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世界水準の安全・安心な医療を地域に提供する 済生会熊本病院の取り組み

世界水準の安全・安心な医療を地域に提供する 済生会熊本病院の取り組み
副島  秀久 先生

社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院 名誉院長

副島 秀久 先生

この記事の最終更新は2017年06月08日です。

社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院は、質の高い急性期病院として知られ、世界水準の医療改善体制を持つことが認められた、国際的に高い評価を得る医療機関です。この医療の質の高さは、いったいどのような取り組みによって実現されているのでしょうか。同院の2017年3月まで院長を務められ、現在は済生会支部熊本県済生会支部長である副島秀久先生にお話を伺いました。

 

当院は質の高い救急医療を追求してきました。2010年、熊本県から救命救急センターの指定を受け、同年に「救急総合診療センター」という救急科と総合診療科を組み合わせた全国でも稀な組織を創設しました。

現在、年間8,500台以上(2015年度)の救急車を受け入れ、全国トップクラスを誇ります。こうした救急の体制や設備を充実させることは、地域の皆さまの安心した暮らしにつながると考えています。

このような実績は、当院が「急性期医療の在り方」を追求し続けることで実現しました。たとえば、救急医療では、受入体制を充実させるために周囲の医療機関との連携が不可欠です。中でも12病院(約2,200床)とは特に密な連携を組み、教育連携・医療技術支援・合同講演会の開催・医師等の医療スタッフの連携などを20年以上かけて取り組んできました。こうした土台があってこそ、より充実した救急医療が実現できるようになったのです。

急患を運ぶスタッフ

当院は、医療の質と安全において世界標準を満たすことを示すJCI(国際医療機能評価機関)の認証を2013年に取得しています。JCIとは「継続的な医療の質の改善」を行う体制を審査する機関です。認証を受けた病院は世界で最も厳しい安全基準を持つと評価されます。

JCI規格は、患者さんや家族に安全で質の高い医療を提供するための、あらゆる側面を全14領域、計1100個以上の項目で評価します。ここで言う医療の質とは、施設が立派である、大型の医療機器が導入されている、といったことではありません。よりよい医療へと改善する、安全を担保するなど医療を改善する仕組みがあり、それが継続的に行われているかという観点から評価されています。

これは医療においてはとても大切な「目に見えない、しかしそれでいて、とても大切な医療の基礎」を問うものです。当院の様々なところで、どうすれば患者さんに良質な医療が提供できるのか、が散りばめられているのです。

 

JCI規格ー社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院

世界水準の認証を得るということは、世界の標準レベルを問うことだと考えています。日本の医療制度はこれまで他国と比較されずに進められてきたと感じています。

自分たちでは良い医療を行っていると思っていても、他国から見たとき、本当にそうだと言えるとは限りません。世界からみた日本の医療は、質はそれなりに高いけれど、突出した特徴はなく非効率な側面もある、というガラパゴス化した医療といえるのかもしれません。世界レベルの信頼を得るには世界基準を知ることが大切であり、そうした視点で医療体制を見直すことで、地域の患者さんから、この病院の治療は世界水準だという安心感や、納得感を持ってもらうことができます。

こういった医療の質の向上は、必ずしも病院の経営面・収益面につながるわけではありません。しかしこれからは、このような質に対する診療報酬の評価をもっと増やしていくべきではないかと考えています。

こうした改善の仕組み自体は、病院の努力で向上を目指せるものです。そういった取り組みを行っているかどうか、患者さんの満足度が向上しているかどうかを評価する体制ができれば、日本の医療はもっとよくなっていくと思います。

JCI認証受賞

JCIの認証継続には、3年に1度の更新が必要です。そのため日々の継続的な改善活動を行うことに加え、3人の外国人サーベイヤーによる5日間に渡る品質と患者安全の厳密な審査を受けて、2017年2月に認証更新が認められました。これからは世界水準の医療品質・患者安全を維持すること、そしてさらに向上させることが私達の課題です。引き続き医療の質向上に向けて真摯な態度で取り組んでいきたいと思います。

当院は、前院長の世代から医療の質を追求することにこだわってきました。JCI認証の他にも、クリニカルパスの導入、TQM部の設置など、当院では様々な取り組みを進めてきました。こういった様々な取り組みを導入してきた実績は、急性期病院として質を追求してきた歴史だといえると思います。

 

済生会熊本病院の診療体制

社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院 HPより

 

当院の対象患者さんは命の存続にかかわる緊急かつ重症な患者がほとんどです。そのためすべての診療科を幅広く揃えるのではなく、救命に特化した診療科に絞って構成されています。

重要臓器は相互に連関しており、たとえば心疾患は肺・脳・腎臓などの疾患と、脳卒中肺炎など、1つの臓器が悪化することが、他の臓器にも影響します。重症疾患の場合、関連した重要臓器の合併症が多くみられます。

