睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)があると、日常生活に支障をきたすことが知られています。睡眠中のいびきや呼吸停止をパートナーやご家族などから指摘されたことがあるという方もいるのではないでしょうか。また、仕事中に集中できないほど眠気を感じるという方もいるかもしれません。これらの症状が当てはまる方は睡眠時無呼吸症候群の可能性が考えられます。
今回は、藤田医科大学ばんたね病院 耳鼻咽喉科 教授、睡眠健康センター長の中田 誠一先生に睡眠時無呼吸症候群の検査や治療法に関する疑問、治療をしないことによるリスクなどについてお答えいただきました。
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に無呼吸や低呼吸が起こってしまう病気です。睡眠中に10秒以上呼吸が止まった状態を睡眠時無呼吸、呼吸が弱くなり体内に酸素が不足した状態を睡眠時低呼吸といいます。子どもの場合は、2呼吸分以上息が止まった状態を睡眠時無呼吸といいます。
まず、睡眠時無呼吸症候群は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA:Obstructive Sleep Apnea)と中枢性睡眠時無呼吸(CSA:Central Sleep Apnea)に大きく分けられます。気道(息の通り道)が塞がることで起こる無呼吸を閉塞性睡眠時無呼吸、気道は塞がっていないけれども脳が息をしなくてよいと間違った命令をしてしまうことで起こる無呼吸を中枢性睡眠時無呼吸といいます。なお、両方が合わさっている場合もあります。
それぞれの原因は以下のとおりです。
下顎や顔面の形態によって空気の通り道である口腔や咽頭が狭くなったり、咽頭扁桃肥大(アデノイド*)、口蓋扁桃(扁桃腺)肥大・舌扁桃(舌にあるリンパ組織)肥大によって口腔や咽頭内が閉塞してしまったりすることが原因の1つとして挙げられます。また、加齢によって筋肉の緊張が弱まり重力で喉が塞がることや、肥満によって咽頭の周囲にも脂肪がつき気道が狭くなることも閉塞性睡眠時無呼吸を引き起こす要因になります。
これらに加えて、アレルギー性鼻炎や鼻中隔弯曲症**などで鼻の通りが悪い場合、閉塞性睡眠時無呼吸を悪化させる恐れがあります。
*アデノイド:鼻の一番奥にあるリンパ組織が肥大化したもの
**鼻中隔弯曲症:鼻の穴を左右に分けている鼻中隔が曲がっている状態
中枢性睡眠時無呼吸は脳が間違った指令を出すことで起こるため、脳出血や脳梗塞などが原因と思われるかもしれませんが、これらが原因となることは少ないようです。多くの場合、心不全や透析に至る腎不全などによって呼吸の安定性が阻害されてしまうために、中枢性睡眠時無呼吸を引き起こすといわれています。
睡眠時無呼吸症候群を睡眠中の呼吸異常と昼間の過度の眠気と定義した場合、男性は5%前後、女性は2~3%前後の有病率と考えられています。一方で、2010年に出版された『循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』では、治療対象となる閉塞性睡眠時無呼吸の85%以上が未診断とされています。したがって、治療を受けるべき方が検査・診断を受けていないことが問題であるといえるでしょう。
日中の眠気や倦怠感が睡眠時無呼吸症候群の主な症状です。ただし、このような日中の症状が全ての方に現れるわけではありません。
また、閉塞性睡眠時無呼吸の場合には睡眠中にいびきや無呼吸をきたします。
子どもの場合、成人のように日中に眠気が現れるというよりも、神経が過敏になって落ち着きがなくなったり、怒りっぽくなったりするといった症状が現れることが多いようです。このような症状は、ADHD(注意欠如・多動症)との鑑別が難しいこともあります。
なお、閉塞性睡眠時無呼吸の場合には睡眠中のいびきや無呼吸が現れます。
7時間以上の睡眠時間を取っているにもかかわらず昼間に眠くなる、いびきが大きいといった症状がある方は、睡眠時無呼吸症候群を疑って病院を受診することをおすすめします。また、睡眠を共にしているベッドパートナーから、明らかな呼吸の停止や、呼吸が再開されるときの“カッ”というような破裂音が聞こえると指摘された場合には検査を受けていただきたいと思います。
これらの症状がある方は、睡眠を専門にしている医師が在籍する耳鼻咽喉科、呼吸器内科、循環器内科、精神科を受診するのがよいでしょう。
睡眠時無呼吸の重症度はAHI(無呼吸低呼吸指数)という指数で表します。AHIの数値が30以上の重症の睡眠時無呼吸症候群を治療せずにいると、12年後には30%ほどの方が心筋梗塞や脳血管障害などの合併症を起こし、さらにはその半数である15%ほどの方が死に至ることが明らかになっています。このことから、治療せずに放置してはいけない病気といえるでしょう。
