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認知症への見方を変えよう!2018年湘南オレンジカフェ(Shonan サミット)イベントレポート

認知症への見方を変えよう!2018年湘南オレンジカフェ(Shonan サミット)イベントレポート
内門 大丈 先生

医療法人社団彰耀会 メモリーケアクリニック湘南 理事長・院長、横浜市立大学医学部 臨床教授

内門 大丈 先生

繁田 雅弘 先生

東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授、東京慈恵会医科大学附属病院 精神神経科 診療部長

繁田 雅弘 先生

この記事の最終更新は2018年02月16日です。

「湘南オレンジカフェ」は、湘南いなほクリニック院長で湘南健康大学代表である内門大丈先生を中心とするメンバーが主催している認知症カフェです。今回は、月に1度おしゃれなカフェで催される湘南オレンジカフェから規模を拡大して、第一回目の「Shonanサミット」が開催されました(湘南健康大学)。

コペンローカルベース鎌倉で行われた湘南オレンジカフェ(Shonanサミット:司会は加藤博明氏・竹中一真氏)のレポートをお届けします。

 

※過去の湘南オレンジカフェのレポートについてはこちらも併せてご覧ください

『湘南から認知症の方が住みよい街づくりを−2016年世界アルツハイマーデーイベントレポート』

『江ノ島がオレンジにライトアップ–2017年世界アルツハイマーデーイベントレポート』

はじめに開会の挨拶として、湘南オレンジカフェの主催者である内門大丈先生よりお話がありました。内門先生はご来場者のみなさまへの感謝の意と今後の抱負について述べられました。以下内門先生のお話です。

内門大丈先生

2016年にカフェNatural Lawのオーナーである大野裕史さんと始めた湘南オレンジカフェは、今回で16回目の開催になります。そして、本日湘南オレンジカフェのサミットである、第1回Shonanサミットを開催することができました。これも大野さん並びにご協力いただいているみなさまのおかげであり、心からの感謝の気持ちでいっぱいです。

Shonanサミットでは「認知症」という一つのテーマを通じて、あらゆる方々(認知症の方もそうでない方も、あるいは障害を持っていても持っていなくても、子どもでもお年寄りでもすべての方)が医療や介護の世界だけでなく、衣食住などを含めたさまざまな領域で認知症をリスクでなくチャンスと捉えて、知恵を出し、学び、具体的に行動するプラットフォームを創っていきたいと考えています。

私の好きな言葉に最澄の「一燈照隅 萬燈照国(いっとうしょうぐう ばんとうしょうこく)という言葉があります。これは「最初は一隅を照らすような小さな光でも、その光を照らす人が増えていけば国中を照らすことができるようになる」という意味です。

この言葉のように、私たちの取り組みが日本全国へ、そして世界へ広がっていくよう、目の前のことに一歩一歩着実に取り組んでいきたいと思います。

平田知弘氏

続いてNHKディレクターの平田知弘氏の特別講演がありました。平田氏は「ハートネットTV」「シリーズ認知症、その時あなたは」などの医療や介護、認知症をテーマとした番組の制作に携わってきました。

特別講演では、認知症への社会の見方を変えていくために、認知症ご本人の声を発信していくことの重要性についてお話されました。

以下、平田氏の講演内容の要約です。

平田知弘氏

先日、町田市のスターバックスコーヒーで行われている「Dカフェ」という認知症カフェに参加させていただきました。多くの認知症カフェの課題として認知症を抱えるご本人が参加しづらいことがあります。しかし、Dカフェは人通りが多いカフェで開催することで、その光景が街の風景の一部になっていることがすごく印象的でした。

自分が暮らしている当たり前の景色のなかに認知症カフェがあることは、認知症に対する人々の見方や意識を変えることにつながるのではないでしょうか。

平田知弘氏

あるときNHK宛にアルツハイマー病と診断された曽根勝一道さんという方から手紙が届き、なかにこのような一文がありました。

「アルツハイマー病になったら悪いのでしょうか」

私は、この一文に大きなショックを受けました。アルツハイマー病と診断を受けて一番辛い状況にあるご本人に、このようなことをいわせている社会に強いショックを受けたのです。

