インタビュー

睡眠時無呼吸症候群になりやすい方の特徴と治療継続の重要性

睡眠時無呼吸症候群になりやすい方の特徴と治療継続の重要性
小賀 徹 先生

川崎医科大学 呼吸器内科学 主任教授、川崎医科大学附属病院 呼吸器内科 部長

小賀 徹 先生

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睡眠時無呼吸症候群は、治療せずにいると心筋梗塞(しんきんこうそく)脳卒中といった心血管障害につながるリスクがあります。肥満の方に多い病気というイメージを持っているかもしれませんが、肥満のない人も多く、実際は痩せている方も発症する可能性があります。年齢を重ねても健康を維持するために、睡眠時無呼吸症候群を正しく理解し、早期発見と治療の継続につなげることが重要です。

今回は、川崎医科大学 呼吸器内科学主任教授ならびに同附属病院 呼吸器内科部長を務める小賀 徹(おが とおる)先生に、睡眠時無呼吸症候群の概要や、なりやすい人の特徴、治療法などについてお話を伺いました。

睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸停止を繰り返すことによって血中酸素濃度の低下をきたし、さまざまな症状や合併症が起こる病気です。原因によって閉塞性と中枢性に大別されます。

閉塞性睡眠時無呼吸

閉塞性睡眠時無呼吸は、何らかの原因で空気の通り道(気道)が狭くなることで起こります。無呼吸中も呼吸努力を伴うために、狭くなっている気道が振動して、いびきをかくことが多いのが特徴です。

睡眠時無呼吸症候群の約9割が閉塞性といわれています。本記事では、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を中心に説明していきます。

中枢性睡眠時無呼吸

中枢性睡眠時無呼吸は、脳から呼吸の指令が途絶えることで起こります。そもそも呼吸の指令がないため、いびきや呼吸努力は伴いません。

心不全脳卒中といった心臓や脳の病気から二次的に起こることが多いとされています。

日本人30~69歳を対象とした閉塞性睡眠時無呼吸の有病患者数の調査では、軽症が32.7%、一般的に治療が必要とされる中等症以上が14.0%と報告され、頻度は欧米と同等とされています(Lancet Respir Med 2019より)。また、2020年に発表された滋賀県長浜市の疫学調査(ながはまコホート)では、中等症以上の睡眠時無呼吸の割合は約12%(中等症10.1%、重症2.0%)であることが明らかになりました。軽症も含めると有病率は59%とさらに高くなります。

呼吸器疾患で多い病気として、喘息慢性閉塞性肺疾患COPD)が挙げられることが多いと思いますが、成人の喘息の有病率は5.4%*、40歳以上のCOPDの有病率は8.6~10.9%**にとどまります。これらのことから、治療が必要な中等症以上の睡眠時無呼吸に限ったとしても、喘息やCOPDよりも有病率の高い呼吸器疾患といえるのです。

*平成16年度~18年度の厚生労働科学研究事業研究班による全国調査より
**2000年9月~12月に実施されたNICE studyより

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睡眠時無呼吸があると、高血圧不整脈心筋梗塞などの循環器疾患を起こしやすいことが明らかになりました。人間は交感神経(活動的にさせる神経)と副交感神経(リラックスさせる神経)によって支配されており、通常であれば夜間は副交感神経が優位になっています。しかし、睡眠時無呼吸があると就寝中にたびたび呼吸が止まって苦しくなるので、覚醒反応が起こって再呼吸を行います。すると、呼吸が再開する度に交感神経が活性化し、それに伴って血圧の上昇や不整脈などが起こるため、循環器疾患の合併につながるのです。また、低酸素と再酸素化を繰り返す間欠的低酸素も全身に影響を及ぼしうる重大な病態です。脳卒中や糖尿病、そのほか咳や喘息などの呼吸器疾患を合併する場合もあります。

睡眠時無呼吸のあるお子さんは、眠りが浅くなり睡眠中に分泌されるべき成長ホルモンが減少するために、低身長につながることもあります。このように睡眠時無呼吸は、さまざまな病気を合併するリスクがあるといえます。