だからこそ、質の高い医療を包括的に行うことには意味があり、それを実現するには関連科の集約が重要だと考えています。幅広い診療科を揃え、かつ質の高い医療体制を整えるためには、優秀かつ多数の医療従事者を集めることが必要です。しかしそういった優秀な人材を集めることは容易ではありません。診療科を増やすとしても良質な医療体制を整えられないのでは、当院が目指す高いレベルの医療を実現できません。そのため常日頃から臓器連関を意識し、緊急重症患者へ対応できるチーム医療の体制を敷き、レベルの高い、より効率的な医療ができるように取り組んでいます。

※連関…互いに関わりあうこと

 

 

社会福祉法人恩賜財団済生会熊本病院 HPより

当院では病棟管理を主な役割する医師を導入し、養成を進め診療科・職種を超えた医療体制によって全人的な医療患者さん中心のチーム医療の実現を目指しています。そのチーム医療のリーダー的存在を担う医師が「包括診療医」です。

現在、四肢外傷センターに導入しており、医療従事者そして何より患者さんからの評判はとても良好です。救急医療を担う当院では、緊急手術も多く、そうした場合に整形外科医が入院する病棟患者の対応をすぐにとる場合が難しいことがあります。こうした際に包括診療医が常駐することで、必要な時に、スムーズに病棟患者さんの治療を進める>ことが可能です。また、入院患者に多い内科的疾患発症への対応に関しては整形外科医の専門領域ではない場合もあり、そうした場合にも包括診療医が活躍しています。確実な診療が迅速に開始されますので、患者さんや現場の医療従事者にとって大きなメリットになります。

包括診療医は院内のチーム医療だけでなく、他の医療機関との連携を高める役割を担うこともできます。包括診療医は今後の地域包括ケアシステムにおいても、とても重要な役割を担う職種といえるでしょう。

私は、新たな職種の創出をしないとチーム医療の完成はないと考えています。そのため当院では以前より管理栄養士、薬剤師、臨床工学技士の病棟への配置を進めています。包括診療医も新しい職種導入の一例といえます。今後もこういった新たな職種の導入・養成に力を入れていきたいと思います。

また当院での特色ある取り組みとして、九州大学と共同で行うビッグデータ解析があります。電子カルテからデータをとれる仕組みを確立し、日々蓄積される膨大なデータを解析しています。これらのデータを解析することで、早期退院あるいは退院遅延に繋がる要因や、使用される薬剤の影響度などを明らかにできます。こうした分析によって、より良い治療計画の策定への手掛かりを得ることができるかもしれません。このようにビッグデータはとても有用な情報が得られる可能性を秘めていますので、さらに研究を進めていけたらと考えています。

 

近年、国によって地域医療構想が推進され様々な取り組みが進められています。この構想区域の設定では、もっと生活圏を重視することが大切ではないかと感じています。

現在提唱されている地域医療構想は、二次医療圏(医療法に基づいて定められた一定の区域)を原則とし、そのエリアの中で手術や救急などの一般的な医療を完結させることが掲げられています。しかし、実際の患者さんの受療動向を見てみると、必ずしもその医療圏内で治療が行われているわけではないケースが多々あります。

たとえば急性期治療の場合、宮崎県高千穂町の患者さんの7割は、熊本県に来院しています。つまり行政区を基にした二次医療圏と、患者さんの生活圏にずれがあります。そのため、患者さんの生活圏をもっと重視し、医療計画を立てることが必要で、これにより実態に合った地域包括ケアシステムの完成が期待できます。以前よりも交通機関が発達した現状からアクセシビリティも考慮し、より地域に即した生活圏重視の医療構想を組み立てていくべきだと考えています。

私は構想で適切な医療インフラを整備することで、患者さんが受診先に迷うことがなくなっていけたらいいと考えています。救急はどの病院で、お年寄りや身寄りが無い方はどこの施設で、と行く先に迷わない状況が作れればと思います。適切な受診先があり、その後の治療・療養・在宅のストーリーが描けるようなシステム作りが理想、かつこれからのビジョンだと思います。

 

 

副島秀久先生

当院の予防医療センターでは、2016年4月から生活習慣病 遺伝子ドックを行っています。この検査では、遺伝子レベルで体質をチェックして、一人ひとりに合ったアドバイスを提供しています。

遺伝子を調べることで、たとえば血糖値の上がりやすさ、筋肉のつきやすさ、動脈硬化の発症しやすさなどを明らかにすることができます。それらの遺伝的背景を調べることで、個人にあった生活習慣改善を行うことができるため、将来の起こりうる疾病の発症を未然に防ぐことができます。

ここで重要となるのは、検査結果を基に一緒に生活習慣を改善していくパートナーの存在です。個人が理解するだけではなく、当センターの担当者が解説・指導していくことでよりアウトカムが出やすくなります。検査の結果を出すことよりも、なりやすい病気に焦点をあてて予防策を講じるほうが、病気の発症を抑える上で大きな価値があるといえるでしょう。

若いころから遺伝的背景を理解していれば、予防の目的意識が明確になり、自分の行動、生活、運動、が変わっていく可能性があります。この遺伝子ドックは始めたばかりですが、こうした最先端の予防医療の普及に今後も力を入れていけたらと思います。