ヘルパンギーナとは、夏季に子どもを中心に感染が流行する病気です。主に38~40℃程度の突然の高熱、口や喉の赤み・痛み、口の中の水ぶくれなどの症状を生じるほか、嘔吐や下痢を伴うこともありますが、症状がごく軽いか、ないこともあります。熱は2~4日程度で下がり、その後水ぶくれなども消えていくことが一般的です。
ヘルパンギーナは保育園や幼稚園などで子どもがうつる病気として知られていますが、感染を防ぐためにはどのようにしてうつる(感染する)のかを正しく理解することが大切です。
ヘルパンギーナとはエンテロウイルス属といわれるウイルスに感染することで発症し、人から人へうつる(感染する)病気です。
夏風邪の一種ともいわれ、夏季に乳幼児を中心に流行することが特徴です。流行のピークは7月頃とされ、例年、5月から徐々に流行が始まり9~10月頃にはほとんど見られなくなるといいます。また、患者の90%以上が5歳以下で、中でも1歳代の患者がもっとも多いというデータがあります。そのため、夏から秋にかけての流行期や家族などに感染者がいる場合、感染者と接する際には特に感染対策を徹底するように心がけましょう。
なお、夏季に流行る手足口病も同じ種類のウイルスが原因です。エンテロウイルス属の仲間には、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルスなどさまざまな種類があります。
ヘルパンギーナがうつる経路は、主に接触感染と糞口感染です。また、発症してすぐは一部は飛沫感染だと考えられています。
うつらないためには感染経路について十分に理解して、その経路を断つことが大切です。なかでももっとも重要な、対策は手洗いです。手指消毒用アルコールが効きにくいウイルスなので、通常のせっけんや液体せっけんによる流水手洗いが有効です。なお、日本ではヘルパンギーナの原因であるエンテロウイルス属に対するワクチンはありません。
接触感染とは、ウイルスがついたものを触れることにより、主に手を介して感染することです。
主に接触感染によって感染するといわれているため、感染者と密接な接触を避ける、必要なタイミングで手洗いを行う、ウイルスに汚染された可能性のある手で口や鼻、目などの粘膜を触らないといったことに注意しましょう。手洗いのタイミングは、オムツ交換やトイレの後、飲食の前、外出からの帰ったときなどです。
糞口感染とは、便から排出されたウイルスが何らかの原因で口に入ることで感染することです。
ウイルスは約2~4週間後まで便から排泄され、やがてウイルス量は少なくなり感染力は落ちていきます。そのため、症状が治まってからもしばらくはヘルパンギーナを発症した子どものおむつ替えやトイレを手伝った場合には、通常のせっけんや液体せっけんで十分に流水手洗いすることが重要です。手指消毒用のアルコールは、エンテロウイルスに対して効きません。
飛沫感染とは、くしゃみや咳によって放出されたウイルスを口や鼻などから吸い込むことによって感染することです。
対策には、マスクで予防することが大切です。しかし、ウイルスは、環境中や常温では不安定でモノからの感染力は低いとされており、前述のとおり多くの場合が飛沫したウイルスを触れた手を介して感染(接触感染)するとされています。
ヘルパンギーナは子どもだけではなく、まれに大人にもかかることがあります。前述のとおり、エンテロウイルス属は種類が多く、それまでに罹ったことがない種類のウイルスだと免疫がないため、大人もうつる可能性は考えられます。しかし、大人がかかった場合は、ほとんどが軽症か、もしくは症状が現れないことが一般的です。
発症してから2~4週間程度は、便からウイルスが排泄されるため、子どもが発症した場合のオムツ交換や、トイレの後には手洗いなどの感染対策を徹底するようにしましょう。
ヘルパンギーナは出席停止の扱いにはなっていません。基準となる学校保健安全法においては、ヘルパンギーナは“全身状態が安定している場合は登校・登園可能”と定められています。したがって、熱が下がり、元気になったときが登校・登園の目安です。
ただし、ウイルスは口や鼻から(飛沫感染、接触感染)1~2週間、便から(糞口感染、接触感染)数週間~数か月程度排出されるとされているため、医師や幼稚園、学校などの方針に従って十分に注意して登校・登園させるようにしましょう。
ヘルパンギーナは人から人へうつる病気で、7月頃をピークに流行します。そのため、流行時期や周りに感染者がいる場合が特に感染対策を行うようにしましょう。
もし発熱や口の中の水ぶくれなど、ヘルパンギーナが疑われる症状が現れた場合は、塩分を含んだ水分をしっかり取らせて、安静にすることでほとんどが数日以内で自然に治癒します。特に治す薬はなく、自然に治りますが、まれに喉の痛みが強く出て水分が取れなくなる子どもがいます。病院では、必要に応じてアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤が処方されます。そのため、水分が取れなくて半日以上、おしっこが出なくてぐったりするなどあれば、早めに小児科の受診をしましょう。
WHO Western Pacific Region Office, Field Epidemiologist、東京都立小児総合医療センター 感染症科 非常勤
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児感染症学会 暫定指導医米国感染症学会 会員欧州小児感染症学会 会員米国小児感染症学会 会員米国病院疫学学会 会員米国微生物学会 会員
小児患児に感染症が多いにも関わらず、それぞれの診療科が独自に感染症診療を行うという小児医療の現状を変えるべく、2008年トロント大学トロント小児病院感染症科に赴任。感染症症例が一挙に集約される世界屈指の現場において多くの臨床経験を積むとともに、感染症専門科による他診療科へのコンサルテーションシステム(診断・助言・指導を行う仕組み)を学ぶ。2010年帰国後、東京都立小児総合センターに小児感染症科設立。立ち上げ当初、年間200件~300件だったコンサルタント件数は現在1200件を超える。圧倒的臨床経験数を誇る小児感染症の専門家がコンサルタントを行うシステムは、より適正で質の高い小児診療を可能にしている。現在は後進育成にも力を注ぐ。
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