インタビュー

“いびき”は病気のサインかも? 放置するとリスクが伴う睡眠時無呼吸症候群とは

“いびき”は病気のサインかも? 放置するとリスクが伴う睡眠時無呼吸症候群とは
立川 良 先生

神戸市立医療センター中央市民病院 呼吸器内科

立川 良 先生

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ご家族や周囲の方に「いびきをかいている」と言われたことはありませんか。いびきに関連する病気の1つに睡眠時無呼吸症候群が挙げられます。日本には約2,200万人の患者さんがいると推定される病気ですが、治療を受けている方はその一部に限られています。しかし、睡眠時無呼吸症候群を治療しないでいると睡眠の質が下がり、日常生活にさまざまな影響を及ぼすリスクにつながるため、積極的に治療を行うことが大切です。

神戸市立医療センター中央市民病院 呼吸器内科の立川 良(たちかわ りょう)先生は、「いびきは睡眠時無呼吸症候群を見つけるヒントの1つになります。しかし、幅広い症状が現れる可能性がある病気なので、そのサインを見逃さないでほしい」とおっしゃいます。

いびきが起こるメカニズムや睡眠時無呼吸症候群の多様な症状、治療法などについて立川先生にお話を伺いました。

睡眠中は喉の奥を広げている筋肉が緩み、上気道(鼻腔(びくう)から喉頭(こうとう)までの気道)の中でも喉の奥にあたる咽頭(いんとう)部分が特に狭くなります。その狭くなった気道を空気が通過する際に口蓋垂(こうがいすい)(のどちんこ)などがブルブルと震えて出る音がいびきです。

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イラスト:PIXTA

さまざまな要因によって喉の容積が狭くなり、空気の通りが悪くなることでいびきをかきます。主な原因は以下になります。

肥満

代表的な原因は肥満です。肥満があると喉の内部にも脂肪が付くため、気道が狭くなりやすくなります。

顎の骨格

顎が小さい、顎の位置が後退しているといった骨格の特徴によって喉の容積が小さくなっている方はいびきをかきやすくなります。

鼻づまり

アレルギー性鼻炎などで鼻が詰まっていると、口呼吸をしやすくなります。すると、空気の通り道が狭くなっていびきにつながります。

そのほか、一時的ないびきが起こる原因として、飲酒や過度の疲労、一部の睡眠薬の服用などが挙げられます。

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いびきに関連した病気の1つに睡眠時無呼吸症候群があります。睡眠時無呼吸症候群とは無呼吸や低呼吸を一晩に数十回から多い方では数百回繰り返す病気で、特徴的ないびきや日中の眠気などの症状がみられます。

睡眠時無呼吸症候群は上気道の閉塞(へいそく)によって起こる“閉塞性睡眠時無呼吸”と、心不全などの病気などにより脳からの呼吸の指令が止まることで起こる“中枢性睡眠時無呼吸”に大きく分けられます。睡眠時無呼吸症候群の大部分は閉塞性睡眠時無呼吸であるため、一般的に睡眠時無呼吸症候群というときは閉塞性睡眠時無呼吸を指していることが多いでしょう。*

本記事では、睡眠時無呼吸症候群の中の閉塞性睡眠時無呼吸を中心にお話しします。

*中枢性睡眠時無呼吸は単独で起こることはまれで、閉塞性睡眠時無呼吸と混合しているケースが多数みられます。

有病率

閉塞性睡眠時無呼吸は男女共に年齢が上がるにつれて有病率が増加傾向にあり、女性では閉経時期にあたる50歳代で有病率が高くなります。2019年の発表によると、日本の30~69歳における閉塞性睡眠時無呼吸の有病率は全体の32.7%にあたる約2,200万人と推定されています。中等症以上の有病率に限った場合でも、14%にあたる約940万人といわれています。

睡眠時無呼吸症候群の治療を受けている患者数

中等症以上の睡眠時無呼吸症候群に対する標準的な治療は、後述するCPAP(シーパップ)療法です。厚生労働省による2022年社会医療診療行為別統計のデータでは、CPAP療法を受けている患者数は56万人ほどにとどまっています。このことから、CPAP療法の治療適応となる方の大多数が睡眠時無呼吸に気付いておらず、それゆえに治療を受けていないのが実情といえるでしょう。

