院長インタビュー

「断らない医療」の実践−徳島赤十字病院の挑戦

「断らない医療」の実践−徳島赤十字病院の挑戦
日浅 芳一 先生

碩心館病院 名誉院長

日浅 芳一 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

徳島県小松島市にある徳島赤十字病院では「断らない医療」を理念に掲げ、職員が一丸となって質の高い医療を提供しています。へき地医療拠点病院として小松島だけでなく県全域、ときには県外からの患者さんを診療することもあります。

幅広い地域からさまざまな患者さんを受け入れるなど、理念に基づく医療を実践している徳島赤十字病院ですが、その実現に向け、どのような取り組みを行なっているのでしょうか。徳島赤十字病院長の日浅芳一先生にお話を伺いました。

「私たちは断らない医療を実践し、みなさまの健康と尊厳をお守りします。」

これは徳島赤十字病院の理念です。徳島赤十字病院ではおよそ1,000人の職員が働いていますが、おそらくほとんどの職員は、当院の理念を答えられるのではないでしょうか。それくらい、この理念は隅々にまで浸透しており、皆で協力しながら日々、理想の医療を実践しています。

徳島赤十字病院の外観

徳島県は人口およそ75万人、そのほとんどの住民が吉野川流域で暮らしています。当院はその流域とは離れた県南部、人口4万人ほどの小松島市に位置しており、地理的に非常に特殊なところで医療を行なっているといえます。

たとえば、県西部に位置する三好市池田町は深刻な医師不足に悩まされています。病院があることにはあるのですが、医師のほとんどが池田町から90q程度離れた徳島市内から通勤しています。

池田町に常駐する医師は十分な数とは言い難く、受け入れのできなかった救急の患者さんが徳島赤十字病院に運ばれてくることがあります。中には十数カ所の病院に断られて、最終的に当院にたどり着くというケースもあります。

とはいえ患者さんを断らずに受け入れるには、常に空きベッドを確保しておく必要があります。

きちんとベッドを確保するため、まず朝ミーティングで入退院する患者さんの数やベッドの空き情報を全医師や職員の間で共有します。夕方になると周辺地域の病院のベッドの空き情報が入ってくるので、場合によっては患者さんに移動していただくこともあります。

ベッドに空きがでると、いつ患者さんが来てもいいよう速やかにベッドメイキングをします。ベッドの利用率は通年を通し97%程度、時には110%を超えるときもあります。ベッドの数が足りなくなると、予備ベッドを活用して患者さんの対応に当たります。

「断らない医療」を実践するためには、職員同士で連携することはもちろん、周辺地域の病院としっかり連携して、効率よくベッドを使う必要があるのです。

病院でのベッドメイキング

徳島赤十字病院にいらっしゃる外来の患者さんは、最盛期時には2,000人にのぼることがありました。現在は一日に約500人と落ち着いてきました。これは周辺地域の医院や病院と連携を開始したためです。

徳島赤十字病院は急性期病院なので、救急の患者さんと地域の病院からの紹介患者さんを中心に診療を行っています。急性期患者さんを受け入れるためには後方病院としっかり連携することが重要です。

そこで徳島赤十字病院では診療科ごとにそれぞれ違う病院と連携し急性期の医療を提供しています。連携している病院ほとんどが車で10分くらいの距離に位置し、規模は100床程度です。各病院の医師がお互いの病院を行き来し、地域全体で患者さんを治療しています。患者さんが後方病院に移る場合は、患者さんのニーズに合わせて夜間にも移動していただけるようになっています。

徳島赤十字病院は救命救急センターの中でも特に高度な医療を提供する、高度救命救急センターに指定されており、常に万全の体制で重症の患者さんを受け入れています。

また、徳島赤十字病院にはハイブリッド手術室が設置されており、外科手術とカテーテル治療を同時に行うこともできます。その他、四国地方で初めて大動脈弁狭窄症に対する治療(TAVI)実施施設にも認定されるなど、高度な医療を提供しています。

