2019年9月21日(土)、神奈川県藤沢市・江ノ島にある植物園「江の島サムエル・コッキング苑」にて、世界アルツハイマーデーイベント「江の島みんなフェス」が開催されました。江の島で開催された今年の世界アルツハイマーデーイベントは、初の屋外開催となり、認知症当事者の方とそのご家族による音楽演奏、プロの歌手によるミニライブ、医師・藤沢市副市長・当事者の方を交えたトークセッションなどが行われました。
主催は、「江の島みんなフェス実行委員会」(実行委員長:湘南いなほクリニック院長・湘南健康大学代表 内門大丈先生のメンバーです。本記事では、当日の様子をレポートします。
※2016年~2018年の世界アルツハイマーデーのレポートはこちらをご覧ください。
『湘南から認知症の方が住みよい街づくりを−2016年世界アルツハイマーデーイベントレポート』
『江ノ島がオレンジにライトアップ–2017年世界アルツハイマーデーイベントレポート』
『音楽・スポーツを通じて認知症を考える〜2018年世界アルツハイマーデーイベントレポート』
毎年9月21日は、国際アルツハイマー病協会(ADI)と世界保健機関(WHO)により「世界アルツハイマーデー」と制定されています。世界アルツハイマーデーに合わせて、藤沢市では、認知症の方に地域で自分らしく生活できることを広く知っていただくためのイベントを開催しています。
2016年より毎年開催され、第4回目を迎えた今回のイベントは、屋外で行われ、コンサートやライブを交えた「フェス」のような形であることが特徴です。音楽の力を借りることで、認知症当事者の方々が本イベントの主体となり、当事者が輝くイベントにすることを目指しました。
本プログラムは、認知症当事者の方による音楽演奏および歌唱、医師の内門大丈先生や藤沢市小野秀樹副市長などと当事者の方を交えたトークセッション、2人組のプロバンド「ハーフムーン」によるミニライブの三部構成です。
第一部は、当事者の方々が中心となって行うライブ演奏です。
第二部では、湘南いなほクリニック院長 内門大丈先生、藤沢市 小野秀樹副市長、かまくら認知症ネットワーク 代表理事 稲田秀樹さん、2名の認知症当事者(近藤さん、中村さん)を交えたトークセッションが行われました。
トークの中では、認知症と診断された経緯やその後の生活の変化、診断の難しさ、当イベントを開催する意味と目的などについて、それぞれの立場からお話がありました。
トークセッション冒頭では、小野副市長より、屋外でイベントを開催することになったきっかけについてお話がありました。
小野副市長:
今回のような屋外開催のフェスという形式を採用したきっかけは、内門先生の一言でした。内門先生が、「江の島の展望灯台がオレンジ色に変わる9月21日、その下でコンサートができないか」と提案されたことを機に、展望灯台の下にあるサムエル・コッキング苑を会場にした音楽イベントを実施することを決めました。
*湘南オレンジカフェについては、『認知症への見方を変えよう!2018年湘南オレンジカフェ(Shonan サミット)イベントレポート』をご覧ください。
続いて、認知症当事者の方より、診断された当時の心境についてお話がありました。
中村さん:
56歳のときに認知症の診断を受け、あれから2019年9月現在で13年が経ちました。私自身も家族も、まさか50代で認知症になるとは思っていませんでした。
今は元気ですが、認知症の診断を受けた直後はその事実を受け止めきれず、「自分が認知症なんてありえない」と、そのまま家に引きこもってしまいました。認知症であると先生に言われて、自分が自分でなくなってしまったような感覚に陥りました。
主治医の先生から、「外に出る方法を一緒に考えましょう」と提案していただいたことをきっかけに、自分が社会に出て生活するにはどうすればよいかを考え始めました。私は昔から写真が好きで、これを機にまた写真を始めてみました。すると、同じ趣味の仲間が少しずつできて、写真という趣味をきっかけに友人の輪が広がり、だんだん元気になることができました。この頃は、「もう治った?」と家族や周囲の方に言われるくらい元気に過ごしています。
内門先生と小野副市長は、今回の世界アルツハイマーデーイベント「江の島みんなフェス」には、ある特別な意味が込められているとおっしゃいます。
