院長インタビュー

「地域貢献」を使命とする高知大学医学部附属病院の取り組みとは

「地域貢献」を使命とする高知大学医学部附属病院の取り組みとは
横山 彰仁 先生

高知大学 医学部血液・呼吸器内科学 教授、高知大学医学部附属病院 前病院長

横山 彰仁 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

地域に密着しながら、高度医療・先進医療を展開している高知大学医学部附属病院。

少子高齢化や人口減少などの問題を抱える高知県で、大学病院・総合病院としてさまざまな役割を担っています。高知の皆さんに信頼される病院を目指してどのような取り組みを行っているのか、高知大学医学部附属病院 病院長の横山彰仁先生にお話を伺いました。

当院のキャッチフレーズは「おらんくの」病院です。「おらんく」というのは自分たち(高知県民)の病院ということです。当院は、地域包括ケアのなかでかかりつけ医で対応できない患者さん、あるいは一般病院で対応できない患者さんに、最後の砦のような、高度医療を提供する役割を果たす病院であると思います。

近年、少子高齢化によって日本中の地方で人口の減少が進んでいます。高知県でも毎年およそ7千人ずつ人口が減少しています。そのため2025年になると高知県では急性期病床、療養病床がそれぞれ2千床以上余ってしまうといわれています。

そうした厳しい状況のなか、当院は県民の皆さんに最高の診療を提供すると同時に、医療を革新できる病院でなければならないと思っています。そのため、学部では先端医療学推進センター、病院では次世代医療創造センターを設置して、臨床研究・トランスレーショナルリサーチの推進を行っています。

高知大学医学部附属病院の外観

2004年に大学が法人化されて以降、医学部附属病院の使命として臨床研究が重要であり、医療を革新できない医科大学は生き残るのが難しいといわれるようになりました。 

そこで高知大学ではオリジナルの基礎研究の成果をもとにトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)を展開して、最先端医療の開発を目的とした先端医療学推進センターを設置しました。

先端医療学推進センターの理念として、1)知的好奇心と精気に満ちた医学アカデミアにおける真理の探究、2)臨床と基礎が一丸となった最先端医療研究、3)主体性とリサーチマインドを持った医師・医学者の育成 を掲げ、選択制ながら医学部の2-4年生の一部も正式な授業の一環として研究に従事し、大学医学部の使命である最先端研究・新規医療技術の開発を目指しています。

先端医療学推進センターは高知大学医学部の研究活動拠点となっており、独創的医療部門・再生医療部門・情報医療部門・社会連携部門・先端医工学部門・臨床試験部門の6部門で構成されています。各部門に流動的なプロジェクトユニットとして研究班を配して、医学部・附属病院の組織の垣根を超えて基礎研究者と臨床医が連携しながら医療学系プロジェクト研究を推進します。

高知大学のセンター組織ず

脳性麻痺は出生前後に脳の損傷によって引き起こされる運動と姿勢の障害で、手足が動かなくなるなど身体が不自由になる症状がみられます。現段階では根本的に治療する方法はなく、リハビリテーションなどの対処療法しかありません。

先端医療学推進センターの再生医療部門では、2005年Duke大学で行われた研究をもとに臍帯血幹細胞研究班が「臍帯血肝細胞による脳性麻痺治療研究」、「臍帯血幹細胞による脳障害修復メカニズム『2step theory』」の2つの基礎研究を行いました。

そして2011年には「脳性麻痺に対する自己臍帯血幹細胞輸血治療」が日本で初めて厚生労働省に承認されました。

臍帯血とは、胎児のへその緒の血液のことで、近年では白血病患者さんの治療にも利用されています。臍帯血にはどのような細胞にも分化する多能性幹細胞が存在することが明らかになっており、将来的には臍帯血幹細胞を脳性麻痺以外の疾患の治療に発展させたいと考えています。

