることで、適切に技術を身につけることが可能でしたし、一般外科は多くの症例を短期間に施行できるため、短期間に手術手技を身につけることが可能です。一方で小児外科はもともとの症例数が少ないため、若手医師が実際の手術で経験を積むことがかなり難しく、その上多くの手術が内視鏡手術になってきたため、さらに技術取得が困難になってきています。そこで名古屋大学では、VR(バーチャルリアリティ)と模擬臓器を使用した手術シミュレーションを積極的に行っています。模擬臓器は、少し強く触ると穿孔してしまうなど、本物の臓器に非常に近い仕様になっています。また、VRによって術者の手の動きも解析でき、手技力がどの程度向上したかが可視化できます。

手術シミュレーションで鍛錬を積んでから、実際に患者さんの手術を行う仕組みを作ることができればと考えています。

名古屋大学小児外科医の手術シミュレーション 食道の模擬臓器によるシミュレーション

名古屋大学小児外科の手術シミュレーション

名古屋大学小児外科医の手術シミュレーション 食道の模擬臓器によるシミュレーション

食道の模擬臓器によるシミュレーション 

キーワードは「情報の共有」と「シミュレーターの拡充」

内田先生

現在の日本の小児外科において不足していることは「情報の共有」です。

たとえば、1年間に5例ほどしかない希少疾患に対して閉鎖的な治療を行っていたら、正しい治療を行うことができず、お子さんの命を救うことができません。そのうえ、全国にいる小児外科医が育つ機会を奪うことにもなってしまいます。

このような現状を変えるためには、常に情報を共有し合うことで、全国的に患者さんをカバーする体制を整える必要があります。特に現代は子どもの数が減少しているため、小児外科で治療する患者数も限られています。そのため、若い小児外科医を育てるという面においても、情報共有は非常に重要です。

名古屋大学では、先述のような全国で患者さんの情報を共有できるシステムを今後拡充していきます。また、手術シミュレーションのような修練の場を作ることで、研修を希望する若い小児外科医の受け入れも積極的に行っています。

今後の日本の小児外科をしっかりと存続させ、全国のお子さんの命を救うために、全国にいる小児外科医と協力して切磋琢磨していきたいと考えています。

圧倒的な小児内視鏡手術症例経験を持つ小児内視鏡外科のスペシャリスト。「成長・発達が著しい小児に対してこそ侵襲性の低い術式が求められる」と強く訴え、へその部分のみから手術を行う単孔式腹腔鏡下鼠径ヘルニア根治術を開発・導入し数多くの子どもを救ってきた。小児外科の教育制度の改革にも積極的に関与し、小児外科の将来を改善させるために尽力している。