内門先生:
最近は認知症という病気が広く知られるようになってきたからか、当クリニックには、自分自身で異変に気付いて病院に来たという患者さんが増えている印象を受けます。
ただ、これは意外に知られていないことなのですが、その方が生きている間は、認知症という診断を確定させることができません。認知症を確定診断するには、病理診断といって、脳を顕微鏡で直接観察しなければならないからです。つまり、その方が生きている限りは、厳密には、確定診断ということではなく、あくまで「認知症」という臨床診断がなされていることになります。
このように考えると、認知症の方とそうではない方を明確に区別する必要はないのかもしれません。みんな違う部分はあるけれど、みんな同じ人間です。
「江の島みんなフェス」のチラシには、「認知症の人が住みやすい街」、「みんなが住みやすい街」というキャッチフレーズが添えられていますが、ここにその意味が込められているのではないかと感じます。
小野副市長:
「江の島みんなフェス」のチラシを作った当初は、「認知症の人が住みやすい街」というキャッチフレーズを想定していました。しかし、いざチラシを印刷し始めようとしたときに、「認知症の人が住みやすい街という発想自体を見直そう」と思い直し、「みんなが住みやすい街」というフレーズにしました。
一人ひとりが「認知症の方に優しくしよう」という気持ちを持つことは大切なことです。ただ、認知症当事者の方が自立して生活するためにさまざまな人の助けを借りたり、周囲の人を頼ったりできるような街づくりをすることと、認知症の方には優しくしようという気持ちを持つことは、意味が異なる部分があるかもしれません。
誰もが認知症になる可能性があるため、認知症の方が街にいることは、当たり前の世界であるともいえます。認知症であるか否かにかかわらず、みんなが自然にこの街で暮らしやすいようにしたいという意味を込めて、今回は「江ノ島みんなフェス」という名前をつけました。
近藤さんと中村さんは、ご自身が認知症と診断されてから、周囲とどう接すればよいか考えたり、周囲の対応が変わったりしたと感じられたそうです。
近藤さん:
診断を受けて間もない頃は、自分でもどうしたらいいか分かりませんでした。周囲の方も、気を遣ってくれていると感じます。気楽に会話ができたり、しっかりコミュニケーションを取ったりすることができれば、それで問題ないのではないかと思っています。
中村さん:
認知症の診断を受けて、自他共に「認知症」と認識した時点から、自分の気持ちも周囲の対応も変化しました。でも、認知症だからといって何か対応を変える必要はないと思います。
不思議な話かもしれませんが、今私は、認知症になってよかった面もあると思っています。もしも、認知症にならずそのまま定年まで勤めあげていたら、特にやることもなく、自宅で過ごす日々が続いていたでしょう。ところが、認知症になったおかげで定年の年齢を超えた今でも、こうしたイベントなどでお話しする機会をいただいています。さまざまな地域で、たくさんの人と巡り会って、そこで新たな発見をしています。私は今、楽しみながら生活を送ることができています。だから、認知症になってよかったと思えます。
認知症当事者の方と、そのご家族への支援活動を行う地域密着型の団体「かまくら認知症ネットワーク」代表理事の稲田さんは、音楽を通じた人と人とのつながりについてお話しされました。
稲田さん:
私は第一部で近藤さんと一緒に演奏をさせていただきましたが、こうした音楽を通じて、お互いが同じ立場と目線でつながっていると実感することができます。そこから1人、また1人とネットワークがつながっていくことで、やがて認知症をマイナスではなく、みんな同じ関係性であると、自然に考えられる時代がやってくるのではないでしょうか。
今回のイベント中には、藤沢市鈴木恒夫市長がイベント会場にいらっしゃいました。鈴木市長はトークセッション後に登壇され、地域の皆さんに向けてメッセージをお伝えされていました。
トークセッション終了後は、夫婦ユニット「ハーフムーン」とフラダンスチームによるミニライブが開催されました。
会場は優しい歌と爽やかなギターの音色、軽やかな踊りに包まれ、途中からは客席の皆さんも、ボーカル・琢磨啓子さんの合図に応じて一緒に歌ったり、踊ったりして、音楽を楽しんでいました。
