アレルギー性の間質性肺炎である過敏性肺炎。アレルギー反応の原因(抗原)は100種類を超えるといわれています。過敏性肺炎は急性と慢性に分類されますが、治療において抗原を避けることがもっとも重要である点は急性でも慢性でも変わりません。特に慢性過敏性肺炎の場合には、抗原を回避せずに長期間にわたって繰り返し吸入すると肺に炎症が起こり、肺が“線維化”します。では、肺の“線維化”とはどういった経過をたどるのでしょうか。今回は、過敏性肺炎の原因や症状、治療、そして肺の線維化について、東京医科歯科大学 統合呼吸器病学 教授の宮崎 泰成先生にお話を伺いました。
過敏性肺炎は吸入“抗原”に対するアレルギー反応によって起こる間質性肺炎です。間質性肺炎は、細菌やウイルスの感染が原因となる一般的な“肺炎”とは炎症が起きる部位や原因が異なります。肺炎の場合には肺の奥にある肺胞(肺実質)と呼ばれる部分そのものに炎症が起きますが、間質性肺炎では、肺胞の壁(間質)に炎症や損傷が起こるのです。
抗原は真菌(カビ、きのこなど)や細菌、鳥(羽毛や鶏糞肥料を含む糞など)、化学物質など多岐にわたり、その数は100種類以上にのぼります。原因ごとに鳥関連過敏性肺炎、夏型過敏性肺炎、加湿器肺、農夫肺などと呼ばれることもあります。また、発症年齢も非常に幅広い病気です。
発症しやすい季節は抗原によって特徴的です。たとえば夏型過敏性肺炎はトリコスポロンというカビが抗原となっています。トリコスポロンは梅雨の間に増殖しやすいため、夏型過敏性肺炎は夏から秋にかけて発症しやすくなるのです。そのほか、加湿器の中で発育したカビが抗原となる加湿器肺や羽毛が原因となる鳥関連過敏性肺炎は、加湿器やダウンジャケット、羽毛布団の利用が増える冬に発症が増える傾向にあります。
過敏性肺炎は、その症状などの現れ方から急性過敏性肺炎と慢性過敏性肺炎に分類されます。急性過敏性肺炎の場合、抗原にさらされてから4~12時間程度で咳や痰、発熱や息切れなどが生じ、こうした状態が数週間から数か月にわたって続きます。
一方、慢性過敏性肺炎の場合には発熱することはまれです。数か月から数年にわたって息切れや咳、全身倦怠感が続くなど急激な症状がないため、健康診断などで発見されることも多いです。こうした症状は未治療の場合徐々に進行していきます。
このように急性と慢性で症状に違いが生じる理由は、肺の状態が異なるためです。急性症状が現れる場合には、肺の炎症が強いことを示しています。慢性の場合には炎症は弱まっていますが、炎症によって肺が傷んだ状態といえます。慢性過敏性肺炎の状態が長く続き、何度も肺が傷むことで“線維化”を起こすことがあるため、注意が必要です。
皮膚についた傷が治る過程で、傷口が少し盛り上がった状態を“線維化”といいます。線維化は、皮膚だけでなく肺でも起こり得ます。何度も同じ部位に傷がつくと治りが悪くなったり傷あとが残ったりする皮膚と同様、アレルギー性の炎症が長期にわたって起こることで、肺にも徐々に傷あとが残っていきます。こうした状態が肺の“線維化”です。
線維化が起こった肺の一部は硬くなり、息を吸った際に膨らまなくなってしまいます。これにより、日常生活程度の動作で息切れが生じるなど、呼吸機能が徐々に低下していきます。一度線維化した肺の一部が元通りになることはないため、早期発見、早期治療が特に重要となります。
また、同じく肺の線維化を引き起こす病気の1つとして特発性肺線維症があります。特発性肺線維症は、間質性肺炎のうち原因不明で起こり、肺に進行性の線維化が起こるものを指します。慢性の経過をたどるという点や、CT画像が慢性過敏性肺炎と非常に似ることがあります。一方で、特発性肺線維症と慢性過敏性肺炎とでは、治療の方針が異なるため、適切な診断が非常に重要となります。治療方針の違いについては後ほど解説します。