また、睡眠時無呼吸症候群による日中の眠気は、交通事故や仕事のパフォーマンス低下などにつながる恐れがあります。うつ病と診断され治療を続けているにもかかわらず改善がみられない患者さんの中には、実は睡眠時無呼吸症候群が原因という方もいます。根本的な原因が睡眠時無呼吸症候群であれば、睡眠時無呼吸症候群の治療を行う必要がありますので、思い当たることがある方は一度睡眠を専門とする医師に相談いただくのがよいでしょう。
睡眠中に呼吸が止まると、通常の睡眠であればだんだん下がっていく交感神経(活動的にさせる神経)のはたらきが上がったままの状態になり、それに伴って血圧が上昇します。つまり、寝ているにもかかわらず走っているような状態です。すると、夜から朝方にかけて血管がきゅっと締まったり、不整脈が起こったり、動脈硬化が進んだりするため、脳や心臓の血管が詰まりやすくなると考えられます。
また、睡眠時無呼吸症候群によって日中の眠気が強くなると、特に食事後はすぐに寝てしまうためにエネルギーが消費できず、体内に脂肪を蓄えることになります。肥満は動脈硬化や糖尿病のリスクを高めますので、その結果として心筋梗塞や脳梗塞などの合併症にもつながります。
子どもの場合、身体の発育や情緒、知能の発達に影響を及ぼすといわれています。睡眠が妨げられると、成長ホルモンの放出や神経細胞の発達が阻害されて、身長が伸びにくくなったり学力が低下したりする可能性もあるため注意が必要です。
睡眠を専門とする耳鼻咽喉科医の場合、まずは問診と咽頭や鼻の診察を行います。呼吸停止やいびきがあるか、睡眠時間はどのくらい取っているかなどをしっかりと確認する必要があるため、可能であればベッドパートナーと一緒に来院いただくのがよいでしょう。
その後、一般的には自宅で実施できる簡易検査を行います。簡易検査では、夜中の呼吸停止の有無や頻度を測定し、重症度をスクリーニングすることが可能です。より詳しい検査が必要だと判断した場合は、病院に入院して行う終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査を実施し、脳波や心電図などを測って睡眠中の状態を調べます。
睡眠時無呼吸症候群の治療選択肢は、成人と子どもの場合で異なります。それぞれの治療法についてお話しします。
睡眠時無呼吸症候群の主な治療選択肢は、減量・体位治療・口腔内装置治療・CPAP(持続陽圧呼吸)療法・手術(咽頭、鼻、上下顎)・舌下神経電気刺激療法になります。
【減量】
肥満が睡眠時無呼吸症候群の原因であれば、生活習慣を改善して減量に努めます。
【体位治療】
高齢の方でかつ中程度までの閉塞性睡眠時無呼吸であれば、側臥位睡眠(横向きで寝ること)が有効であることが多いようです。側臥位睡眠を行うための抱き枕や腰枕が寝具店やネットなどで販売されています。
【口腔内装置治療】
睡眠時にマウスピースを装着し、下顎を前方に固定させることで気道の閉塞を防ぐ治療法です。口腔内装置治療は、PSG検査でAHIの数値が5以上20未満程度の場合に適応となります。
【CPAP療法】
CPAP療法は、装着したマスクから空気を送り込んで気道を広げ、睡眠中の無呼吸を防ぐ治療です。PSG検査でAHIの値が20以上の場合に保険適用となります。AHIが20以上の中等症の方であれば口腔内装置治療かCPAP療法、あるいは手術を行うかを医師と相談のうえで患者さんが選択してよいと思いますが、AHIが30以上の重症の方はまずはCPAP療法を積極的に行うべきでしょう。
【手術】
口蓋扁桃の肥大が睡眠時無呼吸症候群の原因になっている場合には、口蓋扁桃を取り除く手術が検討されます。また、鼻閉がひどくてCPAPをうまく使えない方がいます。そのような場合にはCPAPを楽により長く使うために、まず鼻づまりを治す手術を行ったほうがよいでしょう。
【舌下神経電気刺激療法】
舌下神経電気刺激療法とは、心臓のペースメーカーのような装置を手術で鎖骨下に埋め込み、呼吸に合わせて電気で舌下神経を刺激することで気道の閉塞を防ぐ治療法です。CPAP療法が継続できない中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸の方を対象とした治療として2021年に保険適用になりました。そのほか、BMIが30未満、18歳以上、口蓋扁桃肥大などの手術適応ではないなどの条件を満たす必要があります。舌下神経電気刺激療法を実施している病院は、日本口腔・咽頭科学会のホームページなどで確認することが可能です。
高額療養費制度などを利用すれば、舌下神経電気刺激療法の自己負担額は一般的な咽頭・鼻の手術などと変わりません。