ヒト臍帯血幹細胞輸血治療

高知大学附属病院の橋渡し研究を推進する組織として、次世代医療創造センターがあります。次世代医療創造センターは、最先端の医学研究を実用化するために人を対象とした臨床試験を推進しています。次世代医療創造センターは8つの部門から成り立っています。それぞれの部門と専門家が密に連携して最先端の医療技術を臨床現場に送り出すために活動しています。

新しい薬、医療機器、手術などの医療技術を患者さんのもとに届けるためには、診断・治療のニーズにあった医療を開発し、安全性や有効性を確認する臨床試験を経て、日常医療に応用していくという過程=トランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)が必要です。また、臨床実験や治験(厚生労働省からの承認を目的として行う臨床試験)は被験者となる患者さんをはじめ、多くの人たちの理解と協力があって成り立っています。

今後も患者さんのために安全な医療技術が開発され、未来の医療現場へ届けることができるように、多くの領域が関わり合いながら臨床研究を行っていきます。

センター組織図

2007年に良質な家庭医(プライマリ・ケア医)を養成するという目的で高知大学医学部に家庭医療学講座が設立されました。現代の医療は専門分化されており、ひとりの患者さん(特に高齢の方)が複数の病気や症状を抱えているという現状と向き合うことができていないといえます。

特に地域医療の現場ではさまざまな病気をみることのできる知識と豊かな人間性をもった家庭医が求められているのです。

家庭医療学講座では、患者さんが日常的な健康問題を安心して相談できるような医師の養成を目指して、阿波谷敏英教授が中心となって研修・講座などを数多く行っております。

家庭医療学講座の中でも特に学生に人気があるのが家庭医道場という課外活動です。

半年に一度30〜40人の医師や看護師を目指す学生たちを募り、梼原や馬路村など県内の中山間地で1泊2日の合宿を行います。学生実行委員が中心となって「地域に赴き地域の方々と接することにより地域を知る・家庭医療に携わる者に必要な知識、技術、コミュニケーション能力を身につける」という目的でテーマを設定し、毎回趣向を凝らした企画を用意しています。

ワークショップやフィールドワーク、講演会を通して、地域の住民の皆さんや地域医療の現場で働く方々と直接触れ合うことができる、貴重な学びの場となっています。

高知大学医学部附属病院では、高知の豊かな天然資源を医療へ応用するために、地元に関連した研究も積極的に行われています。たとえば以下のような研究です。

  • 日本一の生産量を誇る生姜の嚥下機能改善に関する研究
  • 名産品である柚子を使ったユズ種子オイルのアトピー抑制に関する研究
  • 長岡郡大豊町で生産される後発酵茶「碁石茶」のインフルエンザ予防効果に関する研究
  • 室戸沖の海洋深層水を利用した健康維持増進に関する研究

これらの研究をもとに民間企業と協力してさまざまな商品の開発も行っています。

高知の天然資源を医療に応用することで、高知の町おこしにも繋がっていくのではないかと期待しています。

 

柚子

 

少子高齢化や人口減少などの問題が叫ばれるなかで、高知県で働く私たちは、都心で働く医師よりもこれらの問題に対して危機感をもっているといえるかもしれません。

大学病院として診療、教育に力を入れながら、高知発の世界に向けた先端研究・開発も積極的に推進し、高知大学だからこそできる地域貢献を続けていきたいと考えています。

さらに今後は、医療における積極的な国際交流を推進していく構想にも取り組んでいきます。

たとえばブラジルの南マットグロッソ州に病院を設立するプロジェクトに取り組んでおり、先日は現地の病院で内視鏡治療の講習会を行いました。またベトナムの新たな病院と交流したいと考えており準備を進めています。

これからも高知県の先進医療を担う総合病院として、地域の皆さんに寄り添いながら医療の充実と発展に尽くしてまいります。

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  • 高知大学 医学部血液・呼吸器内科学 教授、高知大学医学部附属病院 前病院長

    横山 彰仁 先生

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