びまん性胸膜肥厚とは、肺を包む胸膜が線維化し肥厚する病気です。胸膜の線維化が広がると、肺の表面が肥厚*し硬くなり膨らまなくなります。それによって、呼吸機能が低下し、呼吸困難などの症状が現れることがわかっています。
この病気の原因にはさまざまなものがありますが、そのひとつがアスベスト(石綿)*と呼ばれる物質の吸引です。
今回は、横須賀市立うわまち病院の三浦 溥太郎先生に、アスベストを原因とするびまん性胸膜肥厚の特徴についてお話しいただきました。
肥厚:厚くなること
アスベスト(石綿):天然の繊維状けい酸塩鉱物の総称。
びまん性胸膜肥厚とは、肺を包む胸膜が線維化することによって呼吸機能が低下する病気です。通常、肺は柔らかく、呼吸によって膨らみます。しかし、線維化が進行し肺の表面にある胸膜が硬くなると、肺が膨らまなくなってしまいます。そのため、呼吸が難しくなり、息切れなどの症状が現れます。
胸膜の線維化は、片方の肺のみに起こることもありますし、両方の肺に起こることもあります。一部分に限定して起こるのではなく、徐々に全体へ広がっていく点が特徴です。
肺の外側を包む胸膜は二重の構造になっており、肺に近い方の膜を臓側胸膜、外側の膜を壁側胸膜と呼びます。このうち、びまん性胸膜肥厚は、臓側胸膜が線維化する病気です。線維化は、もうひとつの壁側胸膜にも及び、2枚の膜が癒着することが多いです。
びまん性胸膜肥厚の原因にはさまざまなものがあります。以下は、びまん性胸膜肥厚を引き起こす主な原因です。
これらの原因によって、びまん性胸膜肥厚が起こるのはなぜか、詳しいメカニズムは未だ十分には解明されていません。
びまん性胸膜肥厚は、アスベスト(石綿)と呼ばれる物質を原因として発症する病気のひとつです。
アスベストとは、天然の繊維状けい酸塩鉱物の総称です。石綿と呼ばれることもあります。極めて細い繊維で、熱に強く丈夫で変化しにくいという特性をもっています。その特性から、建材(保温・断熱材など)などさまざまな工業製品に使用されていました。
しかし、アスベストが体内に入ると、肺がんを始めとするさまざまな健康被害を引き起こす可能性があることがわかりました。このような健康被害を考慮し、日本では2006年よりアスベストの製造・使用等が全面的に禁止されています。
上述のとおり、日本ではアスベストの使用は禁止されています。しかし、今後もアスベストによる病気が発生する可能性があるといわれています。なぜなら、アスベストを原因とする病気の多くは、最初のアスベストばく露(さらされること)から数10年程度の潜伏期間を経て発症するという特徴があるためです。
潜伏期間は、患者さんや病気によってさまざまです。びまん性胸膜肥厚は、10〜40年程度の潜伏期間を経て発症するケースが多いといわれています。
びまん性胸膜肥厚を発症する前に、良性石綿胸水と呼ばれる病気を生じることがあります。良性石綿胸水とは、アスベストが原因で胸膜に炎症が起こり、胸水*がたまる病気です。この病気では、経過とともに自然に胸水が消滅する場合が多いため、基本的には経過観察が選択されます。しかし、この経過観察中や治った後にびまん性胸膜肥厚を発症することがあります。
アスベストを原因とするびまん性胸膜肥厚は、あらゆる年代で起こる可能性があります。また、男性の発症が多いことがわかっています。それは、アスベストが主に工業製品や建築資材に使われていたことが関係しています。工業製品の製作現場や、建築現場の作業者には男性が多いという背景があるためです。
胸水…肺の外側を包んでいる2枚の膜の間の胸腔(きょうくう)にたまる体液のこと。
びまん性胸膜肥厚では、呼吸困難(息切れ)の症状が現れます。坂道での息切れに始まり、平地での歩行が遅くなり、さらには100メートル歩いただけで息が切れるなどの状態になることもあります。重症になると、着替えも苦しくてできなくなります。酸素が足りない呼吸不全(酸素を取り入れ、体内の炭酸ガスを排出するという肺のはたらきが機能しなくなる状態)という状態で、常時酸素吸入が必要になります。
また、胸の痛みや、肺炎などの呼吸器感染が起こることもあります。呼吸器感染が起こると重症化しやすいため、風邪をひかないよう注意が必要です。
胸膜の線維化は、一部分に限定して起こるのではなく、徐々に広がっていく点が特徴です。びまん性胸膜肥厚によって線維化して肥厚し硬くなった胸膜は、再び元に戻ることはありません。記事4で詳しくお話ししますが、今のところ、びまん性胸膜肥厚を根本から治療する方法はみつかっていません。そのため、病気は徐々に進行していきます。
しかし、病気の進行のスピードには個人差が大きくあります。進行が遅く軽症のまま経過する方もいる一方、進行が速く発症から間もなく重症化する方もいます。
横須賀市立うわまち病院 呼吸器内科顧問
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