インタビュー

予防接種で防ぐことができるおたふくかぜとその合併症(難聴)

予防接種で防ぐことができるおたふくかぜとその合併症(難聴)
堀越 裕歩 先生

WHO Western Pacific Region Office, Field Epidem...

堀越 裕歩 先生

この記事の最終更新は2015年12月07日です。

私たちがよく耳にするおたふくかぜ。そのおたふくかぜに、重い後遺症を発症する可能性があることをどのくらいの方がご存じでしょうか。おたふくかぜにかかっても、その多くは何事もなく完治してしまいますが、重い後遺症を残してしまうケースもあります。ワクチンで予防できる、身近な病気に潜む後遺症の危険性について、東京都立小児総合医療センターの堀越裕歩先生にお話をうかがいます。

日本に残るワクチンギャップでまず第一に挙げられるのはおたふくかぜです。ムンプスウイルスによって唾液をつくる腺が感染する病気で、流行性耳下腺炎、おたふくかぜなどとも呼ばれます。2015年現在、おたふくかぜの定期接種を行っていないのは、先進国では日本くらいです。これは、1980年代、麻疹風疹・ムンプスウイルスの三種混合ワクチン※でムンプスウイルスワクチン成分による髄膜炎の副作用が報告されたことが影響しています。

世界では、おたふくかぜのワクチンにはジェリル・リン株が使用されていますが、当時日本では独自に開発した株を使用していました。その副作用の報告が多かったことで、定期接種からムンプスウイルス成分が外され、世界的には珍しい麻疹・風疹の二種混合ワクチンという形で続けられてきました。現在も変わっていません。日本でおたふくかぜのワクチンの普及を遅らせてしまった原因といえるでしょう。現在では安全なおたふくかぜのワクチンが開発されていますが、定期接種化はされていないという現状です。

おたふくかぜは、発症してもそれ自体で亡くなるということはほとんどない病気といえます。しかし、難聴の合併率が非常に高い病気です。ですから、予防できる病気でお子さんの耳が聞こえなくなってしまうという危険性を、もっと多くの方に知っていただく必要があると感じています。

具体的な数字をあげると、おたふくかぜを発症した患者さんのうち、1000人に1人程度は難聴を発症するといわれています。片側の耳が難聴になる場合が多いのですが、その場合、成長発達にそれほど大きな影響はないと考えられます。しかし、難聴を発症したお子さんや成人の約5%は両耳が聞こえなくなってしまうといわれます。両耳が聞こえなくなってしまうと、言葉の発達に大きな影響を及ぼしますし、その後の人生においてもハンディキャップを背負うことになってしまいます。

おたふくかぜによる難聴は、現在でも過少評価されています。おたふくかぜは亡くなることはほぼない病気ではありますが、片耳だけでも高度難聴を発症してしまうと、お子さんにとっては大きな負担になります。昔は、「おたふくかぜは誰でもかかるもの、重症化せずに治るもの」といわれていましたが、合併症の発症リスクが1000人に1人という確率は軽視できる数字ではありません。

 

※三種混合ワクチン麻疹・流行性耳下線炎(おたふくかぜ)・風疹の三種のワクチンが混合されたワクチン。1988年~1993年まで実施されていたが、ムンプスウイルスワクチンによる無菌性髄膜炎発生率が高いことが問題となり、中止された。

  • WHO Western Pacific Region Office, Field Epidemiologist、東京都立小児総合医療センター 感染症科 非常勤

    日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児感染症学会 暫定指導医米国感染症学会 会員欧州小児感染症学会 会員米国小児感染症学会 会員米国病院疫学学会 会員米国微生物学会 会員

    堀越 裕歩 先生
    • 小児科
    • 原発性免疫不全症・先天性免疫異常症

    小児患児に感染症が多いにも関わらず、それぞれの診療科が独自に感染症診療を行うという小児医療の現状を変えるべく、2008年トロント大学トロント小児病院感染症科に赴任。感染症症例が一挙に集約される世界屈指の現場において多くの臨床経験を積むとともに、感染症専門科による他診療科へのコンサルテーションシステム(診断・助言・指導を行う仕組み)を学ぶ。2010年帰国後、東京都立小児総合センターに小児感染症科設立。立ち上げ当初、年間200件~300件だったコンサルタント件数は現在1200件を超える。圧倒的臨床経験数を誇る小児感染症の専門家がコンサルタントを行うシステムは、より適正で質の高い小児診療を可能にしている。現在は後進育成にも力を注ぐ。

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