横浜市医師会は「市民の健康と福祉を守る横浜市医師会」をモットーに、横浜市行政などと協働して、医療・介護・福祉に関するさまざまな事業に取り組んでいます。同会の会長である水野恭一先生は、中でも災害対策、地域包括ケアシステムの構築、そして日本の人口減少という大きな問題を見据えて学校保健に関わる事業に力を注いでいます。
今回は、横浜市医師会の取り組みについて、横浜市医師会会長の水野恭一先生にお話を伺いました。
横浜市医師会は、横浜市内の医師約3,900名を会員とする一般社団法人です(2019年1月時点)。市内18区医師会と大学区医師会により組織された、医療の学術専門団体として、市民の方々の医療・保険・福祉の充実、向上に努めています。
本会の取り組む事業は、地域医療連携センターや聖灯看護専門学校の運営、学校医・保育園医の選任、会員に対する生涯教育研修、超高齢社会を見据えた在宅医療、災害時医療など多岐にわたります。
また、本会が運営する桜木町・北部・南西部の3つの夜間急病センター、18区医師会が運営している休日急患診療所は、地域の方々の休日・夜間一次救急診療を担っています。各種検診・予防接種・健康づくりなども含め、市民の皆さんの健康と福祉を守るために日夜尽力しています。
現在、私が力を入れていきたいと考えている事業のひとつは、横浜市の災害対策です。2019年1月現在、横浜市で30年以内に震度6弱以上の揺れが起きる確率は80%を超える状況になっています。また、風水害についても、被害を最小限にとどめる対策が必要になると考えられます。実際の災害発生時には、横浜市行政との協定に基づいて災害時医療を担うなど、地域の医療を守るために取り組んでまいります。
2つめは、医療、住まい、介護、介護予防、生活支援の5つが一体的に提供される仕組みである、地域の包括的な支援・サービス提供体制「地域包括ケアシステム」です。
記事1『横浜市医師会が守る地域医療─かかりつけ医の重要性と在宅医療の課題』でもお話ししたように、日本では医療費削減を目的とした「地域医療構想」という政策が盛んに進められていますが、横浜市では、地域の方々を支える地域包括ケアシステムの構築に関して医師会主導で取り組み、よりよいシステムを実現させたいと考えています。
3つめは、将来の人口減少を見据えて、次世代を担う子どもたちの健康を守る学校保健の充実です。横浜市医師会では、教育委員会と協力して市内の各市立学校に学校医を配置し、児童・生徒の健診などを実施しています。
学校保健の課題の中でも私が着目しているのは、保健室に集まる子どもたちの抱える問題です。そして、教育相談員・学校カウンセラーへの相談が市内だけでも年間およそ4万5千件に上っているにもかかわらず、それに関して学校医への連絡が不足していることが挙げられます(2017年3月末時点)。
横浜市立学校の学校医*としては内科・眼科・耳鼻科・歯科・薬剤師会が関与していますが、それに加えて今後は整形外科・精神科・婦人科・皮膚科などの先生方にも学校保健委員会に参加していただく予定であり、教育委員会との話し合いも進めていきたいと考えています。
学校医…学校での保健管理や生徒の健康診断などにあたる医師のこと。
山崎先生:災害対策、地域包括ケアシステム、学校保健、これらが水野会長の3つの柱です。中でも、会長のお話にありましたように、学校保健に関しては学校医への連絡不足が課題です。学校医が頻回に訪問している学校からは少数ながら報告を受けていることから、今後はさらに学校医の先生方との連携を進め、学校保健に関する事業の充実を図っていきたいと考えています。
水野先生:横浜市では、たとえば学校心臓病検診で二次健診、三次検診を受けて異常が発見された場合、その結果は生徒本人に通知される仕組みになっています。今後はそこへ学校医の先生に参画していただくことも考えています。
また、たとえば婦人科の先生からは、性教育は小学5年生頃から、特に女性にはしっかりと教育活動をしていきたいというご意見が上がっています。そのほか、寝たきりを引き起こす運動器の病気であるロコモティブシンドローム(ロコモ)の予防として、横浜市では子どもの背骨や腰の検査を毎年実施していますが、整形外科の先生からは、小学校1年生、5年生、中学1年生の3回定期検査を行うことが望ましいというご意見も上がっています。先生方のご意見を取り入れ、事業内容を再考するよう心がけています。
山崎先生:横浜市は母集団として非常に大きい都市ですから、ひとつの事業を進めるためにも時間を要します。最近では、子どもの成長の目安となる「成長曲線」の学校での活用が進められていますが、実際に実施するためにはいくつかの課題があると考えています。
成長曲線は、これまでは主に就学前の子どもたちの発育の評価としての使用に留まっていました。しかし、その後の小中学校においても、積極的に活用することに大きな意義があります。たとえば、生まれつきの障がいをもつお子さんの中には、就学後に成長異常や健康障害などを抱える方も少なくありません。学校現場で成長曲線を活用して異常が発見されたら学校医につなげ、さらに学校医が専門の医療機関をすすめられる仕組みが確立すれば、早期の対応が可能になります。横浜市では医療局がこのシステムの構築にあたっていますが、それを実現するためのソフトウェアの共通化は課題のひとつです。
水野先生:横浜市の教育総合相談センターなどへの相談件数は、生徒だけでなく、親や、学校の先生からの相談もすべて含めて12万4千件に上ります(2017年3月末時点)。子どもたちの安心・安全を守るための事業を充実させるにあたって、学校医として関わっている地域の先生方には、今後ともご協力をお願いしたいと思います。
横浜市医師会は、横浜市民の健康と福祉、暮らしの安心を守ることに寄与すべく、各種事業を行っています。そのためには横浜市医師会会員の皆さんのご協力が欠かせません。学校医の先生方にも、地域医療に貢献するため大変な仕事を請け負っていただいています。横浜市医師会に入会される方には、こういった事業へのご協力をお約束いただいています。
また、私たち横浜市医師会の取り組みを実行していくためには、医師会の力だけではなく、行政や、市民の代表である議員の方々のご理解とご協力が必要です。私が会長に就任した2017年以降、多くの方と話し合う機会を設け、事業の目的や意義をなるべく詳細に話すように努めてきました。私たちの行っていきたい事業や思いを伝えるためには、市民や議員の方々に向けた広報活動も大切だと考えています。横浜市医師会会長として、引き続き横浜市民の皆さんのために尽力してまいります。
横浜市医師会 副会長、山崎胃腸科内科クリニック 院長
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