インタビュー

予防接種で防ぐことができるB型肝炎

予防接種で防ぐことができるB型肝炎
堀越 裕歩 先生

WHO Western Pacific Region Office, Field Epidem...

堀越 裕歩 先生

この記事の最終更新は2015年12月08日です。

2016年10月から定期接種化されたB型肝炎ワクチンは、東アジアや日本では多い病気と知られていて、予防ために大事なワクチンのひとつです。あまり知られていませんが、B型肝炎ウイルスは、日常生活で感染する危険性があります。身近な感染症B型肝炎について東京都立小児総合医療センターの堀越裕歩先生にお話をうかがいます。

B型肝炎ワクチンは、日本では母子感染予防の観点から導入されました。ですから現在、お母さんが陽性の場合は、そのお子さんは保険適用で予防接種を打つことができます。しかし、B型肝炎の感染経路は、実は母子感染だけではありません。たとえば、保育園のような集団で生活する場所で、誰かがB型肝炎にかかっていて感染性が強い場合、まわりのお子さんにも集団感染することがありますし、母子感染だけでなく父子感染もあります。B型肝炎は、「日常生活では感染しない」といわれており、多くの場合はそう考えて問題ないのですが、そうでない感染事例の報告があり、まったく可能性がゼロであるとは言い切れない病気です。

大人になってからB型肝炎に感染した場合、急性肝炎を発症してもそのまま治ってしまうこともあります。しかし子どものうちにB型肝炎ウイルスに感染すると慢性化してしまい、B型肝炎ウイルスを体の中から排除できなくなってしまう可能性があります。すると、長い年月を経て40代や50代になってから、肝硬変、肝癌などを発症してしまう原因になることもあるのです。

もし感染したお子さんが集団の中にいた場合、まわりのお子さんへの対応が非常に難しいという問題点もあります。子どもの場合、ウイルス量が多く感染性の高い状態が続くことが多いので、ほかのお子さんに感染させてしまう可能性があります。ですから、その感染をどうやって防ぐかと考えたとき、ワクチンを接種するのが一番よい方法です。

しかしそこで、そのワクチン接種の理由をどうやって伝えるか、という非常にセンシティブな問題も同時に発生します。ウイルス保持者の個人情報はもちろん保護されるべきですし、告知義務もありません。実は、この問題は現在でも多くの学校関係者を悩ませています。また、こういった状況の場合、接種費用は学校が負担するのか、お子さんが負担するのかといった費用の問題も避けて通ることはできません。クラスにB型肝炎の子がいた場合、周囲への感染予防をするためには、「全員にワクチンを接種していただく」というのが医学的に正しい見解です。しかし現実として、それは難しいことが多いです。

このような問題を回避するには、生まれたときに全員が定期接種をしてしまうことが有効で、母子感染以外の感染ルートも予防できる大きな利点があります。

台湾はB型肝炎が多い国ですが、ワクチンで非常によい結果を出しています。感染予防には2つのアプローチがあります。ひとつは母子感染だけを予防する方法と、もうひとつはユニバーサルワクチネーション(全員接種)です。

台湾のように、全員に接種させるユニバーサルワクチネーションが成功している国はほかにも存在します。日本でも2016年よりB型肝炎ワクチンが定期接種化されました。

  • WHO Western Pacific Region Office, Field Epidemiologist、東京都立小児総合医療センター 感染症科 非常勤

    日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本小児感染症学会 暫定指導医米国感染症学会 会員欧州小児感染症学会 会員米国小児感染症学会 会員米国病院疫学学会 会員米国微生物学会 会員

    堀越 裕歩 先生
    • 小児科
    • 原発性免疫不全症・先天性免疫異常症

    小児患児に感染症が多いにも関わらず、それぞれの診療科が独自に感染症診療を行うという小児医療の現状を変えるべく、2008年トロント大学トロント小児病院感染症科に赴任。感染症症例が一挙に集約される世界屈指の現場において多くの臨床経験を積むとともに、感染症専門科による他診療科へのコンサルテーションシステム(診断・助言・指導を行う仕組み)を学ぶ。2010年帰国後、東京都立小児総合センターに小児感染症科設立。立ち上げ当初、年間200件~300件だったコンサルタント件数は現在1200件を超える。圧倒的臨床経験数を誇る小児感染症の専門家がコンサルタントを行うシステムは、より適正で質の高い小児診療を可能にしている。現在は後進育成にも力を注ぐ。

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