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今村総合病院の取り組み

今村総合病院の取り組み
今村 英仁 先生

日本医師会 常任理事、公益財団法人慈愛会 理事長

今村 英仁 先生

この記事の最終更新は2017年05月18日です。

鹿児島県に根づき、地域とともに歩んできた医療グループがあります。現在、離島を含め主に5つの病院、3つのクリニック、1つの施設を運営する慈愛会です。2200名以上ものスタッフが働く慈愛会は優秀な人材と最新の治療法を有し、古くから地域の皆さんに医療サービスを提供してきました。

2014年には80周年を迎えた慈愛会。これまでの約80年を踏まえた上で、「今後は施設完結型の医療から地域全体で取り組む医療へと移行すべきである」と展望を語るのは、公益財団法人慈愛会の今村 英仁理事長です。同法人の今村理事長にこれまでの取り組みと今後の展望についてお話をお伺いしました。

私たち慈愛会には、約80年の歴史があります。昭和9年今村産婦人科医院の開設がはじまりです。初代理事長は、100年前の桜島大正大爆発から20年の歳月をかけて医師になり開業しました。医師になる道のりは決して平坦なものではなく、代用教員から改めて中学校に入り直しそこから医師を目指し、35歳にして医師になりました。そこから約80年、開業以降も多くの皆さまに支えられてきました。私自身は3代目理事長として入職しましたが、私が入職するまでにも実にたくさんの方達に支えられ慈愛会は存続してきました。

自費会病院の外観

創設時はわずか数名で始まった当法人ですが、現在は2200名を超える保険・医療・介護・福祉・教育の専門職が在籍し、日夜患者さんのために取り組んでいます。現在は主に5つの病院と3つのクリニック、1つの施設を運営しています。

私たちの病院の中でも高い実績を誇るのが血液内科です。慈愛会の中心の病院のひとつである今村病院分院の血液内科は、全国でもトップクラスの診療実績を誇っています。

今村病院分院の血液内科は、成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)の診断・治療に関して化学療法から造血細胞移植まで積極的に行っており、全国でもトップクラスの診療実績を誇っています。早くから造血細胞移植療法(ぞうけつさいぼういしょくりょうほう・骨髄移植などの移植療法を指す)に取り組み、無菌病床を34床備え、移植症例数は約400例の実績があります。

同病院の血液内科は、昭和59年の開設以来、血液のがんである血液悪性腫瘍を中心に診療をしてきました。血液疾患の治療は抗がん剤であることに変わりないのですが、2000年以降、慢性骨髄性白血病に対するイマチニブや骨髄腫に対するボルテゾミブなど新規治療薬剤が続々と登場しました。これら新薬の使用とともに移植前治療の改良が進んだために、治療成績は確実に向上しています。

慈愛会の血液内科では、鹿児島県における血液疾患診療の中核施設になることを目指してきました。血液内科の創設当時はATL(成人T細胞白血病)、HTLV-1(ヒトT細胞白血病ウイルス)の発見に続き、HAMHTLV-1関連脊髄症)など血液疾患とその原因の発見で鹿児島県の血液内科と神経内科が世界の中でも注目を集めていました。その頃から、地域の連携病院の先生方から血液疾患の患者さんの紹介を受け、どんな症状の患者さんでも可能な限り引き受け治療にあたることを目標とし実践してきました。

お話してきたように、血液内科における高い治療成績を誇っている理由のひとつは、徹底したチーム医療の実践です。発展を続けている治療法を安全で確実に提供するためには、診療スタッフ同士の連携が欠かせません。私たちは医師や看護師だけではなく、薬剤師や理学療法士なども含めた多職種でカンファレンスを行っています。また、他診療科との連携を実現している点も高い治療成績の要因のひとつです。

カンファレンス

 

今後、高齢者が増加していくことを考えたとき、高齢の患者さんの血液疾患診療をどのように行うかが課題になると考えています。そのためには、高齢者の疾病構造の特徴を理解し、いかに適正な医療を提供していくかに取り組む必要があります。血液疾患治療は日々進化を続けており、今後も新たな治療法の研究を続けていきたいと考えています。

血液内科とともに、私たちの取り組みのもうひとつの柱は、離島における精神科病院です。慈愛会には、精神科を主とする3つの病院(谷山、奄美、徳之島)がありますが、これらの病院の特徴は社会復帰支援を積極的に進めている点です。