イベント終了後間もなくして、江の島の展望灯台「シーキャンドル」が、認知症のシンボルカラーであるオレンジ色にライトアップされました。
温かみがあり、ぬくもりを感じられるオレンジ色には、「手助けします」という意味が込められているとされています*。
*認知症サポーターキャラバンの手引きより
2017年9月21日の世界アルツハイマーデーに江の島シーキャンドルがオレンジ色にライトアップされてから、今年で3年目になります。皆さんはこのことをご存知でしたか?毎年9月21日は、全国各地で、多くのお城やタワー、ランドマークが認知症のシンボルカラーのオレンジ色に輝きます。この度、令和元年の同日に、江の島サムエル・コッキング苑にて、認知症と音楽のイベント「江の島みんなフェス」を開催する運びとなりました。このフェスにご尽力いただいた藤沢市役所の皆さまをはじめ、関係者の皆さまに感謝申し上げます。
2019年6月18日に、政府から認知症施策推進大綱が発表されました。「共生と予防」を掲げて、認知症になっても希望を持って生きていける社会づくりに対してのいっそうの取り組みをすることが強調されました。私の住む藤沢市でも、認知症があろうとなかろうと、みんなが住みやすいまちを目指そうとする取り組みが行われ、一市民としても大変嬉しく思っています。
振り返ってみると、私自身は、2016年に、ドキュメンタリー映画「パーソナル・ソング」【『Alive Inside 』原題 2014年】と出会い、認知症を持つ人々が、音楽療法のひとつとして思い入れのある曲を聞くことで、昔の記憶や生きる喜びを取り戻していく様子を目の当たりにしました。このときから、音楽の力、すばらしさを実感し、今までも音楽を通じた認知症啓発のイベントを開催してきました。
本日は、「アルツハイマーと僕 ・キャンベル音楽の軌跡 」【『Glen Campbell: I'll Be Me 』原題、2014年】が日本初公開となる日でもあります。この映画は、アルツハイマー病を医師から告げられた伝説的なミュージシャンであるキャンベルが、家族の協力を受けて「さよならツアー」を敢行した様子を描いたドキュメンタリーです。
認知症になっても、その人の人間的魅力とその創造性は失われません。また、音楽は、人々の心をつなげて、みんなを幸せな気持ちにするのだろうと思います。懐かしい音楽を聴くと、その頃のさまざまな思い出が喚起され、楽しかったことやつらかったこともよみがえってきます。音楽は、私たちの生活を豊かにしてくれます。
令和元年の世界アルツハイマーデーの日から始まったこのすばらしい音楽のイベントが、認知症があるとかないとか、障害があるとかないとかにかかわらず、全てのみんなが、青い海と青い空のもとに一同に集まり、温かな気持ちになることを願ってやみません。また、自然の中で聴く音楽も格別なものになるでしょう。これからも、「江の島みんなフェス」が、10年、20年、100年と続く音楽のイベントになることを祈念しております。
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授
日本精神神経学会 精神科専門医・精神科指導医
1996年横浜市立大学医学部卒業。2004年横浜市立大学大学院博士課程(精神医学専攻)修了。大学院在学中に東京都精神医学総合研究所(現東京都医学総合研究所)で神経病理学の研究を行い、2004年より2年間、米国ジャクソンビルのメイヨークリニックに研究留学。2006年医療法人積愛会 横浜舞岡病院を経て、2008年横浜南共済病院神経科部長に就任。2011年湘南いなほクリニック院長を経て、2022年4月より現職。湘南いなほクリニック在籍中は認知症の人の在宅医療を推進。日本認知症予防学会 神奈川県支部支部長、湘南健康大学代表、N-Pネットワーク研究会代表世話人、SHIGETAハウスプロジェクト副代表、一般社団法人日本音楽医療福祉協会副理事長、レビー小体型認知症研究会事務局長などを通じて、認知症に関する啓発活動・地域コミュニティの活性化に取り組んでいる。
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