さらに手紙には「病名でひとくくりになって世のなかから阻害されているようです」「病名だけで決めつけないでほしい」という言葉も綴られていました。

つまり、認知症に対する社会の見方と、さらにその見方がご本人の中に偏見を生み、自分自身を苦しめているという構造があることに気づきました。

平田知弘氏

平田知弘氏

このような認知症に対する偏見は、メディアによって生まれているのではないかと思うことがあります。

多くの認知症を取り扱う本には「徘徊が始まります、暴力をふるいます…」などの情報が散見されます。曽根勝さんと奥さんはこれに対し「そうじゃない情報が欲しかった、大丈夫だよといって欲しかった」と感じられたそうです。

早期診断・早期絶望という言葉がありますが、認知症に絶望した曽根勝さんも約6年間家から出ることができませんでした。しかし、もし「認知症は怖くないよ、大丈夫だよ」という情報を届けることができれば、曽根勝さんはそこから脱することができたのではないでしょうか。

平田知弘氏

そこで「認知症は怖くない」という情報を伝えるために、認知症と診断された方々が書いた本を集めたブックフェアを開催する活動を始めました。認知症の早期診断・早期絶望を少しでもなくすためにできることを着実に行っていきます。

平田知弘氏

2016年、名古屋で認知症の方が列車にはねられて亡くなった事故の最高裁判決がありました。ご家族に対してJR東海が損害賠償を求めた裁判。最高裁は「家族に監督義務があるかどうかは生活の状況などを総合的に考慮すべきだ」と判決で述べました。

これに対し日本認知症ワーキンググループはこのような声明を発表しました。

「自由に外出し、町の風景や人たちに触れて暮らすことは、人としてあたりまえのことであり、認知症があっても同じです。『認知症だと外出は危険』という一律の考え方や、過剰な監視や制止は、私たちが生きる力や意欲を著しく蝕みます。私たちだけでなく、これから老後を迎える多くの人たちも生きにくい社会になってしまいます。」

私はとても真っ当な声明であると感じます。「家族の監督義務」ということは、自由に外出するなどの基本的な人権を奪う発言です。そして、認知症の方の人権を当たり前のように無視している現状が世のなかにはあると感じました。

障害者権利条約のスローガンに「私たち抜きにわたしたちのことを決めないで」という言葉がありますが、認知症についても同じことがいえるのではないかと思います。今後もこのことを考えながら認知症への偏見をなくす活動をしていきたいと思います。

続いて、今回のShonanサミットの会場であるコペンローカルベース鎌倉のスタッフである平柳良輔氏より、コペンローカルベース鎌倉が行っている活動についてお話がありました。コペンローカルベース鎌倉は自動車メーカーであるダイハツが運営するカフェで、鎌倉地域に根ざしたさまざまな活動に取り組まれています。

以下平柳氏のお話の要約です。

平柳良輔氏

私たちコペンローカルベース鎌倉は地域の方々と協力しながら地域に根ざした活動を行なっています。「ローカルベース」という名前どおり、鎌倉にお住まいのみなさまが集まり、笑顔になり、喜んでいただけるような基地を創造していくための店舗運営を心がけています。

地域に根ざした活動としてグリーンモーニング鎌倉を毎月開催しています。これは鎌倉の朝を盛り上げるために、店内でのライブや鎌倉野菜やクラフトを販売するマルシェなどを行うイベントです。

さらに、地域と連動し防火意識を高めるイベントやダイハツのオーナーさんが集まり車を展示するオフ会など、地域のみなさまが集まっていただけるようなさまざまなイベントを定期的に開催しています。

また、日常的に子育て世代のお母さん方やシニア世代の方が頻繁に集まり、情報交換やなにげない会話をする場所にもなっています。

これからも「ここに来ればみんなに会える」と思っていただける店舗を作り、地域の活力の一端を担う存在でありたい思います。

引き続き、東京慈恵会医科大学精神医学講座主任教授である繁田雅弘先生の特別講演です。

以下繁田先生の講演内容の要約です。

繁田雅弘氏

今回タイトルにした「本当の気持ちを聞けていますか」というのは、自分自身に問い続けた言葉でもあります。そして正直にいうと、私はご本人の声をなかなか聞くことができなかったなという反省があります。