救急の患者さんに迅速に対応するため、徳島赤十字病院では屋上にヘリポートを整備し、年間100件程度のドクターヘリを受け入れています。県南部の地域や高知県の室戸市など遠方をカバーできる体制を整えています。

また、独自の取り組みとして救急車型ドクターカーと乗用車型ドクターカー(ラピッドレスポンスカー)の2種類のドクターカーを導入しています。

救急車型のドクターカーは主に病院間の搬送に使われています。

乗用車型ドクターカー(ラピッドレスポンスカー)は消防と連携しており、要請があったときに医師と看護師の医療チームが乗って出動します。患者さんの待つ現地に出動することはもちろん、患者さんを搬送中の救急車と合流したり、医師が車内で処置しながら当院に患者さんを搬送したりと臨機応変に対応しています。また状況によっては当院ではなく、近くの病院に搬送して当院の医師が処置を行うこともあります。これは地域の病院との連携が成立しているからこそ可能なことだといえます。

私たちの医療チームが速やかに出動して適切な処置を行うことで、地域の救急医療に貢献できると考えています。

病院機能を向上させてより多くの患者さんを受け入れるため、現在、新棟を建設中です(2017年3月時点)。

新棟にはこれまで短期間の入院で行なっていた検査や治療を日帰りでできるように、日帰り手術センターを整備します。日帰り手術センターでは白内障などの眼科手術、カテーテルを使った狭心症の検査や治療が行えます。その結果、患者さんのさまざまな負担も減りますし、空いたベッドを重症患者さんに使っていただくことが可能になります。

患者さんを入院させるべきかどうか判断に悩む場合、当院では簡単な手続きで一晩入院していただくことが可能です。このまま家に帰っても不安だな、という患者さんの思いに寄り添って、病院で一晩過ごしていただけるようにしています。実は入院で意外と大変なことが書類上の手続きで、これは患者さんだけでなく医師にとっても負担になります。

徳島赤十字病院ではオーバーナイト入院の手続きをシンプルにして、患者さんにスムーズに入院していただけるように仕組みを整えています。

徳島赤十字病院で働く医師の約半数は卒後10年くらいの若い医師です。これは初期研修を終えた医師がそのまま残って働いてくれることが多いことに起因しています。

また、全国各地から看護師が集まる点も大きな特徴として挙げられます。

もともと赤十字病院というのは120年以上にわたって看護師養成を続けており、徳島赤十字病院では日本で初めて研修看護師制度を導入しました。この研修制度は病院独自のもので、メンターのもとで1年間ローテート研修を受けてさまざまなことを経験してもらい、2年目からは自分の興味のあるところで働いてもらう、という内容になっています。

現在、徳島赤十字病院には600人くらいの看護師がいますが、およそ半数がこの研修を受けました。研修を受けた看護師は「自分が身につけたことを後輩にも伝えたい、指導したい」という思いが強く、高いモチベーションをもって働いています。

看護師

患者さんのニーズにあった医療を提供するためには、患者さんや職員とのコミュニケーションは非常に大切なことだと考えています。

病院長という立場は孤立しがちですが、院長ブログを更新して自分の思いを患者さんや職員へ発信したり、研修医と関わって一緒に勉強する機会も設けたりして積極的にコミュニケーションをとるように心がけています。

また、今後は地域活性化にも取り組んでいきたいと考えています。

漁業が盛んな小松島では「ハモ」の水揚げ量が全国トップクラスで、ぜひ患者さんにも楽しんでいただきたいとの思いから病院食としてハモを提供しています。このほかにも地元小松島の食材を使った病院食に取り組んでいます。

本当に困っている患者さんの受け入れを断るということは、地域医療の崩壊に繋がると考えています。私たち徳島赤十字病院は24時間365日「断らない医療」を実践し、患者さんを受け入れます。

まずは地域の先生に診ていただいて、いざというときはいつでも頼りにしてほしいです。

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