就寝中に何度も呼吸が止まると、そのたびに低酸素血症(血液中の酸素が不足した状態)に陥り、全身の健康に悪影響を及ぼします。また、呼吸の再開に伴って覚醒反応があり、睡眠が何度も分断されます。すると、ぐっすり眠れない、夜間に何度も目が覚める、朝早く目が覚めてしまうなどの睡眠の質の低下が起こりやすくなります。

その結果、日中に強い眠気が生じて、仕事で十分なパフォーマンスが発揮できなかったり、交通事故などを起こしやすくなったりする問題につながる恐れがあります。学生では、成績が下がるといったことにも結び付くでしょう。高齢の方では、認知機能の低下や気分の落ち込み(抑うつ)などが特に懸念されます。

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お話ししたようなリスクを避けるために、睡眠時無呼吸症候群を発症している場合には、早期発見・治療が大切です。睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状として広く知られているのは、いびきや日中の強い眠気でしょう。しかし、これらの自覚症状がない方も少なくありません。いびきや日中の眠気は睡眠時無呼吸症候群を見つける大きなヒントになるものの、それ以外にも幅広い症状が現れる病気だとご理解いただきたいと思います。

また、症状があってもご本人がその状態に慣れてしまっており、病気に気付いていないこともあります。睡眠時無呼吸症候群を見逃さないようにするためには、体型・症状・合併症の有無を併せてみていく必要があります。

肥満の方、特にいわゆる内臓脂肪型肥満で首が太く短い方は上気道が狭くなりやすいので、睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まります。また、顎が小さい、咽頭扁桃(アデノイド)肥大などの特徴がある場合には、睡眠時無呼吸症候群を疑う1つのポイントになるでしょう。

いびきと呼吸停止がみられる場合、睡眠時無呼吸症候群が疑われます。大きないびきが突然止まって静かになった後、呼吸の再開とともにガッと開通音がして、また大きないびきが始まるというのを繰り返すのが典型的な症状例です。

ほかにも、睡眠時無呼吸症候群では多様な症状が現れる可能性があります。特に夜間の症状については自覚がないことも多いので、ご家族や周囲の方に睡眠時の様子について確認することが大切です。

【日中の症状】
・日中の眠気
・倦怠感
・ぐっすり眠った感覚(熟眠感)の欠如
・起床時の頭痛

【夜間の症状】
・窒息感
・不眠症状
・夜中に何度も目を覚ます(中途覚醒)
夜間頻尿

睡眠時無呼吸症候群の一因に加齢や肥満があることから、それらが関係している高血圧糖尿病といった病気を合併しやすい傾向にあります。特に重症の睡眠時無呼吸症候群を治療せずにいると呼吸停止が起こるたびに血圧が上昇し、最終的には高血圧につながるため注意が必要です。加えて心臓や脳といった臓器にも負担がかかるので、心不全脳卒中といった重篤な病気を合併するリスクが高まります。

睡眠時無呼吸症候群を疑ったら、まずは呼吸器内科を受診することをおすすめします。呼吸器内科が近くにない場合には、睡眠時無呼吸症候群の診療を行っている耳鼻咽喉科(じびいんこうか)や循環器内科などを受診いただくとよいでしょう。

問診などで症状を確認した後、まずはスクリーニング検査を実施します。スクリーニング検査の結果に応じて、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)という精密検査を行います。

スクリーニング検査

パルスオキシメータ*、簡易モニター**のいずれかの機器を用いて自宅でスクリーニング検査を行います。AHI(無呼吸低呼吸指数:1時間あたりの無呼吸と低呼吸の合計回数)が5以上の場合には睡眠時無呼吸症候群の可能性があるので、自覚症状などを加味して睡眠時の状態を詳しく調べるためにPSGを行う流れになります。

なお、簡易モニター検査でAHIの値が40以上であれば、その時点で睡眠時無呼吸症候群と診断されるため精密検査を実施することなくCPAP療法を開始することもできます。

