胎児期に背骨の一部分がうまく形成されず、脊髄(脳からの命令を伝える中枢神経)が背骨の中から外へ出てしまう“二分脊椎”。病態によって症状はさまざまですが、多くの場合で排泄機能に障害が生じます。今回は二分脊椎の原因や症状、診断、治療について、東京都立小児総合医療センター 脳神経外科 医長である井原 哲先生に解説いただきました。
二分脊椎とは、生まれつき脊椎(背骨)の一部分が2つに分かれており、そこから本来なら背骨の中にあるべき脊髄が外に出てしまっている状態を指します。
二分脊椎という病名がついてはいるものの、脊椎が2つに分かれていること自体はさほど大きな問題ではなく、外に飛び出している脊髄が皮膚などの組織とつながってしまい障害を受けることが二分脊椎の大きな問題となります。
二分脊椎は病態によって細かく分類されますが、大きくは背骨から飛び出した脊髄が皮膚に覆われていないか、覆われているかによって“顕在性二分脊椎”と“潜在性二分脊椎”に分類されます。
顕在性二分脊椎は、脊髄が皮膚に覆われておらず、体の外に飛び出しているタイプの二分脊椎を指し、“開放性二分脊椎”とも呼ばれます。顕在性二分脊椎もいくつかに分類されますが、代表的な病気が、“脊髄髄膜瘤”です。
一方、潜在性二分脊椎は脊髄が皮膚に覆われているタイプの二分脊椎のことで、“閉鎖性二分脊椎”とも呼ばれます。潜在性二分脊椎も同様にいくつかに分類されますが、“脊髄脂肪腫”と呼ばれる病気が代表的です。
潜在性二分脊椎の発症頻度は不明ですが、脊髄髄膜瘤については出生1万人あたり3人前後とされています1)。
1)Kondo A et al. Real prevalence of neural tube defects in Japan: How many of such pregnancies have been terminated? Congenital Anomalies, 2019
二分脊椎にははっきりとした原因があるわけではありませんが、遺伝的・後天的な複数の要因が絡むことで発症につながるといわれています。
もっとも重要なリスク要因として挙げられるのが、母親の葉酸(ビタミンの一種)不足です。これは、顕在性二分脊椎にあたる脊髄髄膜瘤の発症に関与しているとされ、妊娠初期に葉酸を適切に摂取することで、お子さんが脊髄髄膜瘤になるリスクが低下することが分かっています。厚生労働省も妊娠を希望している女性に対し、食品からの摂取に加えて栄養補助食品から1日0.4mgの葉酸を摂取することを推奨しています。また、脊髄髄膜瘤の発症には遺伝的な要因も指摘されており、上のお子さんに続けて下のお子さんも脊髄髄膜瘤である確率はやや高くなります。
一方、潜在性二分脊椎のリスク因子は分かっていませんが、先天性心疾患や鎖肛(生まれつき肛門がうまく形成されていない病気)に合併しやすいといわれています。
症状は、二分脊椎が生じている場所よりも低い位置に現れます。二分脊椎の多くは腰椎や仙椎(お尻)に生じることから下半身に影響が現れます。代表的な症状は、排尿や排便に関わる排泄機能の障害、足の痛みや感覚障害、歩行障害などです。
一般的に、脊髄脂肪腫などの潜在性二分脊椎に比べて、脊髄髄膜瘤などの顕在性二分脊椎のほうが症状は重くなります。また、二分脊椎が生じている場所が高い位置であればあるほど、その分影響が出る範囲は広くなります。
二分脊椎では多くの場合、おしっこや便がたまっているのを感じにくかったり、上手に出すことができなかったりなどの排尿・排便障害が生じます。程度はさまざまですが、脊髄髄膜瘤の場合には自己導尿*や浣腸といった排泄サポートが必要となるケースも多くあります。
*自己導尿:一定時間ごとに尿の出口にカテーテルを挿入して、そこから尿を体の外に出すこと。
一部のお子さんに、足の痛みや感覚障害、歩行障害といった症状が出ることがあります。脊髄髄膜瘤の方の場合には、歩行をサポートする装具や車椅子が必要となるケースがありますが、脊髄脂肪腫などの潜在性二分脊椎では足の症状は軽度なことも多く、無症状の方もいらっしゃいます。
脊髄髄膜瘤では、80%以上の方が水頭症やキアリ奇形2型という病気を合併することがあります。
水頭症とは、脳や脊髄の表面を流れる“脳脊髄液”の循環や吸収に異常が生じ、脳脊髄液を産生する脳室が拡大する病気のことです。症状は年齢によって変化しますが、赤ちゃんの時期では頭が大きくなったり、大泉門という頭蓋骨に開いた窓のような部分が盛り上がってきたりします。症状が進行すると、視線が定まらなくなったり、うまくミルクを飲むことができずに吐いたりしてしまいます。
キアリ奇形2型とは、小脳が脊椎の方向に陥入した状態を指します。無症状のことが多いですが、なかには呼吸や飲み込みが十分にできないなどの重い症状が出ることがあります。
胎児期に二分脊椎そのものを診断することは困難ですが、水頭症を合併している脊髄髄膜瘤の場合には、妊婦健診の際に行う超音波検査で診断できることがあります。
水頭症の赤ちゃんの場合は、通常よりも頭が大きいことが特徴です。超音波検査をして頭が大きいことが分かり、さらに胎児MRI検査などの精密検査をしてみると脊髄髄膜瘤と診断されることがあります。
診断のきっかけは、顕在性二分脊椎か潜在性二分脊椎かによって異なります。
顕在性二分脊椎(主に脊髄髄膜瘤)では、皮膚の欠損部から脊髄が体の外に露出しているため、出生直後に診断され、その後迅速な治療が必要となります。
