睡眠時無呼吸症は、眠っているときに呼吸が止まってしまう病気で、日中に強い眠気を伴います。糖尿病と同じくらいの頻度で発症するといわれています。しかし、実際に診断がついている患者さんは少なく、適切な治療を受けていない方が多い病気です。東京医科歯科大学快眠センター長の宮崎泰成先生に、睡眠時無呼吸症についてお話をうかがいました。
睡眠時無呼吸症(すいみんじむこきゅうしょう)は、眠っているときに呼吸停止または低呼吸の状態になる病気で、日中に強い眠気を伴います。
発症頻度は糖尿病と同じくらいであるといわれていますが、きちんと診断され治療を受けている方は全体の約10%にしかすぎません。したがって、疫学的には糖尿病と同じくらい多くの患者さんがいると考えられるものの、実際には糖尿病ほどきちんと診断されて十分な治療がなされていない状況です。
睡眠中に気道(空気の通り道)が閉塞すると無呼吸になりますが、その前段階では「いびき」が生じます。中にはいびき症だけで無呼吸にはならない方もいますが、いびきは睡眠時無呼吸症を発見する手がかりとしてわかりやすい症状のひとつです。
いびきだけの方の場合は、軟口蓋(なんこうがい)という、口の中の奥にあるところが震えていびきが生じます。その部分が少し狭くなっているだけであれば無呼吸までには至らないため、それほど問題はないと考えられます。そのようなケースは単純性いびき症と呼ばれています。
ただし、最近の研究ではいびきだけの場合でも、その振動によって頸動脈の動脈硬化をきたすというデータもあります。したがって、基本的にはいびき全般に対して睡眠時無呼吸症の診断・治療を始めた方がよいと考えます。
睡眠時無呼吸症の原因は下記の通りです。
扁桃肥大やアデノイド(鼻の奥とのどの間にある咽頭扁桃と呼ばれるリンパ組織の肥大)は子どもに多くみられます。子どもの場合には、日中の眠気のために学校の成績が悪くなるといった影響もあります。
首回りが太くて短い、俗に「猪首(いのくび)」と呼ばれるような体型の方は睡眠時無呼吸症になりやすい傾向があります。しかし、日本人は欧米人と比較すると、実はそれほど太っていなくても睡眠時無呼吸症になるといわれています。身長と体重から算出される体格指数であるBMI(ボディマス指数)では、22が標準、25以上が肥満とされていますが、BMIが25前後の方でも睡眠時無呼吸症の方が多くみられます。
その理由として、元来日本人は下顎(かがく)が遺伝的に小さいということが関係していると考えられます。日本人の起源には縄文人と弥生人の2つがあるといわれますが、縄文人系とされるアイヌと沖縄の琉球民族は下顎が大きいという特徴があります。ところが、それ以外の日本人のほとんどは弥生人系であるため、下顎が小さいのです。
そして、下顎が小さいため、舌が入るスペースが狭く、舌が後ろに落ち込みやすくなって、気道が閉塞して無呼吸になるのだと考えられています。また、顎の裏から舌を前に引っ張っているオトガイ舌筋は、加齢によって筋力が低下します。そのため、年齢が高くなるほど舌が気道に落ち込みやすくなります。
睡眠時無呼吸症の症状としては、次のようなものがあります。
睡眠時無呼吸症が発見されるきっかけとしては、前述したいびきと日中の眠気による場合が多いのですが、もうひとつ重要なものとして夜間の頻尿があります。
ある程度歳をとってくると、男性では前立腺肥大を伴う方が多くなるため、夜トイレに起きるということが当たり前のように思われています。しかし、昼間の頻尿あるいは排尿障害がないのに夜間頻尿があるという方は睡眠時無呼吸症の可能性が高く、実際の診療の中でもそういった方はしばしばみられます。
朝、頭痛や頭が重い感じがあるというのも睡眠時無呼吸症の症状のひとつです。朝起きたときに血圧が上がるために起こる頭痛と、無呼吸のために酸素不足で起きる頭痛の両方の要因があると考えられます。
睡眠時無呼吸症の典型例では、トータルの睡眠時間はむしろ長い方が多く、10時間ぐらい寝てもまだ眠いというパターンが多くみられます。この病気が広く知られるきっかけとなった出来事のひとつに「平成の2.26事件」と呼ばれるものがあります。これは、2003年2月26日に「ひかり126号」の運転士が居眠り運転をし、岡山駅で新幹線が緊急停止したというものです。のちにこの運転士は睡眠時無呼吸症だったことがわかりましたが、その運転士も普段から10時間ぐらい寝ていたことがわかっています。
その当時はまだ睡眠時無呼吸症に対する認識が薄く、トラックや長距離バスの運転手、電車の運転士などがこの病気になると非常に危険だということが認識されていませんでした。しかし、この事件が契機となって国土交通省で「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症対策マニュアル」が策定されるなどの取り組みが行われるようになりました。
問診でもよく行われるESS(Epworth Sleepiness Scale)は、日常生活の中で以下の状況になったとき、「うとうとする(数秒〜数分眠ってしまう)」可能性がどれくらいあるかを0点〜3点までの4段階で答えていただくテストです。合計が11点以上の場合、昼間の眠気が強いというひとつの目安になります。
Q1:すわって何かを読んでいるとき(新聞、雑誌、本、書類など)
Q2:すわってテレビを見ているとき
Q3:会議、映画館や劇場などで静かにすわっているとき
Q4:乗客として1時間続けて自動車に乗っているとき
Q5:午後、横になって休息をとっているとき
Q6:すわって人と話をしているとき
Q7:昼食(飲酒なし)をとった後、静かにすわっているとき
Q8:すわって手紙や書類などを書いているとき
