2019年9月27日(金)〜2019年9月28日(土)、タワーホール船堀において、一般社団法人 日本医療情報学会 看護部会が主催する“第20回日本医療情報学会看護学術大会”が開催されました。本学術大会では、“看護の知と技の継承 〜看護師がすること、AI・IoTに委ねること〜”をメインテーマに掲げ、看護師それぞれの視点から活発な意見交換がなされました。
本記事では、大会長を務められたNTT東日本関東病院 看護部 副看護部長の相馬泰子さんをはじめ、同院の野上さとみさん、中尾正寿さんによる9月27日(金)の講演を通して紹介されたNTT東日本関東病院の取り組みを中心に、ダイジェストをレポートします。
はじめに、第20回日本医療情報学会看護学術大会の大会長を務めるNTT東日本関東病院の相馬泰子さんより、開会の挨拶がありました。開会式ではNTT東日本関東病院で業務効率化を目的として活用が検討されている音声認識技術を使用し、相馬泰子さんが話された内容が、スクリーンに映し出されました。
特別講演1では、本大会のメインテーマである“看護師がすること、AI・IoTに委ねること”について、座長兼講演者である相馬泰子さんをはじめ、大久保清子さんおよび真田弘美さんによる講演が行われました。
相馬さん:NTT東日本関東病院では、実証実験を繰り返しながら、高齢者の転倒予防や看護師の業務効率化などの課題の克服に取り組んでいます。
当院での具体的な取り組みをご紹介しますと、2018年度には安心、安全で豊かな社会の実現、さらには当院の課題としている業務効率化を図るため、ベッド周辺の各種センサーやベッドサイド端末の導入を行いました。また、ご高齢の患者さんがトイレで転倒してしまった際に、早急な対応や処置ができるよう、トイレの離座センサーを導入しました。
ほかにも、看護師の働き方を見直していく必要があると考えていることから、Robotic Process Automation(RPA)*を導入し、業務の効率化に努めています。このように、すでにAI**やIoT***が医療現場に導入され、看護師の業務が効率化されていくなかで、我々看護師ができること、さらに看護師だからこそすべきことについて、あらためて考えていく必要があると考えています。
* Robotic Process Automation(RPA)……ソフトウェアロボットが、業務プロセスを自動化すること
** AI……“Artificial Intelligence”の略で、人間が持っている認識や推論などの能力をコンピューターでも可能にするための技術
*** IoT……“Internet of Things”の略で、医療機器などのコンピューター以外の多種多様なモノがインターネットに接続され、相互に情報をやり取りすること
大久保さん:これからの時代は、AIやIoTを活用したロボットや情報端末など、またこれまで想像できなかった商品やサービスが登場してきます。私は看護管理者として、政策立案のためや戦略や組織化、システム化などの意思決定の資料としてAIやIoTを活用していくことは必要だと思います。そして、組織文化や経営スタイルを創造していくことや、スタッフ個人のキャリアなど人材育成や人的資源の活用に関しては、補助的な役割を担うツールとしてAIやIoTを活用していきたいと思います。なぜなら、AIやIoTとの付き合い方を考えAIやIoTに支配されることは避けつつ、戦略的に活用したほうがよいと考えているからです。
真田さん:今後は看護師がケアを行うよりも、AIやIoTが行うケアのほうがよいと言われる時代がくるかもしれません。現に、自動体位変換装置を搭載したマットレスが開発されたことで、看護師にかかる身体的な負担が軽減されただけでなく、体位変換時に生じていた患者さんの苦痛の軽減も期待できるでしょう。
また、患者さんとのコミュニケーションの観点においても、これからは、患者さんと看護師が直接コミュニケーションを築くだけの時代ではなくなると考えます。たとえば、心理的障壁などから看護師と直接コミュニケーションを図ることが難しい患者さんに対して、AIやIoTを搭載したロボットが介入し、ロボットから患者さんに、看護師とのコミュニケーションが円滑に進むようサポートすることで、患者さんと看護師の人間関係の構築をサポートするようなことも今後は期待できるのではないでしょうか。
私は「患者さんの治癒力を看る、最後まで護ること」が看護であると考えています。そのような私の思う看護が遂行できるよう、AIやIoTと共に看護を提供していきたいと思います。
講演のあとに、講演者 3名による鼎談が行われました。
スイーツセミナー1では、AI、ICT、IoT、ビッグデータ、ロボットなどのシステムを用いた看護管理と人材育成について、NTT東日本関東病院の取り組みをもとに講演が行われました。講演者の野上さとみさんは、目標達成のためのデータ活用および人材育成におけるシステム導入の可能性について発表されました。
野上さん:看護管理においては、専門性を発揮した良質な看護を提供したいという部署の目標を戦略的に達成するため、人事管理システムの更改バージョンアップを進めています。多面的データに基づいて、人員配置の調整やローテーションなどを客観的に実施できるようになってきます。
人材育成においても、今後はAIやIoTの活用が可能になると考えています。eラーニングやVRを活用することにより、教育担当者の業務の効率化を図ることができるでしょう。
近い未来に訪れるであろう、AIやIoTとの共存する世界に、看護師とAIやIoTそれぞれができることを見出していきたいと思います。
ワークショップ1では、“看護Creative ——見せる化の看護、ものづくりの看護——”をテーマとし、今までにはなかった看護の形を実現するために、看護の新たな“見せる化”と“ものづくり”の観点から、4名の講演者による講演が行われました。
“AI(人工知能)による転倒転落予測システムの開発”
“OmahaSystemを使った、看護の成果とケアプロセスの見せる化”
“#看護ケアをアーカイブする(保存・活用可能な状態にする)”
“看護におけるものづくり”
最初の講演者である中尾正寿さんは、AI機能を搭載した転落転倒予測システムの開発と今後の展望について述べました。
中尾さん: NTT東日本関東病院では、転倒や転落によるけがを減らすために、FRONTEO ヘルスケアビジネスさんと共同で、AI機能を搭載する転倒転落予測システムの開発を始めました。転倒転落予測システムは、患者さんが外来で受診しているときからの情報を収集しておくことで、患者さんの入院が必要になった場合に転倒や転落のリスクを把握することが可能です。
今後、患者さんの安全に役立つシステムとなるよう、さらなる予測精度の改善に向けて開発に協力していきます。
以上のように、本大会のメインテーマにちなんだ数々の講演が行われ、第20回日本医療情報学会看護学術大会は終了しました。