慈愛会の精神科病院では、急性期の患者さんの24時間365日の受け入れ体制を実現しています。その上で、地域生活への復帰を目指した3ヶ月を目途とした診療計画のもと集中した治療を提供しています。また、今村病院分院の精神科との連携により、身体合併症の患者さんに対しても、精神症状と身体疾患の両方に万全な診療体制を整えています。

診療中の医師と患者さん

 

私たちの病院の精神科では、治療をして終わりということはなく、治療が終わった後も患者さんの社会復帰支援に積極的に取り組んでいます。退院後の在宅支援部門としてグループホーム(アパートを含む)を用意し、生活の場を提供するとともに共同生活を通じて自立支援を行っています。さらに、地域生活支援部門として、デイケア・作業療法・訪問看護など、グループ内の社会復帰関連施設により地域生活への復帰を後押ししています。

また、近年の新たな取り組みとして、多職種チームによるアウトリーチ事業(出張サービス)や外来OT(作業療法)を行っています。特に、何らかの理由により受療を中断している方や自らの意志で受診をすることが困難な患者さんを対象に取り組んでいます。

お話してきたような医療を実現するためには、スタッフの育成が何よりも重要になります。私たち慈愛会は、現在2200名を超えるスタッフが働いていますが、この人材こそ「慈愛会の財産」であると考えています。スタッフははじめから一流というわけでは必ずしもなく、努力を積み重ね一流のスタッフに成長していきます。私たちも成長を促すよう各部門に対し体系的な研修を用意していますし、今後もさらに効果的なキャリア開発プログラムになるよう検討していく予定です。

ここではひとつの例として、看護職員のキャリア開発プログラムについてお話します。今後高齢化が進行することを考えても、看護職の力がさらに必要とされる時代になるでしょう。慈愛会では、働きがいのある病院と評価されることを目指し労働環境の改善を行い、一人ひとりの看護師が目標を持つことができるように入職から概ね5年目までの看護師に向けて様々な研修を用意しています。

看護職員のキャリア開発プログラム

また、慈愛会の組織の中で転勤も可能ですが、どの病院で勤務することになってもそれぞれの看護職の成長度がわかるシステムを構築しています。

私は、今後ますます施設完結型の医療から地域全体で患者さんを診る医療に移行していくと考えています。特に介護の分野において、近年「地域密着型」という言葉が使われますが、医療の分野でも地域一帯型の保険医療福祉複合体の実現が重要になるでしょう。

今後国が提唱する地域医療構想が進行すると、かかりつけ医の存在が必要になると思います。将来的には、地域のかかりつけ医に相談すれば、総合病院で治療をする必要がある方は大学病院に連携されますし、在宅で治療ができる方は在宅で診るというように、より効率的で効果的な医療サービスが実現されるでしょう。

国が推進する地域包括ケアシステムの時代を迎え、私たち慈愛会も地域とともに「保険・医療・介護・福祉・教育」の複合体を目指して活動を行っていきたいと考えています。

お話したような地域包括ケアシステムの実現のためには既存の2つの急性期病院の再編が鍵になると考えています。私たちはこれら急性期病院を

  • 救急・専門に特化した慈愛会総合型病院
  • リハビリ・在宅支援・在宅復帰・緩和ケアを主とした病院

と再編するよう計画しています。患者さんの急変に対応する病院とともに、リハビリや在宅支援を中心とした病院を整備することにより、地域の中で患者さんを診る体制を築くことができると考えています。

また、地域包括ケアの実現に向けては、人材の育成も重要になります。そのために現在構想しているのは、医療人材育成センターの設立です。教育施設の創設により、鹿児島県の地域包括ケアシステムを支える人材を育成するような教育活動事業にも力を入れていきたいと考えています。

私たちは80年余り、鹿児島県に根をはり医療に取り組んできました。当初は数名で始まった慈愛会ですが、現在では医療のプロをはじめとする多数のプロフェッショナルに支えられ大きな組織になっています。しかし、根本にある「患者さんを肉親と思い、医療の達人を目指す」という想いは変わりません。

慈愛会の職員

今後はさらに高齢化が進み、病院の役割も変わっていくと考えています。つまり、病院が患者さんを治療していればいい時代は終わったのです。私たちは、病院という施設完結型の医療から、地域全体で患者さんを診る医療サービスを目指していきたいと思っています。

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  • 日本医師会 常任理事、公益財団法人慈愛会 理事長

    今村 英仁 先生

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