インタビュー

日本の予防接種を考える。ワクチン接種を理解してもらうために大切なこと

日本の予防接種を考える。ワクチン接種を理解してもらうために大切なこと
中野 貴司 先生

川崎医科大学 小児科学 教授

中野 貴司 先生

この記事の最終更新は2016年01月04日です。

川崎医科大学小児科教授の中野貴司先生は、これまで世界各地の感染症現場で尽力してこられた経験を持ちます。また、国内においても長年にわたり小児感染症や予防接種の診療、研究を続けてこられたワクチンの第一人者でもあります。ある時期、中野先生が海外でワクチン接種を浸透させていたころ、日本はワクチンにおける世界標準から完全に取り残されてしまいました。しかし、その状況は少しずつ変化しています。この記事では、中野先生に「ワクチン接種の理解において大切なこと」ついてお話し頂きました。

1989年に導入されたMMRワクチン麻疹・ムンプス・風疹混合)接種による無菌性髄膜炎の発症率が高いことが問題となって以来、日本のワクチン導入はストップし、「氷河期」に突入しました。その間、海外各国では各種ワクチンが導入されたため、すっかり日本は「ワクチン後進国」になってしまったのです。かつて世界初の日本脳炎ワクチンを開発し、ポリオ流行を制圧するなど、ワクチン先進国の地位を築いていた時代が考えられないほど出遅れてしまいました。20代にガーナで厳しくも貴重な体験をしてからワクチン接種を推進し続けている身としては、もどかしい日々が続きました。

しかし、ワクチン氷河期は永遠に続いたわけではありません。2008年になってヒブ(Hib)ワクチンが導入され、それ以降、7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)、ロタウイルスワクチンと立て続けにワクチン導入が進みました。

この状況の変化については、その背景に着目するべきでしょう。それは、ワクチンを受けさせられず子どもを失った保護者や、後遺症に苦しむ子どもに心を痛めた保護者たちの「声」があったからです。たとえワクチンが導入されても、亡くなられたお子さんは帰ってきませんし、後遺症は治りません。それにもかかわらず、同じ病気で苦しむ子どものために力をささげてくれた保護者の方々の「声」がワクチン導入の道を開いたのです。そして、この状況は、2012年の不活化ポリオワクチンの導入時においても同じことがいえます。

しかし裏を返せば、日本のワクチン導入は辛い思いをした保護者の方々の声や後押しがなければ進まなかったという現実です。これは非常に大きな教訓となります。つまり、予防接種を推進させるために必要なのは、強引な主導ではなく、“国民の声や社会の理解”なのです。そして、大事なのは医療者・行政・国民という社会全体が共通認識を持ち、一体となって予防接種の普及を進めていく姿勢だと確信しています。

私はかつて、ニジェールのとある村でワクチン接種を拒む人々の数が多いとの報告を受け、調査を実施しました。すると、多くの方々がポリオという病気を理解していないということが明らかになりました。つまり、ワクチン接種の拒否は、見ず知らずのスタッフが現地で強制的にワクチンを接種させようとした結果が生んだものだったのです。

このことが物語るのは、ワクチンに対する不信感があれば社会に普及させることは難しいということです。そして、日本においてワクチン導入が停滞した原因もそこに見出されるでしょう。ワクチン接種の必要性や副作用について、分かりやすく国民に伝える努力をしてこなかったことが問題の一端になっているのです。

2008年のヒブ(Hib)ワクチン導入以後、2013年には「厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会」が設置されるなど、ワクチン接種を取り巻く環境は急速に変化しています。だからこそ、医療者・行政・国民の対話を促進し、医療者が丁寧にワクチンの副反応などについて説明する機会を持つべきであり、二度とワクチン接種を停滞させてはいけないと考えています。

 

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