急性と慢性どちらの場合であっても、過敏性肺炎の治療においては抗原を回避することがもっとも重要です。抗原を回避することで、症状の改善、進行抑制が望めます。一方で、100種類を超える抗原の中から自身がアレルギー反応を起こすものを特定するのは非常に難しい場合もあります。そのため、過敏性肺炎が疑われた場合には、抗原特定のために患者さん自身が周囲の環境と自身の体調変化にアンテナを張ることも重要です。たとえば、旅行に行くと体調がよくなるといった場合には、自宅や職場環境に抗原がある可能性が高まります。
抗原の回避を試みてもなお進行してしまう場合や、抗原が特定できないまま症状が進行してしまう場合、次に行われるのは薬物療法です。薬物療法は、肺がだんだんと硬くなり呼吸機能が低下していくことを抑制するために行われます。特発性肺線維症の治療も同様の目的で治療が行われるという点は共通しています。そのため、過敏性肺炎を特発性肺線維症と診断されても問題がないようにも思えます。しかし、仮に過敏性肺炎の患者さんが特発性肺線維症と診断された場合、過敏性肺炎の治療においてもっとも重要な“抗原の回避”を行う機会を失ってしまうのです。こうしたことから、過敏性肺炎の根本的な治療を行うためには、適切な診断が必要であるといえるのです。
繰り返しになりますが、過敏性肺炎の治療でもっとも重要なことは、抗原の回避です。そのため、治療中だけでなく治療後も常に自身がアレルギー反応を起こす抗原が身の回りにないかどうか、注意を払う必要があります。必要に応じて、自宅のリフォームや転居、冬の満員電車(ダウンジャケットの羽毛)の回避、防塵マスクの着用などを行ってください。
慢性過敏性肺炎においては、個人差はあるものの通常は徐々に呼吸機能の低下などの症状が進んでいきます。しかし、まれに急激な呼吸困難などが起こることがあります。これが急性増悪です。急性増悪を発症すると、予後が悪くなる傾向にあります。風邪をひくことで急性増悪を引き起こす可能性もありますので、健康的な生活を送り、しっかりと体調管理を行うことも重要です。
過敏性肺炎は抗原を特定できれば、比較的予後がよい傾向にあります。薬物療法はあくまで病気によって起こった炎症や線維化を抑える対症療法にすぎません。やはり、可能な限り抗原を回避することが過敏性肺炎の根本的な治療につながるため、適切な診断は非常に重要となります。抗原を特定するのに非常に苦労したり、時間がかかってしまったりすることも多いというのも事実ですが、診断内容が治療に影響する場合もあるので、早めに専門医療機関の受診を検討してみてください。そして、ぜひ主治医の先生と一緒に粘り強く抗原の特定に努めてもらえればと思います。
抗原は目に見えないので、自分がいる環境に抗原となるものがありそうかどうか、常に想像することも非常に大切だと思います。たとえば、冬の満員電車ではダウンジャケットを着た方が多くいますし、バス停や駅周辺には鳥の糞がたくさん落ちていることもあります。そのほか、自宅、特に水回りにカビがないかなど、身の回りを観察してみてください。
また、過敏性肺炎の診断・治療自体も検査画像の質の向上や治療薬の進歩などにより、どんどん変化してきています。ぜひ諦めることなく、医師と共に一緒に治療に臨みましょう。
宮崎泰成.『過敏性肺炎 診断と治療のアップデート』.アレルギー 2020: 69: 329-33
吾妻安良太(編),三嶋理晃(編)『間質性肺炎・肺線維症と類縁疾患』(呼吸器疾患診断治療アプローチ,4)中山書店,2018.
東京科学大学 大学院医歯学総合研究科 統合呼吸器病学 教授
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