院長インタビュー

高齢者医療のモデル病院として未来の医療のあり方を発信する藍野病院

高齢者医療のモデル病院として未来の医療のあり方を発信する藍野病院
杉野 正一 先生

医療法人恒昭会 藍野病院 名誉院長、大阪医科大学 臨床教育教授

杉野 正一 先生

この記事の最終更新は2018年06月25日です。

将来に『長寿医療センター』を視野に置く藍野病院は近年、高齢者医療に主軸をおいた「認知症も診てもらえる総合病院」という認識が浸透してきました。

藍野病院の概要、病院機能、診療の特徴や病院独自の取り組みなどについて、病院長の杉野正一先生にお話を伺いました。

藍野病院様よりご提供

藍野病院は1965年に精神科病棟100床を有する病院として発足しました。当初から内科と外科も併設していましたが、1975年の600床の新館増築に伴い9診療科を増設して総合病院化を進めました。その後も一般病床や診療科の増設などを進めながら総合病院としての機能を拡大して、現在では要介護予防も含めた「長寿医療センター」を目標に掲げ、高齢者の病態に合わせたチーム医療を提供できるよう日々取り組んでいます。

藍野病院様よりご提供

2018年4月現在、当院では18診療科と一般病床と精神病床あわせて969病床を有しています[注1]。一般病床と精神病床は、緊急の対応が必要な急性期病棟と時間をかけて病気と向き合う地域包括ケア病棟や慢性期病棟とそれぞれ対応可能な、いわゆるケアミックス病棟のため、入院する原因となった病気や身体機能回復の程度に応じて病棟を選び、もとの生活に復帰するための医療サービスが提供可能です。

[注1]記事中でご紹介する従業員の人数や配置状況は、現在の実態とは異なる可能性があります。ご了承ください。

高齢者の病態には、加齢による影響を受けやすい高齢者ならではの問題があります。

たとえば、高齢になるほど複数の病気を抱え(多病)、それぞれに対応する薬剤をたくさん服用している方が増えます。認知症も発症しやすくなるため、高齢者の平均寿命が伸びるほど認知症の患者さんも増加すると推察しています。たとえ認知症がなくとも病気や心身の不調がきっかけでせん妄[注2]や抑うつ状態になりやすいことから、高齢者では身体と心を合わせて診る診療が求められます。また高齢になるほど身体機能低下が進み、サルコペニアをはじめとする老年症候群や廃用症候群なども進行しやすくなるため、ひとたび入院すると自宅で生活できる状態へ体力が回復するまで、時間がかかる方も多くなります。

このように複数の課題を抱える高齢者の医療ですが、実は当院の診療体制こそ高齢者の医療にフィットしている、と自負しております。

[注2]せん妄:病気や使用中の薬剤の影響による、一時的な意識障害や認知機能低下

藍野病院の診療体制が高齢者医療に適していると考えた理由は、いくつかあります。

1つ目は診療科間の垣根が低く、各科専門医が協力して診療にあたる体制が浸透している総合病院だったため多病に対する診療が可能だったこと、2つ目は精神科の医師が多く在籍しており認知症の方や身体的な問題からせん妄を来した方なども受け入れる体制を整備しやすかったこと。そして3つ目は、各種リハビリテーションに専従するスタッフや臨床心理士、社会福祉士などが多数在籍していたことから、在宅医療を含め社会復帰するために必要なチーム医療を提供するだけのマンパワーが充実していたことです。

こうした特長がそろっていた当院では、認知症専門診療、パーキンソン病に対する薬物治療のみならず、非薬物治療を加えたトータル医療、糖尿病関節リウマチに対する『チーム医療』など特色ある治療体制を中心に、高齢者医療を重視した診療体制の整備をすすめました。

さらに、地域に向けて『在宅療養』のバックアップ体制の強化を図ってまいりました。これは、患者さんには在宅復帰を支援し、一方で、不調となればいつでも入院していただける診療体制の構築です。

2015年からは、『在宅療養後方支援病院』の届出を致しました。これにより、訪問診療を受けておられる在宅療養患者さんや施設入所の患者さんに対して、あらかじめ登録をして頂くことで24時間いつでも入院治療をお引き受けする体制ができました。これらの取り組みは、在宅医療を行っておられる診療所のバックアップともなります。2018年3月末現在、登録患者さんは300人を超えています。

また当院では、地域包括ケア病棟(51床)も有しています。60日以内の在宅復帰を目指して、院内でリハビリを実践しながら地域に戻る準備をすることも可能です。

認知症診療のオールインワン病院として、早期診断や鑑別診断、介護のご家族を最も悩ませる精神症状(BPSD)の治療、認知症の方に合併した身体疾患に対する内科・外科治療を実施しています。