たとえば、認知症の薬を飲んでくれない患者さんに対して「薬の大きさを変える、飲みやすい錠剤にする」などの対応をしていたことです。もちろん工夫すべき点ではありますが、本来はまずご本人に「なぜ薬を飲みたくないのか」と問う必要があったと感じています。

また、認知症が進行するとどうしても家族が家で介護ができなくなることがあります。そのとき、家族との間を取り持つように、施設入居を拒否している方に対してなんとか施設に入っていただくよう説き伏せることもしていました。

このような方々のことを思い出せば思い出すほど自責の念に駆られます。

このような反省もあって、診療では認知症の方のお話をなるべく聞き出すことを目標にしています。そしてこのことは容易ではなく、聞く技術やコミュニケーション力が求められると感じています。これは家族のコミュニケーションでも同様であると考えます。認知症の患者さんには家族に伝えたいことを伝えられず、お互いに気持ちをわかち合えないままなくなっていく方も多くいます。

ですから「本当の気持ちを聞けていますか?」というのはご家族に対するメッセージでもあるのです。

次に感情の伝染(Emotional Contagion)のお話をします。

私たちは誰でも周りにいる人の感情の影響を受けています。たとえば、周りの人がみんな暗い顔をしていたら自分も暗い顔になる経験をされたことはないでしょうか。これが感情の伝染という現象です。

この感情の伝染が、アルツハイマー病の患者さんには認知症のない人よりも強く起こるという研究結果が出ています。一般の方にも感情の伝染は起こるのですが、一般の方には「言葉」があります。言葉で自分自身にいい聞かせることで感情の伝染から守ることができるのです。

しかし、アルツハイマー病の方の場合には自分を守る言葉が不足しています。そのため周囲の感情の影響を受けやすいといわれているのです。

また、次のような研究もあります。研究では認知症の方とそうでない方に、悲しい映画の一場面を見てもらいます。その直後にどのくらい悲しい気持ちであるかチェックを行い、その数分後には映画の内容に関するチェックを行いました。さらにその後も一定時間ごとに、悲しさの度合いをみていきました。

すると、認知症の方は映画の内容については忘れている内容も多く、認知症でない方とは大きな差が生まれました。しかし、悲しさの度合いについては認知症の方もそうでない方も同じように減衰していく曲線が描かれたのです。

つまり、認知症の方は「誰がいつどこで何をしたか」という具体的な情報は失われやすいけれど、感情は変わらないということが証明されたのです。

そのため、認知症の方であっても楽しい時間を笑って過ごすことは大きな意味があるのです。

ここからは認知症に対する偏見のお話をします。

周囲からの認知症に対する偏見には大きく2つあると考えています。1つ目の偏見を「周囲の過小評価」と私はよんでいます。たとえば、自分のことを認知症であると知っている友人に「私の顔、ちゃんとわかる?」などと必要以上の心配をされることです。

2つ目は「周囲の過大評価」です。これは会社や周囲の人々と一生懸命頑張って振舞っていると「なんだ、認知症だけど普通にいろいろできるじゃないか」という捉え方をされてしまうことです。

周囲の偏見のなかで生きる認知症の方々は、この2つの偏見の間で揺れ動き、苦悩されているのです。

また、自分自身への偏見で苦しんでいる認知症の方も多くいらっしゃいます。若年性アルツハイマーと診断された藤田和子さんのセリフに「家族に迷惑をかけてまで生きる価値がありますか」というものがあります。また、患者さんのなかにも「認知症になってごめんなさい」といわれる方も多くいらっしゃいます。これは、自分自身の認知症という病気に対する偏見が、ご本人を苦しめているのだと思います。

「偏見を持ってはいけない」という言葉をよく聞きますが、偏見は頭ではなく直感で持ってしまうものです。ですから、私はよく学生や若い先生に「偏見を持たないのは難しいこと。だから自分は偏見を持っていないとうぬぼれず、偏見は持ってしまうものということを常に認識しておくように」と伝えています。

