概要
びまん性*胸膜肥厚とは、肺を包む胸膜が炎症を起こし、線維化**して胸膜全体の1/4以上に広がるように厚くなる病気です。
通常、胸膜は薄く伸縮性がありますが、アスベスト(石綿)への曝露***、感染症や基礎疾患などのさまざまな原因によって線維化する可能性があります。線維化が進行すると胸膜は厚く硬くなり、肺が十分に膨らまなくなるため、呼吸機能の低下(息切れ)、胸痛などの症状が現れます。
根本的な治療方法は現時点で見つかっておらず、症状を緩和するための対症療法が中心となります。
*びまん性:病変部位が広範囲に広がっていること。
**線維化:本来の組織がコラーゲンなどのタンパク質に置き換わり硬くなってしまうこと。
***曝露:吸引や体に付くなどして体内に入り込むこと。
原因
アスベストへの曝露により石綿肺や良性石綿胸水*を発症したのちに、びまん性胸膜肥厚を生じることが多いとされています。中には、アスベストに曝露しても明らかな胸水や炎症はみられず、徐々に胸膜肥厚が広がり、びまん性胸膜肥厚に至るケースもあるとされています。
また、結核性胸膜炎の後遺症として発症したり、心不全やリウマチなどの病気により胸水や肺の炎症が生じ、傷あとのように胸膜の組織が変性**してびまん性胸膜肥厚を生じたりするケースもあります。
*石綿肺や良性石綿胸水:石綿肺は、高濃度のアスベストへの曝露により生じたじん肺(肺が硬く変性した状態)のこと。良性石綿胸水は、アスベストへの曝露により良性の胸水がたまった状態を指す。
**変性:正常な組織や細胞の機能・形状が何らかの障害を受けて変化し、機能不全が生じた状態のこと。
症状
びまん性胸膜肥厚では、肺を包む胸膜が線維化することで肺が膨らまなくなり、たとえば、歩いただけで息が切れるなどの呼吸器症状が生じます。胸の痛みや咳、痰、肺炎などの呼吸器感染がみられることもあります。
進行して慢性呼吸不全に陥ると安静時でも呼吸困難が続くため、在宅酸素療法などの治療が必要になります。
検査・診断
びまん性胸膜肥厚の検査では、アスベスト曝露の既往歴の聴取と、肺の状態を詳しく確認するために胸部X線検査やCT検査などの画像検査のほか、肺機能検査*を行う場合もあります。
胸水がある場合は、がんや結核による胸膜炎と鑑別するために胸腔を穿刺して採取した胸水を検査に出します。また、肺がんや悪性中皮腫を否定できない場合は、がんの有無や広がりなどを調べるPET検査や手術的に胸膜の組織を採取して調べる胸膜生検を行うこともあります。
これらの検査の結果、良性の胸膜肥厚と診断され、胸膜の肥厚が両側の肺の側面(側胸壁)で1/4以上にわたり広がっている、もしくは片方の肺の側胸壁で1/2以上広がっている場合に、びまん性胸膜肥厚と診断されます。
*肺機能検査:口から出入りする空気の量を測定し、肺の容積や膨らみやすさなどを調べる検査。
治療
現時点では、びまん性胸膜肥厚の進行を食い止める根本的な治療法がないため、症状を緩和する対症療法が中心となります。
病気の進行に伴い、喉に痰が詰まる、咳が出るといった症状がみられる場合には、痰を出しやすくする去痰薬、咳を抑える咳止め薬が用いられます。
重症化して慢性呼吸不全を生じている場合は、在宅酸素療法を行います。在宅酸素療法では、酸素供給装置からチューブを通して酸素を吸入します。
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