Medical Noteとは

ポリオとはなにか。ポリオの現状を知る

  • #ポリオ(こども)
  • #細菌・寄生虫・ウイルスの感染症
  • インタビュー
  • 公開日:2015/12/29
  • 更新日:2015/12/29
ポリオとはなにか。ポリオの現状を知る

2012年、OPV(生ポリオワクチン)に代わりIPV(不活化ポリオワクチン)が定期接種に導入されたことにより、日本でもポリオという感染症が改めて注目されました。ポリオとは何か、日本はどう警戒していけばよいかについて、国際協力の現場で貴重な経験を積まれた川崎医科大学小児科学教授の中野貴司先生にお話をお聞きしました。

ポリオ発生の歴史

ポリオは、天然痘に次ぐ根絶のターゲットとして、1988年のWHO総会において「ポリオ根絶計画」が決議された急性のウイルス感染症です。2000年までに地球上から排除するという目標が設定され、当時ポリオ流行国であった中国でも、1991年より日本の国際協力事業団(現在は「独立行政法人 国際協力機構;JICA」)による「ポリオ対策プロジェクト」が開始されました。その後、中国はポリオフリーとなり、世界的にもポリオ発生ゼロの地域は増えましたが、天然痘よりは根絶までかなり長い期間を費やしています。「ポリオ根絶計画」の今後の展開が注目されるところです。

ポリオとはどのような病気?

ポリオは感染症の一種であり、以下のような特徴をもちます。

  • ポリオウイルス(1型、2型、3型)の中枢神経への感染により引き起こされる急性のウイルス感染症
  • ポリオウイルスにより、多くの場合脊髄前角の運動神経細胞が侵されるため、弛緩性の麻痺を特徴とする
  • 発症後、筋力低下と筋委縮が永続的な後遺症として残り、重篤な場合、呼吸不全により死亡する可能性もある
  • 同じく弛緩性の麻痺を示す疾患には、ギラン・バレー症候群や横断性脊髄炎などがあるものの、ポリオは筋萎縮、片側性(左右差)がより著明

また、ポリオの特徴的な症状は以下の3点です。

  • 筋緊張が低下(弛緩性麻痺)
  • 筋萎縮が著明
  • 片側肢の症状が強い(非対称性)

ポリオの原因(感染源)

前述のとおり、ポリオはポリオウイルス(1型、2型、3型)の中枢神経への感染により引き起こされる急性のウイルス感染症と定義されます。

また、ポリオは感染源を特定しづらく、早期探知・早期対応して蔓延の予防を効果的に行うことが非常に難しいともいわれています。

さらに、ポリオは急性弛緩性麻痺を特徴とする疾患であることから、すべての急性弛緩性麻痺(AFP:Acute Flaccid Paralysis)患者の報告が義務付けられています。しかし、ポリオは感染しても麻痺をきたす割合が1%以下と低く、90%以上が不顕性感染(感染しても症状があらわれない)です。

つまり、不顕性感染の無い天然痘はすべての感染者を特定することができますが、ポリオでは1名麻痺患者がいるとすれば、周囲には100名程度の無症状感染者(ウイルス排泄者)が存在するということになります。

ポリオワクチンの種類。生と不活性化の2種類がある

ポリオの流行を阻止する手立てとしては、流行地を特定し、流行地へのワクチンの一斉投与を行うことが挙げられます。

そのためには、集団に対してできるだけ短期間のうちにワクチンを行き渡らせる、一斉投与という方法が適しています。これは対象年齢の児童に対して定められた回数の接種を行う、定期接種とは異なる方法です。

<ポリオワクチン全国一斉投与日(NIDs)>

ポリオワクチン全国一斉投与日(NIDs)とは、設定した接種日に、国内の5歳未満の子どもたち全員に生ワクチンを内服させるキャンペーンです。NIDsは、流行地におけるポリオ患者を短期間で制御できる効果があります。

※ポリオ患者がある程度減少した段階では、流行のハイリスク地域を選定し、その地域に集中的にワクチンを一斉投与する手法(Mopping-Up)が有効です。

ポリオに対する世界の取り組み

WHOが世界ポリオ根絶計画を開始した1988年当時は、125カ国以上の国々で毎年35万人以上のポリオ患者が発生していたと報告されています。しかし、AFPサーベイランスによる発生状況の早期探知と、感染症蔓延を予防するワクチン普及活動などが積極的に対策されたことにより、2014年には患者数359人まで減少しました。

2015年現在、地域固有の野生株ポリオウイルスの流行がいまだに継続しているポリオ常在国は、パキスタン、アフガニスタンの2カ国です。

世界最大の人口を擁する中国やインドにおいて国際的なプロジェクトが実ったことは、人口が多い国でも迅速なサーベイランスとワクチン一斉投与をすればポリオを排除できる可能性が高まることを証明しています。

ポリオを日本で今後どう警戒していくか?

「ポリオの排除」を維持するために、警戒は続けるべきです。

2011年にはポリオ常在国のパキスタンから中国(新疆ウイグル自治区)にウイルスが輸入されたという報告もあり、日本にもいつポリオウイルスが持ち込まれてもおかしくない状況といえます。ポリオを天然痘に次ぐ根絶された感染症とするためには、世界各国が足並みをそろえて進まなければいけません。

ポリオ流行への備えとして、これから日本のとるべきポリオ対策は下記の2点です。

  • ポリオという「感染症の脅威」と予防手段である「ワクチンの重要性」をしっかり認知すること。
  • 感染症流行の阻止の原則は、「選択」と「集中」。ワクチン・人的資源・資金を、地域的にも時間的にもピンポイントで投与する。

中野 貴司

中野 貴司先生

川崎医科大学 小児科学 教授 

1983年、信州大学医学部卒業。三重大学・国立病院機構三重病院小児科などでの勤務、ガーナ野口記念医学研究所・中国ポリオ対策プロジェクトへの派遣など経て、2010年7月より現職。日本小児科学会専門医、日本感染症学会専門医・指導医、JICA青年海外協力隊「ポリオ対策」技術専門委員。

関連する記事