院長インタビュー

臓器別チーム医療で効率よく適切な治療を提供するがん研有明病院

臓器別チーム医療で効率よく適切な治療を提供するがん研有明病院
山口 俊晴 先生

公益財団法人がん研究会有明病院 名誉院長

山口 俊晴 先生

この記事の最終更新は2017年07月26日です。

公益財団法人がん研究会有明病院、通称「がん研有明病院」は病床数700床を備える日本最大のがん専門病院です。がん研有明病院の最大の特徴は「臓器別チーム医療」による診療体制です。患者さんが自分だけでどのような治療をするのか決めるのではなく、患者さんを中心にあらゆる診療科の医師が話し合い、最も適切な治療を決定しています。また、診療の流れが非常にスピーディーであることも特徴です。センター化された外来には、内科・外科それぞれの医師がいて連携がとれているため、来院した日に今後の治療方針が決まる患者さんも多くいます。今回は、がん研有明病院がなぜここまで効率的かつ適切な治療が提供できるのか、がん研有明病院の院長山口俊晴先生にお話を伺いました。

病院の外観写真

公益財団法人がん研究会有明病院は1908年(明治41年)に東京大学の病理学教室内に「癌研究会」が発足したことが始まりです。

当時、世界中でがんへの関心が強まり、様々な国にがん研究を行う組織が作られていました。日本でがんの病気はまだ注目されていませんでしたが、当時の学者や財界を代表する者が集まり、世界に追従する形で「癌研究会」が創立されました。

1934年(昭和9年)には東京都大塚の地に国内初のがん研究所とその附属病院が開院しました。その後の東京大空襲で施設が消失したため、一時は銀座に移転しましたが、大塚の地に病院を再建し、以後大塚の地でがんの研究と治療を全国に広めてきました。

2005年(平成17年)には東京臨海副都心である江東区有明に全面移転を行いました。周りは東京臨海広域防災公園や海に囲まれた広々とした環境で、大規模災害が発生した場合は災害拠点病院としての役割も担います。

大塚の病院は500床でしたが、2005年移転した新病院は病床数700床で、手術室20室を備える日本最大のがん専門病院になっています。

2005年に有明に移転してきたことをきっかけに、診療科ごとに患者さんを診る体制から、臓器別に患者さんを診療するチーム医療を開始しました。

チーム医療 がん研

従来の診療では、患者さん自らがそれぞれの診療科の医師や専門家を渡り歩き、患者さん自身が治療方針を決定していました。しかし、各診療科で治療内容や治療に伴うリスクを聞いても、患者さんは自分にはどの治療が一番適切なのか判断することは難しいでしょう。

当院で実施しているチーム医療では、診療科の垣根を取り払い、患者さんを中心に各専門家が集まり、患者さんに最も適した治療方針を決定しています。

たとえば胃がんの患者さんの場合、まず「消化器センター」に受診をします。消化器センターには内科や外科の医師がいるので、最初は紹介状に書かれた診療科の医師が診察を行います。

外科医が診察を行い胃がんが疑われた場合は、後日改めて内科の診療予約を取り、内視鏡検査を行う医療機関が多いでしょう。しかし当院は、外科も内科も同じ部門なので、即日で内視鏡検査を行うことができます。

詳細な検査を早急に行うことで、それだけ早く治療を実施できますし、患者さんが「がんになって、これからどうなるのだろう」と不安に思う時間をできるだけ少なくすることができます。

がんは放置すればするほど悪化していく病気です。患者さんの立場になって考えれば、がんと診断された時点でとても不安ですし、「1か月後に治療します」と医師にいわれたら、その間に不安が増幅する一方でしょう。

当院の消化器センターでは、「1週間以内に診断、2週間以内に治療開始」を目標としています。実際に患者さんの8割は1週間以内に診断が確定し治療方針を決定できています。

診療科の垣根がないからこそ、診断から治療決定までが大変スムーズに行えるのです。

診断や治療方針の決定が難しい患者さんの場合、「キャンサーボード」によって治療方針が決定されます。キャンサーボードとは、内科医、外科医、放射線治療医、病理医などが集まり、患者さんごとのがんの治療方針を検討する会議です。

通常の診療のなかでも外科医や内科医が協働で診療を行っていますが、難しい症例の場合は必ずこのキャンサーボードの場で、多くの診療科の医師たちがあらゆる視点から議論を行い、治療方針を決定しています。

この会議はほぼ全ての臓器別センターにおいて定期的に開催されており、毎回活発な議論がなされます。

がん研有明病院は、多くのがん手術件数において全国1位となっています。

2016年度における全体の手術件数は約8,500件、なかでも大腸がん手術が約1,100件、胃がん手術は約640件でした。2014年に手術室が20室となったことから、手術の件数はさらに伸び続けています。

また、手術法についても腹腔鏡でできるものは全て腹腔鏡で行っています。腹腔鏡手術とはお腹を大きく切開せず、小さな穴を数カ所開け、そこから専用の器具を通して行う手術のことで、開腹手術に比べて患者さんの負担や出血などのリスクが少ないことが特徴です。

当院では大腸がんの約9割、早期に発見された胃がんについては、基本的に腹腔鏡による手術を行っています。

腹腔鏡手術は術後の回復も早く、多くの患者さんが約2週間程度で退院できます。そのため病床の回転も早くなり、手術の待ち日数も少ないですし、たくさんの患者さんに治療を行うことができるのです。

複数人の医師

当院は、大学の医局にとらわれず、あらゆる大学の医師で構成されていることも特徴です。総合病院の多くは、特定の大学の医局から医師が派遣されてくることが多いですが、当院は日本全国の大学や病院から優秀な医師を採用しています。

多くの医師は医局派遣ではなく、自らの意志で当院を選んで来ているため、診療に対してとても意欲的な医師が多いことが特徴です。お互いが切磋琢磨していく姿勢が随所にみられ、これはがん研有明病院を支える大きな力になっています。

患者さんの治療前・治療後に行われるカンファレンスも大変活発です。患者さんの数が多く、1日20件ほどの症例検討を行うので効率よく進めることが求められますが、1件1件のディスカッションが非常に充実した内容で行われています。どのような質問にも的確に答えられる医師が多く、皆が非常に勉強熱心であることがわかります。

また、海外からの患者さんも多いため、消化器センターではカンファレンスのプレゼンテーション(診断名・ステージ・治療内容などの報告)を全て英語で行うなど、あらゆるところに学びの姿勢がみられます。

このようにがん研有明病院は、がんの症例数が非常に多いだけでなく、意欲的で熱心な医師が多くいるため、若手医師が刺激を受けて成長できる環境が整っています。                         

山口俊晴先生

がん研有明病院は、日本最大のがん専門病院として最新のがん治療を提供することはもちろん、一人一人のがん患者さんに寄り添った診療を行うことを最も大事にしています。

当院では全ての患者さんに診断名や予後をきちんと告げるようにしています。患者さん自身が正確な病名と病状を知らずに、適切な治療を安心して受けることはできません。また「がん」と告知されることは、患者さんが今後どのように生きていくか考えるうえでも重要です。

残念ながら、現在の医療で全てのがん患者さんを完治させることはできません。しかし、医師をはじめ、病院全体で患者さん一人一人を全面的に支えることはできると考えています。

がん研有明病院では、お待たせすることなく診療、治療ができる体制を整えています。現在病気のことで不安を抱えている患者さんは、是非当院へお越しください。