市立三次中央病院は1952年に広島県双三郡の双三中央病院組合により開設されて以来、地域の医療需要に応えて拡大・発展を重ね、1994年に現在の三次市東酒屋町に総合移転してきました。移転以来、三次市、庄原市、安芸高田市、隣接する島根県を含む中山間地域の中核病院として、最新の医療機器をそろえ、一般病床350床と70名を超える医師数で地域住民の健康保持に大きく貢献しています。
高齢化・過疎化の進む県北の中核病院として地域の急性期医療を支えるため、さまざまな事業に率先して取り組む同院について、院長である中西 敏夫先生に詳しくお話を伺いました。
当院は広島県北の中山間、へき地とされる地域でもっとも大きく、地域の中核病院の役割を担っている病院です。全国で地域医療構想が議論されるなか、効率性を考えるとへき地の小さい病院をひとつに集約化することが望ましいように思われます。しかし、病院というのはそこに住民がいて、医療を必要とする方がいる限り、簡単になくなってはならないのです。
とはいえ、自治体病院はいろんな制約が多く、地域医療を進めるには、住民のみなさまや、医療提供者(地域医療機関)、行政の3者が医療に対してある程度の合意ができている、ということが重要になってきます。広島県では、県北地域の医療機関として当院を円滑に機能させなければならないとし、広島大学から年間約15名の医師(後期研修医)がローテーションで派遣されています。
当院は患者さんにかかりつけ医を持つことを勧め、逆紹介に力を入れてきました。現在は紹介率60%、逆紹介率は85%という高水準になり、地域支援病院となっています。また、地域の医師会の先生と連携し、医療機能を分担することで、より高度な医療を当院で提供できるようにしています。さらに地域の開業医の先生が病気などになった場合、当院から医師を派遣して支援しています。
中山間、へき地の医療を守るためには、地域全体で、どのような医療体制があり、医師数がどれだけ必要かを把握し、診療支援や医師のローテーションを行うことが求められます。
広島県では、広島県医師会を事業主体とする「広島医療ネットワーク」の運用が開始され、医療機関のあいだで診療情報の相互参照が可能になりました。もちろん当院もこのネットワークに参加しています。これにより地域かかりつけ医の先生も、当院の患者さんの診療結果を確認できます。
この地域で医療が完結するために、中核病院として当院の担う役割は明確です。
広島市内の大規模・大学病院に行かなくても、がんや外科の手術などの質の高い診療を患者さんに提供できるようにすることです。そのためにも、陽電子断層撮影装置(PET-CT)や、320列の全身用コンピュータ断層装置(CT)など、最新の医療機器をそろえています。医師数は70名を超え、これは中山間地域の病院ではまれにみる規模といえます。
また、がん診療連携拠点病院として、緩和ケアにも力を入れています。2013年に広島大学より専門医を招き、緩和ケア内科を新設しました。また昨年10月には県内で2番目の緩和ケアセンターを立ち上げ5名の緩和ケアチームが入院、外来、在宅緩和ケアを提供しています。
過疎化・高齢化の進む県北では医療機関が少なく、広島市内からも遠いことから人材確保も容易ではありません。質のよい医療提供体制のためには、医療機関同士の協力が不可欠です。そのために、2017年4月に三次市、庄原市内の3医療機関で社団法人「備北メディカルネットワーク」を創設しました。この地域にどれだけの医師がいれば医療が成り立つのかを把握し、地域全体での人材育成、医師の確保に取り組みます。また、医師や看護師の相互派遣、高額医療器の共同購入なども可能となりました。備北地域で働く医師に向けた初期診療セミナーも定期的に開催し、参加者も多く好評いただいています。
若い先生をどのように育て、医師のキャリアアップをどのように進めていくのか。これは広島県だけではなく、日本全体で考えていかなければいけないことだと思います。
そのなかで中山間地域の病院は医師不足に悩んでいるのが現状です。医師の確保や若い先生を育てるにはどうすればよいのか、当院で「中山間地域の病院に来てよかった」と医師たちに思ってもらうにはどうすればよいか、そのための取り組みに力を入れています。
当院では医師の研修や学会、勉強会の年間参加数に制限を一切設けていません。研修費、出張費などかかる費用はすべて病院が負担しています。
当院は、このような費用もきちんと予算を組み、長く活動として取り入れてきました。自治体病院協議会が行う指導医講習も積極的に受けてもらっていますので、当院には指導医の資格を持った医師が非常に多くなっています。その結果、若手医師への適切な指導へとつながっています。