閉塞性睡眠時無呼吸の症状として、多くの方にみられるのがいびきです。そのほか、夜間には息苦しさ(呼吸困難)、呼吸が一時的に止まる(睡眠時無呼吸)、不眠、口の渇き、トイレによく起きる、寝汗などの症状が現れることがあります。一方、日中の症状としては眠気、だるさ、朝の頭痛、咳が出る、活動性の低下、認知機能の低下、男性では勃起不全などが挙げられます。

 “睡眠時無呼吸症候群の人は日中に強い眠気を感じる”というイメージを抱かれている方もいるでしょう。しかし実は、日中に眠気を感じる方は一部の患者さんであり、多くの患者さんでは、必ずしもそういった症状が現れるとは限りません。

いびき以外の症状はそれほど頻繁ではないため、感じている不調や症状を診察時にしっかりと伝えることが大切です。

【夜間の症状】

【日中の症状】

  • 起床時の頭痛
  • 眠気、倦怠感

睡眠中や日中に上記の症状がみられる場合は、閉塞性睡眠時無呼吸を疑って病院への受診をすすめます。ただし、実際はこれらの自覚症状がない方も多いでしょう。

そこで重要となるのが生活習慣病の有無です。肥満や生活習慣病、あるいはどちらもある方は、治療が必要となる中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸を合併する頻度が高まります。加えて、閉塞性睡眠時無呼吸はそれ単独でも心筋梗塞脳卒中などの重篤な合併症が心配される病気ですが、生活習慣病がある場合はさらにそのリスクが高まります。つまり、中等症以上の閉塞性睡眠時無呼吸を合併している生活習慣病がある方は、将来起こり得る心筋梗塞や脳卒中といった心血管障害の予防という意味でも、より早期に治療を開始することが重要といえます。早期発見のために、高血圧糖尿病脂質異常症など複数の生活習慣病に罹患している方は、睡眠時無呼吸がないか一度検査を受けることをおすすめします。

肥満や加齢は閉塞性睡眠時無呼吸の主なリスク因子です。ただし、特にアジア人では肥満でなくとも顎が小さかったり首が短かったりといった骨格の問題が発症リスクになる傾向がみられます。実際に、閉塞性睡眠時無呼吸の43%は普通体型もしくは痩せ型であるという報告もされています*。ほかには、女性よりも男性のほうがなりやすいことが知られています。

* BMIの数値が25未満18.5以上は普通体重、18.5未満は低体重(痩せ型)とされている。

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生活習慣におけるリスク因子には、喫煙や飲酒が挙げられます。禁煙や節酒の指導をするようにします。

睡眠時無呼吸症候群は、病院によって診療している科が異なります。当院では呼吸器内科と耳鼻咽喉科が診療していますが、循環器内科や精神科、神経内科が診ている病院もあります。なお、睡眠時無呼吸症候群を専門的に診療している医師がいない病院もありますので、事前に電話などで問い合わせてから受診いただくとよいでしょう。

睡眠時無呼吸症候群が疑われる患者さんには、まず自宅で行う簡易検査でスクリーニングを行います。簡易検査の結果、睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合には終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査と呼ばれる精密検査を実施します。PSG検査では脳波や心電図、筋電図などを正確に計測するために、1泊2日の入院が必要です。

PSG検査で、睡眠時間1時間あたりの無呼吸と低呼吸の総数(AHI)が5以上の場合、睡眠時無呼吸と診断されます。なお、PSG検査でAHIの数値が5~15であれば軽症、15~30であれば中等症、30以上で重症となり、その重症度によって治療方針を決めていきます。

閉塞性睡眠時無呼吸の場合、PGS検査でAHIの数値が20以上、もしくは簡易検査でAHIが40以上の重症であった場合には、保険適用よるCPAP治療が第1選択肢となります。閉塞性睡眠時無呼吸では気道の閉塞によって無呼吸や低呼吸が起こります。CPAP治療では、装着しているマスクから圧力をかけた空気を送って気道の開存を確保することで睡眠中の無呼吸を防ぎます。