そしてこのような意識を持っておくことが、将来認知症の方々が過ごしやすい世のなかを作っていくことにつながると考えています。

私が認知症の患者さんやご家族にいつも伝えていることは、認知症の進行スピードや予後は従来に比べてよくなってきているということです。90年代に行われた研究では、抗認知症薬を服用していなくても90年代前半と90年代後半を比較すると、後半のほうが認知症の進行スピードが前半の約半分であるという研究結果もあります。この研究から10年以上経過していますので、さらに進行のスピードは遅くなっていると考えられます。

これは私たちの認知症に対する意識が変わってきたからだと考えます。

たとえば、人類が感染症から克服できたのが、抗菌薬だけでなく衛生に対する意識が高まったり、栄養面に気をつけるようになったからであるのと同じで、認知症の改善のために、ストレスをかけない、できることを奪わないなどのさまざまな工夫をしてきたからなのです。

認知症の治療や予防も大切ですが、認知症になってどのように生きていくかが予後を左右すると考えます。

認知症になると、失敗することや忘れてしまうことが多くなるかもしれません。しかし、それは認知症の問題だけでなく、年齢の問題かもしれません。

私からは「あなたがしている失敗のうち、認知症が原因であるものはごく一部です。認知症にならなかったとしても、その失敗は年齢が重なれば誰しもが経験することです」ということを認知症の方にはお伝えしています。

また、もし自分や家族が認知症になったら、毎日の日課や新しい目標を作っていただきたいと思います。私の担当している患者さんのなかには、認知症になってから初めてiPadを使い始めた方もいらっしゃいます。

認知症になったらできないことも増えるかもしれませんが、やったことがないことでもできないとは限りません。ぜひあらゆることに挑戦して、人生を再出発してほしいと思います。

閉会の挨拶として、藤沢市副市長の小野秀樹氏よりお話がありました。

以下、小野氏のお話の要約です。

小野秀樹氏

本日平柳さんと繁田先生のお話を聞かせていただき、自分は地域のなかで何ができるのか、行政の立場の人間として何ができるのか、ということを自問自答させられました。

認知症をご自身や家族が受け止められているかという話は、まさしく地域にもあてはまると思います。

本日別の場所で認知症関連団体の意見交換会というものが行われていて、出席していたスタッフに聞いた話です。そこでは、認知症の方のご家族も出席されていて「家族に認知症の人がいることを隠したい」「近所の認知症カフェには行けない」というお話をされていたようです。このように地域全体の偏見もまだまだあるのだなと感じました。

そして、認知症は「誰もがなる」「普通のこと」と地域全体が捉えられるようになることが大切だと改めて思いました。

藤沢市における認知症に関する今後の方向性としては、まず医療と介護の連携を強化していくことが挙げられます。藤沢市医師会や医療現場、介護現場などのつながりを強め、他職種連携を進めていく方針です。

また藤沢市では認知症サポーター養成講座(2018年現在、約1万7千人が参加)を行っています。この認知症サポーターの方々が関わりあうことで、認知症の方に優しい地域をどのように作り上げていくかも、大きなテーマであると考えています。

最後に、近藤英男氏と稲田秀樹氏からなるユニット「ヒデ2(ツー)」のスペシャルライブが行われました。

近藤氏は8年前に若年性アルツハイマーと診断を受け、それから認知症に関する講演活動などを行っています。稲田氏は鎌倉でデイサービス「ワーキングデイわかば、ケアサロンさくら」を開設し、一般社団法人かまくら認知症ネットワークの代表も務めておられます。

ライブ前には近藤氏と稲田氏より挨拶がありました。お二人は「認知症の人と支える人」と表現されることが多いようですが、そうではなく「支え、支えられる関係」であるとおっしゃっていました。

ヒデ2のライブの様子

ライブは「真夜中のギター」から始まり、「亜麻色の髪の乙女」では会場からの手拍子とともに演奏をされました。

 

ヒデ2と平柳氏の写真

またその後、コペンローカルベース鎌倉の平柳氏もキーボードとしてライブに加わり「あの素晴らしい愛をもう一度」を聞かせてくださいました。

最後には会場からのアンコールに応え「見上げてごらん夜の星を」を演奏され、湘南オレンジカフェ(Shonanサミット)の締めくくりとなりました。

オレンジカフェの様子

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