*パルスオキシメータ:指を装置で挟むことで、採血することなく血液中の酸素飽和度(赤血球中のヘモグロビンと酸素が結合している割合)と脈拍数を測定できる機器
**簡易モニター:鼻や指先などにセンサーを付けて、酸素飽和度や心電図、就寝中の呼吸の状態などを測定できる機器

終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)

PSGは脳波や心電図、筋電図、呼吸の状態や酸素飽和度、いびきなどをチェックする検査です。通常1泊2日の入院で行います。

AHIの値をもとに重症度に応じて治療方針を検討します。併せて、患者さんの治療経過などを見ながら治療を進めていきます。

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PSGでAHIが20以上、あるいは簡易モニター検査でAHIが40以上であれば保険適用を満たすため、まずはCPAP療法を開始するのが基本的な流れです。CPAP療法とは、装着したマスクから空気を送り込むことで、就寝中の気道の閉塞を防ぐ治療法です。

CPAP療法では主に鼻を覆う鼻マスクが使用されますが、アレルギー性鼻炎などで鼻づまりがある患者さんには鼻と口を覆うタイプのフルフェイスマスクを用いる場合もあります。当院ではあまり使用していませんが、患者さんによっては鼻の穴に差し込むタイプのマスクが合うという方もいます。

AHIが20未満の方は、口腔内装置(こうくうないそうち)(マウスピース)を用いたり、寝るときの体位を変えたりする治療を行うことで上気道の閉塞を防ぐ治療を行います。また、CPAP療法を行ったけれどもさまざまな事情で継続が難しい方も、これらの治療が検討されます。

肥満がある方には重症度にかかわらず減量指導を行います。また、過度の飲酒は睡眠時無呼吸の悪化につながる可能性もあり、控えるようにお伝えしています。

CPAP療法を行ったものの継続が難しい方に対する舌下神経刺激療法という治療が2021年6月に保険適用になりました。舌下神経刺激療法とは、電気刺激を送る装置を鎖骨の下に埋め込み、舌下神経を刺激することで気道の閉塞を防ぐ治療法です。ただし、適応基準が細かく定められている治療であるため、適応例はかなり限定的といえるでしょう。また、舌下神経刺激療法を実施している医療機関は15施設ほどにとどまります(2024年1月時点)。

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鼻が詰まっていると上気道の閉塞につながったり、CPAP療法でマスクが使いづらくなったりします。そのため、アレルギー性鼻炎などがある睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、耳鼻咽喉科と連携しながら治療を進めていくことも重要です。

また、成人の睡眠時無呼吸症候群では手術が有効な事例は限られますが、お子さんの場合はアデノイド肥大などが原因となっていることが多いため、耳鼻咽喉科による手術が標準的な治療になっています。

CPAP療法を行うことで無呼吸や低呼吸の頻度は抑制されますが、自覚症状の変化については個人差が大きいと思います。日中の眠気や不眠症状、中途覚醒などの自覚症状があった方は、症状の改善を実感しやすいでしょう。一方、自覚症状が乏しかった方は治療効果を感じにくいかもしれません。

ただ、CPAP療法を開始してからしばらくすると、患者さんが自覚していなかった日中の眠気や不眠症状が改善する事例もあるため治療を継続することが大切です。また、睡眠時無呼吸症候群の症状が改善することによって仕事のパフォーマンスの向上、交通事故率の低下などにつながることが明らかになっています。

通院頻度

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CPAP療法の治療中は少なくとも3か月に一度は通院し、診療を受けていただく必要があります。医師の指導の下で定期的な通院を続けましょう。

装着時間

CPAPの装着時間の目安は1日あたり4時間以上とされています。ただし、睡眠時間には個人差がありますので、可能な範囲で長い時間装着するように指導しています。まずは治療に慣れることを重視し、焦らずに経過を見ていきましょう。

いびきは健康上の問題を見つけるシグナルになりますが、全てのいびきが問題になるわけではありません。ただし、いびきに加えて周囲の方に無呼吸を指摘されたことがある方、日中の眠気などの自覚症状がある方は、睡眠時無呼吸症候群の可能性が考えられます。これらが当てはまる場合には、呼吸器内科をはじめとする診療科で積極的に検査を受けましょう。

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