インタビュー

睡眠時無呼吸症候群を治療せずにいるリスク――閉塞性睡眠時無呼吸と生活習慣病の関連性

睡眠時無呼吸症候群を治療せずにいるリスク――閉塞性睡眠時無呼吸と生活習慣病の関連性
山内 基雄 先生

奈良県立医科大学 医学部看護学科 臨床病態医学講座 教授/奈良県立医科大学附属病院 呼吸器・ア...

山内 基雄 先生

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睡眠の質の低下につながる睡眠時無呼吸症候群SAS)。中でも、閉塞性睡眠時無呼吸(へいそくせいすいみんじむこきゅう)を治療せずにいると交通事故や仕事のパフォーマンス低下などにつながるため、日常生活にさまざまな支障をきたすことが明らかになっています。また、閉塞性睡眠時無呼吸と生活習慣病は合併しやすく、双方向性をもって影響を与えることで心筋梗塞(しんきんこうそく)狭心症脳卒中といった命に関わる合併症のリスクを高めることが指摘されています。

今回は、奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座 准教授の山内 基雄(やまうち もとお)先生に、閉塞性睡眠時無呼吸と生活習慣病の関連性を中心にお話を伺いました。

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠時に無呼吸あるいは低呼吸を繰り返すために睡眠が障害される病気です。無呼吸とは呼吸が停止した状態、低呼吸とは呼吸が不十分な状態を指し、無呼吸や低呼吸が10秒以上続く状態が1時間に5回以上起こっていると病的意義を持つことになります。

睡眠時無呼吸症候群には、上気道(鼻腔(びくう)から喉頭(こうとう)までの気道)の閉塞によって起こる閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と、脳からの呼吸の指令が滞ることによって起こる中枢性睡眠時無呼吸(CSA)があります。

本記事では、睡眠時無呼吸症候群の中でも生活習慣病と関連のある閉塞性睡眠時無呼吸を中心にお話しします。

閉塞性睡眠時無呼吸とは、上気道を広げるはたらきがある上気道開大筋の活動性が低下し、睡眠時に上気道が狭くなったり、塞がったりすることで無呼吸や低呼吸をきたす病気です。閉塞性睡眠時無呼吸では、基本的にいびきをかいているといわれています。

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睡眠時に無呼吸や低呼吸の状態に陥ると、体内に酸素を取り込めなくなるのと同時に、老廃物である二酸化炭素を排出できなくなります。すると、危険を察知した脳が覚醒して上気道開大筋の活動性を上げますので、閉塞していた気道が広がって呼吸が再開されます。しかし、呼吸が再開されると脳は眠りにつくため、無呼吸や低呼吸の状態が再び起こります。これを一晩に500回ほど繰り返す方もいますがほとんどの場合で目が覚めることはなく、無意識のうちに脳が機能し呼吸を回復させている点がこの病気の特徴です。

これによって、本人が気付かないうちに睡眠のリズムや睡眠の質が障害され、深い眠りが訪れなくなったり、日中の不調につながりやすくなったりします。

閉塞性睡眠時無呼吸は上気道が狭くなることで生じますが、その第1の因子に肥満が挙げられます。ただし、肥満でない方でも解剖学的な要因から閉塞性睡眠時無呼吸を起こすことがあります。たとえば、下顎が小さいために口腔(こうくう)内の容積とのバランスが取れない、または顔の骨格に問題がなかったとしても、口蓋垂(のどちんこ)や舌などの口腔内容物が大きいといった理由で気道の閉塞をきたすこともあります。

そして、顔の形態は遺伝しますので、ご家族に閉塞性睡眠時無呼吸の方がいる場合には発症する可能性が高いと考えられます。ご家族に閉塞性睡眠時無呼吸の方が1人いると約1.6倍、2人いると場合は約2.5倍、もう1人の家族に閉塞性睡眠時無呼吸が発症するリスクが高くなるという報告もあります。

そのほか、治療抵抗性高血圧*の方の約8割は閉塞性睡眠時無呼吸を合併しているといわれています。複数の高血圧の薬を服用しているにもかかわらず、血圧のコントロールがうまくいっていないという方は、睡眠時無呼吸がないか一度検査を受けることをおすすめします。

*治療抵抗性高血圧:生活習慣の改善に加えて、複数の治療薬を内服しても目標値まで血圧を下げることができない病態。

2019年に発行された医学雑誌『The Lancet Respiratory Medicine』によれば、世界的に見ると、30~69歳の成人のうち無呼吸低呼吸指数(AHI:1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数)が5以上の閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんは約9.4億人、15以上の中等症以上の患者さんは約4.3億人いると推定されています。

日本国内の人口に対する患者さんの割合は、男性が5%ほど、女性が2~3%ほどといわれています。これは、2020年の人口推計に当てはめると、男性は約307万人、女性は約130~194万人に当たります。一方で、令和2年社会医療診療行為別統計よるとCPAP(シーパップ)療法(持続陽圧呼吸療法)を保険診療で行っている方は約65万人にすぎません。もちろんCPAP療法以外の治療を受けている方もいらっしゃいますが、治療を受けていない方が多いと考えられます。