また、当院では医師の兼業や、他医療機関・病院への診療支援も認めています。これは公的病院では珍しいことです。
当院の医師と管理職全員には持ち歩き可能なモバイル端末を配布しています。専用のVPN回線でどこからでも電子カルテの情報が閲覧できるシステムを構築しました。プライベートでの使用も自由です。
この端末配布は2012年から開始し、病院全体での導入は当時全国初の取り組みでした。導入のきっかけは、職員に少しでも何か還元し、情報取集に役立ててほしかったことと、週末は広島市内に帰る単身赴任の先生も多いため、院外からも患者さんの電子カルテが閲覧できれば助かるのではないかという思いからです。
今は出張先や移動時、自宅などで患者さん急変時の電話対応も、カルテをみながら指示をだせますし、その後の様態確認も可能になりました。
実際の電子カルテの使い方は医師によってそれぞれです。しかし、いつでも緊急時にカルテをみられるという安心感は大きいといえます。
地方都市は人口が少ないことが不利と思われるかもしれません。しかし、医療に関しては、一人ひとりにきめ細かいサービスが提供できるメリットであるともいえます。その点から考えると、三次市の人口は約5万3千人であり、この地域の病院・医師数に対してちょうどよい人口規模といえます。地域住民に寄り添った抜け目のないサービスを提供できる体制をつくることが、患者さんにとっても、病院にとっても、もっともよいことです。
肺がんの早期発見を目的とし、2015年1月から低線量X線CT検診を開始しました。これは広島大学、東京大学との共同研究として、国内初の試みです。
この検診も三次市の地域住民のみなさまに喫煙歴のアンケートを実施したことからスタートしています。
小児救急は当院の常勤医師4名と、広島大学・地元の小児科医の支援により、365日24時間体制で受け入れています。この地域の方々にとって、夜中でもいつでも小児科の専門医がみてくれるということは、とても安心できることではないでしょうか。これは県内でも大変恵まれた体制です。
当院のような中山間地域の病院に赴任された先生には、自分の専門分野の領域だけではなく、患者さんの全身疾患を理解・コンサルトできるようになってほしいと思います。そのために総合的な視点で学べる環境を当院では用意しています。
研修や勉強会参加費はすべて病院が負担していますので、資格取得や知識向上のため積極的に参加してほしいと思っています。
また、各診療科の垣根が低いのも特徴です。当院は医師数70名ほどの規模ですので、各診療科の先生と相談がしやすく、連携も取りやすいため勉強になることと思います。
そして、地域医療や自分の専門領域外も幅広く勉強をしていただくため、広島県では基金による「包括的過疎地域医師育成・活躍支援システム整備事業」を展開しています。当院のような中核病院と地域の病院、そして広島大学とのあいだで、さまざまな救急症例や感染症例のカンファレンスを行い、定期的研修会や数か月単位の移動をともなう規模の大きな研修も取り入れています。
高齢化・過疎化の進むこの地域では、今後医療の需要が減少することは否めません。将来、万が一にもこの地域の開業病院や診療所がなくなってしまったときに、当院はどのように地域を支える運営形態にするべきであるか検討が必要です。たとえば今は民間が担っている訪問看護などを取り入れる必要があるかもしれません。この地域の医療需要に応じてどれだけの医療資源を確保していくのか考えることは、非常に大切なことです。
そういった意味でも、地域連携推進法人「備北メディカルネットワーク」をつくりました。このネットワークのなかに、民間の医療機関や介護事業も含め、地域住民のみなさまにとって安全で安心な医療を提供できる体制を地域全体でつくってまいります。
市立三次中央病院 元病院長
市立三次中央病院 元病院長
日本消化器病学会 消化器病指導医・消化器病専門医日本肝臓学会 肝臓指導医・肝臓専門医日本内科学会 認定内科医
1972年より消化器内科医師としてキャリアをはじめる。1986年、医学博士を修得。1995年には広島大学病院助教授に就任。専門領域の肝臓研究以外に放射線部、医療情報部の副部長として活躍。社団法人呉市医師会病院、庄原赤十字病院で病院長を歴任し、2009年から市立三次中央病院の病院長に就任。中山間地における医療を守るべく、人材の確保や設備の充実に尽力する。患者に向き合い医療現場に立ち続ける一方、後任の育成にも力を注ぎ、周辺の医療機関と連携した地域連携推進法人を立ち上げ、リーダーシップを発揮している。
中西 敏夫 先生の所属医療機関
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