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期待できる治療効果

CPAP治療を行うと無呼吸や低呼吸の回数が減少します。すると、いびきがほとんどなくなって熟睡できるようになり、日中の眠気の改善が期待できます。閉塞性睡眠時無呼吸が原因の夜間頻尿で困っている方であれば、CPAP治療を行うことで睡眠中にトイレに起きる回数が減るでしょう。

また、CPAP治療を行うと睡眠中の血中酸素濃度が安定し、血圧の低下や心筋梗塞のリスク低減につながることが明らかになっています。実際に、CPAP治療を1日4時間以上継続した閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんは、CPAP治療を行っていない患者さんと比べて心不全脳卒中といった心血管障害の発症率が減少し、生命予後が改善したというデータが報告されています。

CPAP治療を行う際の注意点

1.マスクは朝まで装着するのが重要
2~3時間CPAPを装着すれば、眠気などの症状はある程度の改善が見込めるでしょう。しかし、睡眠時無呼吸の治療目的は症状の改善だけではなく、命に関わる心血管障害が将来起こらないように予防し、生命予後を改善することにあります。そのためには、血圧が上昇する朝方までできる限り長く4時間以上はCPAPを装着することが重要ですので、途中で目が覚めてもCPAPを中止しないように指導しています。

2.3か月に1度の受診が必要

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CPAP治療を行っている方は、治療効果の確認のために最低でも3か月に1度は診察を受けていただく必要があります。診察時には、遠隔モニタリングシステムにアクセスして、無呼吸の回数の変化や使用時間の推移、マスクが正しく装着できているかなどを確認しています。適切な治療が行えていない場合には医師がきちんと対策を示し、患者さんが治療を継続できるようにサポートしますので、必ず定期的に受診ください。

3.トラブルには適切に対処を
CPAP治療を行っている方の中には、治療を続けるのが難しいとおっしゃる方もいらっしゃいます。たとえば、マスクを着けると皮膚がかぶれる、鼻が痛い、口が乾燥するなど長時間の装着が難しくなるようなトラブルを訴える患者さんも時折おられます。

皮膚の荒れや口の渇きなどに対してはマスクの種類の変更などの対応が必要になります。CPAPのマスクには、フルフェイス・鼻マスク・ピローマスク(鼻孔に当てて使用するタイプ)がありますので、患者さんのご希望や悩みなどを考慮してマスクを変更します。そのほか、CPAP治療を継続するうえで困っていることがあれば適切な対処法をご提案しますので、使いづらさを感じている方は診察時に医師にご相談ください。

PGS検査でAHIが20未満の場合には、口腔内装置(マウスピース)を装着する治療が検討されます。マウスピースを夜間装着することで下顎を前で固定して咽頭(いんとう)を広げ、無呼吸が起こるのを防ぐ治療です。

閉塞性睡眠時無呼吸の患者さんで肥満がある場合には、CPAP治療と並行して減量を行うと治療効果の増大が期待できます。そこで、肥満のある患者さんに対しては、食事や運動といった減量指導を行います。特に食事については、食事量を適正化し、寝る前は食べないようにお話ししています。

舌下神経電気刺激療法とは、鎖骨の下に埋め込んだ小さな装置から微弱な電気を送り、舌下神経を刺激することで舌を収縮させて上気道を広げる治療法です。CPAP治療を行ったが、生理的な理由などで継続することが難しい方が対象となる治療法として2021年に保険適用になりました。

睡眠時無呼吸症候群に対して、“肥満の方が日中強い眠気に襲われる病気”というイメージを持っている方が少なからずいらっしゃいます。もちろん、そういった患者さんも一部いらっしゃいますが、大多数はステレオタイプのイメージとは異なります。

「痩せているから違うだろう」、「日中眠くならないから大丈夫」と思わずに、睡眠時無呼吸症候群を疑う症状が当てはまる方や生活習慣病がある方は簡易検査を受けることをおすすめします。検査の結果、治療が必要と診断された場合には、治療を開始して生命予後の改善に努めていただきたいと思います。

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  • 川崎医科大学 呼吸器内科学 主任教授、川崎医科大学附属病院 呼吸器内科 部長

    小賀 徹 先生

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