睡眠中の症状と日中の症状に分けられます。当てはまる症状がある方や、その症状で困っている方は閉塞性睡眠時無呼吸を疑い、医療機関への受診をおすすめします。

睡眠中の症状

睡眠時の症状としては、いびきや夜間頻尿が挙げられます。いびきについてはご家族や周囲の方からの指摘によって気付かれる場合がほとんどです。

また、尿意を感じ夜間にトイレに起きることが2回以上(夜間頻尿)ある患者さんもおられます。実は閉塞性睡眠時無呼吸による夜間頻尿によって睡眠を妨げられて、悩まされている方も少なくありません。

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日中の症状

睡眠の質の低下によって、早朝の頭痛や熟睡感の欠落につながります。また、日中の眠気や倦怠感、集中力の低下をきたします。

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重症の閉塞性睡眠時無呼吸があり睡眠の質が悪化している場合には、集中力の低下や反応の遅れなどをきたしやすくなり、その結果として交通事故を起こすリスクが高まります。閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんが交通事故を起こす確率は、そうでない方の3~7倍ほど高いともいわれています。

また、仕事中に集中力を持続できずに生産性が低下したり、会議中に居眠りしてしまったりすると、職場での信用を失う恐れがあります。このように閉塞性睡眠時無呼吸による日中の症状は社会的な問題につながりかねないため、しっかりと治療を行うことが大切です。

閉塞性睡眠時無呼吸がある方は生活習慣病を合併しやすく、それによって循環器疾患などの重篤な合併症のリスクを高めることが明らかになっています。また、生活習慣病の中でも特に高血圧は閉塞性睡眠時無呼吸と直接的に関わっているといわれています。

それでは、2つの関連性と発症メカニズム、また合併するリスクなどについて詳しく解説します。

閉塞性睡眠時無呼吸の方は肥満を伴っていることが多いため、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を発症しやすいと考えられます。加えて、肥満を伴わない閉塞性睡眠時無呼吸の方であっても生活習慣病のリスクが高まることが分かってきています。そのメカニズムは次のように説明できます。

先ほど述べたように、睡眠時に無呼吸や低呼吸になると低酸素状態になり、脳が覚醒して呼吸が再開すると低酸素状態も回復します。寒暖差のある場所を何度も行き来していると体調を崩しやすいのと同じように、睡眠中に酸素濃度の変動を何度も繰り返すと生活習慣病の発症と関連する酸化ストレスの亢進や全身性炎症反応が強く出て、体にダメージを与えます。特にダメージを受けやすいのが血管です。具体的には、動脈硬化が進み、それに伴って血圧の上昇、さらには心筋梗塞狭心症脳卒中といった命に関わる合併症につながる恐れがあります。

なお、閉塞性睡眠時無呼吸による日中の眠気を解消するために日常的に頻繁に喫煙やカフェインを摂取すると睡眠の質がさらに低下し、血圧の上昇につながる危険性があります。

生活習慣病は単独でも動脈硬化を進める要因であるため、重篤な循環器疾患を引き起こす可能性があります。また、生活習慣病の方は多くの場合で肥満を伴っていますので、閉塞性睡眠時無呼吸の発症リスクを高めます。結果的に、生活習慣病と閉塞性睡眠時無呼吸を合併すると2つの要因から動脈硬化が進み、重篤な循環器疾患をきたすリスクはさらに高まると考えられます。そのほか、閉塞性睡眠時無呼吸ならびに生活習慣病は認知機能の低下や認知症の発症につながることも注目されています。

高血圧の患者さんの30%ほどは閉塞性睡眠時無呼吸を合併しており、閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんの50%ほどが高血圧を合併しているといわれています。また、AHIの値が30以上の患者さんは、AHIが5未満の患者さんと比較すると、高血圧を新たに発症するリスクが1.5~2.2倍ほど高いと報告されています。

一方で、CPAP療法を行うと閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんの血圧が下がることが明らかになっています。このことから、高血圧の発症因子の1つはCPAP療法で取り除くことが可能といえます。ただし、高血圧の発症には重度の喫煙習慣や、睡眠時間の短さなどのさまざまな要因が関係していますので、CPAP療法のみでは高血圧が改善しない場合もあることは考慮しなければなりません。

また、高血圧と閉塞性睡眠時無呼吸を合併している場合、治療を行わなければ動脈硬化を引き起こし、不整脈心不全などの循環器疾患のリスクが高まります。不整脈の中でも特に心房細動*は閉塞性睡眠時無呼吸が単独のリスク因子になるため注意が必要です。