子どもの睡眠時無呼吸症候群の多くは、咽頭扁桃の肥大であるアデノイドや口蓋扁桃の肥大が原因といわれています。そのため、基本的には肥大している部分を取り除く手術を行います。手術後に症状が改善されない場合にはCPAP療法を行う場合もあります。
なお、軽症の場合には鼻閉の治療薬であるロイコトリエン受容体拮抗薬とステロイド点鼻薬で症状の改善が期待できますので、投薬治療から始めるのもよいでしょう。
CPAPは1日4時間以上かつ1週間の70%以上使用できていないと治療効果が十分ではないといわれています。したがって、7時間睡眠の方であれば1週間で20~35時間ほど装着する必要があるでしょう。
しかし、CPAP療法の長期継続率は50~70%ほどといわれています。その理由としては、CPAPを装着して寝る習慣が身につかずに正しく使えていない患者さんと、CPAPを使用することで問題が生じるために使えていない患者さんの2パターンに分けられます。前者の方に対してはCPAP療法をしないリスクや使用方法などについて、あらためてお伝えします。後者の場合には、それぞれの問題に対して適切な対応が必要になると考えています。CPAP療法をするなかで息苦しさや肌荒れなど、困っていることがある方は遠慮なく医師にご相談ください。
CPAP装着時の乾燥と息苦しさは、加湿器をつけることで改善が期待できます。ただし、機器を清潔に保たないとカビなどを含む空気を吸い込むことになってしまいますので、こまめに加湿器やマスクの洗浄を行いましょう。
CPAPマスクには鼻マスク・口鼻マスク・鼻孔にマスクを差し込むピロータイプの3種類がありますが、基本的には鼻マスクを使用いただきます。
鼻づまりで鼻マスクがうまく使えない患者さんには、口鼻マスクを使用いただくこともあります。しかし、点鼻薬や手術などで鼻づまりを解消できれば鼻マスクが使えますので、まずは鼻づまりの治療を受けていただきたいと思います。また、肌への刺激を避けたいという理由などでピロータイプを選択される患者さんもいらっしゃいますが、動くと外れやすいのでうまく使用するのは難しいという問題点はあります。
正しくCPAPを使用できれば、睡眠時無呼吸症候群を治療しないことで発生する心筋梗塞や脳梗塞のリスクを防ぐ効果あるという報告がされています。それとともに、日中の眠気が改善されていくため、それに伴って集中して仕事に取り組めるようになるなどの効果が期待できます。子どもの場合には、運動能力や情緒、メンタルの面でよい作用が報告されています。
基本は1か月に1回の頻度で受診いただくのがよいと思います。通院1回あたりの治療費用は、3割負担の方で5,000円ほどになります。
CPAP療法は、睡眠時無呼吸症候群の患者さんが健康に生きていくうえで大事な治療だと考えています。重症の場合、治療しなければ12年後には重篤な合併症が起こるリスクがあることを考慮すると、治療の継続は重要といえるでしょう。
医師によっても意見は異なりますが、健康でなおかつ通院が可能であればCPAP療法を続けていただいたほうがよいと考えます。
近頃、“日帰りでいびきを治せます”というような睡眠に関する広告を目にすることがありますが、睡眠時無呼吸症候群は一朝一夕には治せるような病気ではありません。また、自分では睡眠時無呼吸症候群だと思っていても検査の結果、別の病気が原因だと分かる場合もあります。睡眠時無呼吸症候群と似た症状が現れる別の病気の可能性も考えられますので、きちんと検査を受けて適切な治療を行っていただきたいと思います。
日中の強い眠気やいびきなどでお困りの方は、まずは睡眠を専門としている耳鼻咽喉科、呼吸器内科、循環器内科、精神科の医師にご相談ください。
藤田医科大学 ばんたね病院 耳鼻咽喉科 教授
中田 誠一 先生の所属医療機関
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CPAPを使いだして、日中ねむい
夜間高血圧があり、一泊のPSGをうけ、閉塞性睡眠時無呼吸症候群とのことで、CPAPを利用開始しました。最初の一日目の起床時にはスッキリ感を味わいました。二週間後に主治医の評価を聞くとAHIが0.3と最初から優秀といわれましたが、最近はCPAP利用前にはなかった日中の眠気、だるさを感じます。CPAP機械に表示されるイベント数?AHIでしょうか、0.1〜1.0の間を推移してます。ただ、夜中の睡眠が浅いように感じています。空気の漏れの音など、夜中にかんじます。 これは、慣れて改善するのでしょうか?
睡眠時無呼吸症の治療法について
睡眠時無呼吸症でCPAPをつけ治療中です。毎日装着し、良好な状態を保っています。しかし手術などの有効な方法があれば、検討したいと思っています。CPAP(対処療法)以外の良い結果が見られる治療法等は無いのでしょうか。薬などは服用していません。
睡眠時無呼吸症候群
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