一方、潜在性二分脊椎(主に脊髄脂肪腫)の場合には、乳幼児健診などで以下のような皮膚に現れる見た目の変化から診断に至るケースが多いです。
通常は1歳までに診断されることが多いですが、上記のような目立った症状がないために、ある程度の年齢になるまで診断されないケースもあります。このようなケースでは、脚の長さに左右差がある、成長してもお漏らしが治らない、ひどい便秘が続く、尿路感染症(排尿がうまくできないために尿に細菌が入る)などの症状から診断に至ることがあります。
先述のような症状から二分脊椎が疑われた場合には、神経の様子を観察するための超音波検査を行います。赤ちゃんの骨は未熟であるため、超音波検査で背骨の内部まである程度観察することが可能です。
また、手術を行うことを前提とした検査にはMRI検査があります。MRI検査では、脊髄がどのように皮膚や皮下組織につながっているかを詳細に描出することができます。また、MRI検査は赤ちゃんがじっとしている状態でないと困難なため、眠らせるための全身麻酔あるいは鎮静薬が必要となります。
二分脊椎は、(1)脊髄の形成異常、(2)皮膚の欠損(脊髄髄膜瘤の場合)、(3)脊髄係留の大きく3つの病態に分かれます。1つ目の脊髄の形成異常に対しては有効な治療法はありませんが、2つ目の皮膚の欠損に対しては欠損部を修復する手術、3つ目の脊髄係留に対しては脊髄係留を解除する手術が行われます。
先述したとおり、脊髄髄膜瘤では皮膚の欠損部から脊髄が露出しています。この状態のままでは、欠損部から細菌感染を起こしたり、露出した脊髄が擦れて損傷してしまったりするため、原則生後48時間以内に欠損部を修復する手術を行う必要があります。手術では、露出した脊髄を背骨の中に戻した後、硬膜、筋肉、皮膚の順番に寄せながら欠損部を覆っていきます。
二分脊椎では2つに分かれた背骨から脊髄が飛び出し、脊髄が皮膚のほうまで引き伸ばされています。この状態を脊髄係留といい、どのタイプの二分脊椎でもみられます。脊髄係留をそのままにしておくと神経のはたらきに悪影響を及ぼすため、手術で脊髄係留を解除する必要があります。方法としては、皮膚や皮下組織にくっついている脊髄を切り離して脊髄だけの状態にした後、本来あるべき背骨の中に戻す方法で行います。
先述したとおり、脊髄の形成異常そのものに対しては治療法がないため、完治させることはできません。しかしながら、脊髄脂肪腫などの閉鎖性二分脊椎の場合には無症状のまま経過することも多く、健康な方と同じように普通の生活を送っている方は多数いらっしゃいます。
生活のなかで制限すべきことは基本的にはありません。大きな症状がなければ普通に生活していただいて問題なく、スポーツをすることも可能です。ただし、足や腰に強い衝撃が加わるスポーツや、過度な前屈動作を伴うスポーツは症状を悪化させる恐れがあるため控えたほうがよいでしょう。
症状の変化などに大人が気を配ることは非常に大切ですが、二分脊椎はお子さんご自身が一生向き合っていかなければならない病気です。お子さんが何でもやってもらう状況に慣れてしまうと、将来的な自立が難しくなります。なかには、自分が何の病気で通院しているのかしっかりと理解できていないお子さんもいらっしゃいます。
お子さんが病気とうまく付き合っていけるようにするためには、成長段階に応じて病気に関する理解を促したり、できることは自分でできるようにしたりして、大人が介入しすぎないことも大切です。たとえば、自己導尿が必要なお子さんであれば、小学生以降は自分でできるようにするなど、自立を促す取り組みが大切です。
二分脊椎のお子さんを持つ親御さんに一番伝えたいことは、お子さんの病気に対して絶対に自分自身を責めないでほしいということです。
二分脊椎のお子さんが生まれた、あるいはこれから生まれることが分かると、多くの方は「自分が何か悪かったのではないか……」とご自身を責めてしまいます。二分脊椎のリスク因子として葉酸不足が挙げられてはいますが、それだけで二分脊椎のお子さんが生まれるわけではありませんし、葉酸が十分に足りていても二分脊椎のお子さんが生まれることももちろんあります。ですから、お子さんの病気は絶対に誰のせいでもないのです。
二分脊椎は、生涯にわたって付き合っていかなければならず、決して簡単な病気ではありません。しかし、私たち医療者はお子さんが病気を抱えながらでも幸せに成長していけるよう、全力でサポートしていきます。
また、治療を受ける際には二分脊椎について十分に診療経験のある医療機関で相談をして治療を受けていただきたいと思います。
東京都立小児総合医療センター 脳神経外科部長(診療科責任者)
東京都立小児総合医療センター 脳神経外科部長(診療科責任者)
日本脳神経外科学会 脳神経外科専門医・脳神経外科指導医日本脊髄外科学会 脊椎脊髄外科専門医日本小児神経外科学会 認定医・評議員日本神経内視鏡学会 技術認定医日本小児神経学会 評議員日本こども病院神経外科医会 世話人関東機能的脳外科カンファレンス 世話人Craniosynostosis研究会 世話人新都心神経内視鏡研究会 世話人東京脳腫瘍治療懇話会 世話人
1997年より脳神経外科医師としてキャリアをはじめる。2005年より小児脳神経外科を専門とし、国立成育医療センター、筑波大学を経て2013年には東京都立小児総合医療センター脳神経外科医長に就任。小児脳神経外科手術を手がけている。
井原 哲 先生の所属医療機関
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