*心房細動:心房と呼ばれる心臓の上部がきちんと収縮しないために細かく震えて、動悸や息切れなどをきたす病気。

閉塞性睡眠時無呼吸は、呼吸器内科・循環器内科・耳鼻咽喉科(じびいんこうか)・精神科など病院によって診療している科が異なります。そのため、事前にかかりたい医療機関のホームページなどで、どの診療科で睡眠時無呼吸の診療をしているかを調べてから受診されるとよいと思います。

閉塞性睡眠時無呼吸の治療方針は、重症度指標であるAHIの数値や症状、合併症の有無などを考慮して決定します。また、閉塞性睡眠時無呼吸の発症予防、症状抑制のためには減量や生活習慣の改善も重要です。

肥満を伴う方には、減量に取り組んでいただきます。また、生活習慣の改善として規則正しい食生活と、毎日同じ時刻に起床・就寝するといった睡眠習慣の改善に取り組んでいただきます。必要な睡眠時間には個人差がありますが、7時間前後が望ましいといわれています。

マウスピース治療は、就寝する際にマウスピースを口にはめて下顎を前方に固定することにより、睡眠中の気道の閉塞を防ぐ治療法です。一般的には、終夜睡眠ポリグラフ検査*(PSG検査)でAHIの数値が20に満たなかった場合には、マウスピース治療が検討されます。また、AHIが20以上であっても体型などを考慮してマウスピース治療を選択することがあります。

*終夜睡眠ポリグラフ検査:睡眠中の脳波や心電図、呼吸、いびきなどを測定する検査。基本的に1泊2日の入院で実施する。

就寝時にマスクを着用し、圧をかけた空気を送り込んで気道がふさがらないようにする治療法です。 PSG検査でAHIの数値が20以上だった場合に選択される治療法ですが、そのほかの要素も考慮して治療方針を決めていきます。

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治療効果

CPAP療法によって日中の眠気が改善した、起床時の熟眠感が出てきた、高血圧の薬の種類を減らせた、トイレに起きる回数が減ったという喜びの言葉を聞く機会が多くあります。これらのことから合併症の改善や、生活の質の改善が期待できるといえるでしょう。

治療の注意点

【使用法について】
CPAP治療を行わなければ無呼吸や低呼吸が起こりますので、睡眠時には必ずCPAP療法を行うことが重要です。したがって、患者さんには出張や旅行にも持っていくようお話ししています。視力が悪い方が車を運転する際、目的地が近いからという理由で眼鏡をかけないで運転しないのと同じで、CPAPもある種の矯正器具ですから1泊2日の出張であっても治療を行い、合併症の発症や悪化の防止に努めましょう。また、肺などに不衛生なものが入ってこないようにCPAP機器の清潔を保つことも大切です。

【通院について】
CPAP療法は保険診療ですから、定期的な通院が必須になります。治療効果などを確認するために長くても3か月に1度は必ず受診ください。

近年、手術が選択されることは少なくなっています。ただし、お子さんの睡眠時無呼吸はアデノイド(鼻のもっとも奥にあるリンパ組織)や口蓋扁桃(扁桃腺)の肥大が主な要因であることが多いので、その場合はアデノイド切除術や口蓋扁桃摘出術といった手術を行います。

舌下神経電気刺激療法とは、鎖骨の下に装置を埋め込み、睡眠中の呼吸に応じて微弱な電気刺激を送って舌下神経を収縮させることで気道を確保する治療法です。CPAP療法の継続が難しい中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸の方を対象とした治療法として、2021年6月に保険適用になりました。

閉塞性睡眠時無呼吸は、睡眠時に息苦しくなるといった自覚症状がほとんどないため、自分では気付きにくいからこそ危険な病気といえます。だからこそ、ご家族や周囲の方から睡眠中のいびきや呼吸停止を指摘されたならば、閉塞性睡眠時無呼吸を疑ってなるべく早く医療機関を受診してください。

たとえば、いびきが原因でご夫婦やパートナーで別々の部屋で寝るようになってしまったという方もいるのではないでしょうか。いびきの原因が閉塞性睡眠時無呼吸の場合には、CPAP療法を行うことでいびきの改善が期待できますので、ぜひ一度検査を受けましょう。

女性は閉経すると上気道を広げる作用がある女性ホルモンが減少しますので、いびきをかき始めたり、睡眠時無呼吸が起こりやすくなったりします。1人で寝ている場合には、閉経後から急に始まったいびきにご家族やパートナーが気付くのは難しいでしょう。たとえ別の部屋で寝ているとしても、ご家族やパートナーの互いの健康状態の変化に気付けるように眠っている様子をときどき確認いただきたいと思います。

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1人暮らしの場合などは、いびきを指摘してくれる方がいないこともあるでしょう。そのような場合には、スマートフォンのアプリを活用したり、録音機能を使ったりして睡眠中にいびきをかいていないか確認してみることをおすすめします。実際、診察に来られる患者さんの中にも、アプリのデータを持参される方も少なくありません。スマートフォンなどを上手に活用して、病気の早期発見、早期治療につなげましょう。

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