0点:うとうとする可能性はほとんどない
1点:うとうとする可能性は少しある
2点:うとうとする可能性は半々くらい
3点:うとうとする可能性が高い
私たちの体は睡眠中だけでなく、日中の起きているときにも睡眠リズムがあり、2時間おきに眠くなるときと覚醒するときを繰り返しています。そのため、午前10時前後や昼食をとってから2時間後(午後2時ごろ)は眠くなることが多い時間帯であるといえます。
その眠気が正常範囲内であるかどうかは、仕事に差し障りがあるかどうかということが基準になります。つまり、睡眠障害の判断基準では、それが社会生活に支障をきたす程度のものかどうかということが問題になります。
日中の眠気のためにコーヒーを飲みすぎて、かえって夜眠れなくなるという悪循環になる方もいます。普通であればそこまで眠くなることはありませんので、その原因を明らかにするということが大切です。そのためには、睡眠障害の中でも頻度が高い睡眠時無呼吸症を念頭に置きながら、その他の睡眠障害を含めて診断をしていく必要があります。
睡眠時無呼吸症の検査では、まず簡易型のアプノモニター検査でスクリーニング(ふるい分け)を行い、睡眠時無呼吸症が疑われる場合には1泊入院をしてPSG検査を行うという流れになります。
指先・呼吸のセンサーをつけ、血液中の酸素濃度と呼吸の状態を測定します。検査自体は簡便であり、自宅に検査のための機械を届けてもらって行うことも可能です。すべての医療機関で検査できるわけではありませんが、簡単な検査で自宅でもスクリーニングができるので、ぜひ気軽に受けていただきたい検査です。
脳波・眼電図・筋電図から睡眠の状態(眠りの深さや睡眠の質)を判定し、口鼻・胸部・腹部の呼吸運動センサーで呼吸の状態を判定します。夕方からの1泊入院で検査を行います。
睡眠時無呼吸症の診断には、AHI(Apnea Hypopnea Index:無呼吸低呼吸指数)という指標を用います。睡眠中に無呼吸(呼吸が止まっている状態が10秒以上)、あるいは低呼吸(呼吸による換気が通常の半分になっている状態が10秒以上)が1時間に5回以上あれば、睡眠時無呼吸症であると診断されます。
無呼吸または低呼吸が「1時間に5回以上」のほかに、「ひと晩に30回以上」という基準もありますが、最近ではもっぱら、睡眠中のトータルの回数を睡眠時間で割るという計算をして、1時間あたりの回数で判断しています。
呼吸器内科は、呼吸生理学的知識という意味では専門ですから、私自身は呼吸器内科が中心となって睡眠時無呼吸症を診るべきであると考えています。しかし実際には耳鼻科で診ていることもありますし、心臓の不整脈にも関係することから循環器内科が診ていることもあります。
また、睡眠に関する診療を行うスリープクリニックと呼ばれる施設も近年増えています。先に述べたPSG検査を行う場合でもベッドが2床ぐらいあれば検査は可能ですから、特別大きな施設が必要なわけではありません。
睡眠時無呼吸症であると診断され、後述する持続陽圧呼吸療法(CPAP)など、専門的な治療を行う必要がある場合、とくに生活習慣病を合併されている方は総合的な治療が可能な専門機関を受診することをおすすめします。
睡眠時無呼吸症の治療には、大きく分けて次の4つがあります。
●生活習慣の改善
生活習慣を改善して減量すると睡眠時無呼吸症が治る方もいらっしゃいます。ただし、体重はなかなかすぐには減りません。CPAPなどの治療を行うことで昼間の眠気が減れば活動性も上がりますので、歩くことを中心として昼間によく運動をしていただき、栄養指導や食習慣の改善によって体重を減らすことができると、それだけで睡眠時の無呼吸がなくなる方もいます。
こうした生活習慣の改善は、治療の基本として最初に取り組んでいただくようにしています。実際、AHIの数値が低い軽症の方であればCPAPが必要ないという方はいらっしゃいますし、体重を減らすだけで改善することはあります。
お酒を飲んだときだけいびきをかくという方は、アルコールで筋が弛緩するため口が開いて顎が下がっているのだと考えられます。口を開けると顎が後退しやすく、舌(ぜつ)が後ろに落ち込みやすくなります。
●マウスピース療法
マウスピース療法は、いびき症の方や軽症の睡眠時無呼吸症の方に有効です。下顎を上顎より前に固定することで気道の面積を広げます。本学医学部附属病院快眠センターと歯学部附属病院快眠歯科とで緊密な連携診療、情報交換を行い、個々の症例に適したテーラーメイドな治療を実践しています。
●持続陽圧呼吸療法(CPAP)
持続陽圧呼吸療法(Continuous Positive Airway Pressure; CPAP)は、鼻に装着したマスクから空気を一定圧で送り込み、睡眠中に舌が落ち込んで喉が塞がってしまうことを防ぎます。
●外科手術
小児の睡眠時無呼吸症の大半は扁桃肥大(アデノイド)が原因であり、外科手術の適応となります。かつては切除すると免疫が低下するともいわれていましたが、現在はそのような考え方は否定されており、全部を摘出することが多くなっています。
大人の場合は顎を切って噛み合わせをずらすという大きな手術になるため、外科手術は小児を対象とする場合が中心になります。また、歯科医師の協力の下で顎を広げる道具を使った治療も行いますが、いずれにせよ顎の外科手術の場合には、最終的な顎の形状が解剖学的にどのようになるかを判断することが難しいという面があります。
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 統合呼吸器病学 教授
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