2001年に開設したもの忘れ外来では、神経内科と精神科の医師が患者さんの病状等に合わせた診療を行っています。異なる診療科同士の連携がスムーズなことに加え、認知機能や精神症状の程度に応じて入院治療も可能です。認知症退院支援パスを導入し早期の在宅復帰をめざしています。

認知症の方に合併する身体疾患の内科・外科的治療は当院の特性が最も活かされた診療であり、一般科病棟や精神科急性期病棟において、身体科医と精神科医の併診により治療を行っています。このような診療体制を組める病院は限られているため、大阪府下全域より患者さんをご紹介いただいています。

さらに、当院有志の多職種スタッフによる「あいの認知症プロジェクト」も精力的に活動しています。認知症に対する理解を深めることで病院内や周辺地域の認知症ケアを向上しようという取り組みで、病院での家族教室や園芸療法などに加えて、地域に向けて認知症ケア講座の開催や、見える事例検討会の普及などを実施しています。

2018年4月現在、認定看護師3名、認知症ケア専門誌44名、事務職を含め常勤職員350名が認知症サポーターとなり、病院全体で認知症の方やご家族の方を応援しています。

地域においては「茨木市モデル」の主導とバックアップも実施しています。これは行政、三師会[注3]、介護系職種による認知症を中心に据え全ての高齢者を対象にした地域連携システムで、地域に対して多層的地域連携アプローチを行う先進的な取り組みはWHOでも紹介されました。

[注3]三師会:地域の医師会、歯科医師会、薬剤師会

藍野病院様よりご提供

高齢化に伴い、パーキンソン病を発症する方も増加すると予測されています。パーキンソン病では運動症状に加えて、立ちくらみ、便秘といった自律神経障害症状や心気症、抑うつ症状などに代表される精神症状などの非運動症状も出現します。特に高齢のパーキンソン病患者さんの場合、加齢による身体機能低下も伴うため、薬物療法だけでなく非運動症状に対する継続的なリハビリテーションも欠かせません。

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当院では外来患者さんを対象に、リズミカルな音楽に合わせて体を動かす「パーキンソン・ダンスリハビリ教室」を開催しています。またパーキンソン病の患者さんを対象とした4週間にわたる『リハビリ+教育入院』も実施しており、入院によって日常生活よりも活動量が減ることのないよう「日中、寝かさないプログラム」をキャッチフレーズに掲げ、病気に対する教育や生活上の指導やアドバイス、リハビリテーションを行っています。

糖尿病患者さんに対し、5名の糖尿病内科医だけでなく精神科や眼科、看護師、栄養師、心理療法士などが協働してチーム医療を展開する「シンメディカル糖尿病治療」を実施しています。

周辺地域との連携や糖尿病治療に携わる療養指導士育成のため、糖尿病のチーム医療をテーマに掲げた『藍野糖尿病シンメディカルセミナー』は大阪府下に呼びかけて2004年より毎年開催しており、既に15回を重ねています。

藍野病院では大阪医科大学の協力型臨床研修病院として医学部6年生や初期臨床研修医を受け入れ、地域医療研修の場を提供しています。後期研修医に対しては、当院に常勤医師として勤務していただき、臨床研修や専門研修を年単位で実施しています。

看護科やリハビリテーション科では、当院の系列機関である藍野大学や他の医療福祉系大学の学生を受け入れ研修指導しています。当院は数年かけてじっくり成長していただく研修教育システムを採用しており、それぞれの目標を定期的に見直しながらキャリアアップ実現に向けて自主的に取り組んでいただいています。

また当院ではすべての部署と職員に対し、学会発表など臨床研究の積極的参加を支援しています。

藍野病院様よりご提供

2025年問題に代表されるような高齢社会の到来と、それに伴う医療問題が叫ばれて久しいです。藍野病院には、病気のみでなく患者さんの心身全体を診て診療する体制と、各診療科による連携体制や他職種によるチーム医療を実践する土壌が培われています。

藍野病院は「はつらつ長寿を目指す総合病院」として、地域のみなさまに心身両面からのチーム医療を提供できるよう、職員一同取り組んでまいります。

当院で取り組まれている医療は、超高齢者社会が進行する日本でもっとも必要とされる医療です。みなさんの仕事は、高度なスキル獲得とキャリアアップにつながる糧となります。

当院を受診された患者さんとご家族の心身に届くチーム医療を実現できるよう、日々取り組んでいきましょう。

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  • 医療法人恒昭会 藍野病院 名誉院長、大阪医科大学 臨床教育教授

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