出産前に赤ちゃんの病気を見つける方法として、超音波(エコー検査)による胎児診断があります。生まれつきの病気が見つかる赤ちゃんはある程度の確率でみられますが、あらかじめ診断できていれば、出生後すぐに治療を開始するなど適切な対応を取ることができます。今回は、胎児診断の重要性や、埼玉県における産科医療機関の連携体制などについて、埼玉県立小児医療センター新生児科の清水 正樹先生と閑野 知佳先生にお話を伺いました。
胎児診断には、胎児の大きさや週数などを調べるものと、より詳しい検査によって赤ちゃんの病気を見つける目的で行うものがあります。どちらも超音波診断装置を使って、お母さんの体表(お腹の上)から検査を行います。今回のテーマは後者の胎児診断です。この検査によって体の表面や呼吸器、消化管、心臓、中枢神経系の病気を見つけることが期待できるとともに、あらかじめ病気の存在を把握しておくことで、適切な検査や治療につなげることができます。
胎児診断ではさまざまな領域の病気を見つけることができ、口唇口蓋裂*、肺や消化管・肝臓・腎臓などの内臓の病気、脊髄の病気などが挙げられます。ただし、必ずしも全ての病気の診断がつけられるわけではなく、病気であることが分かっても治療が難しい場合もあります。
*口唇口蓋裂:唇、歯茎、口内の天井部分に割れ目がある先天異常。
胎児診断を受けていない方では、赤ちゃんが生まれてから口唇口蓋裂や消化管がつながっていないなどの病気が見つかって治療に入らなければならないケースがあります。しかし、胎児診断で病気が分かれば事前に病院側から説明し、納得したうえで妊娠の継続、出産をしてもらい、生まれたらすぐに治療を進めていくことができます。
なかには、出産後に見つかってからでは生命の維持が困難であったり、障害が残ってしまったりする病気もあります。そのような病気が胎児のときに分かっていれば、あらかじめ産科医と専門医が連携して準備を整え、母体と胎児はもちろん、医療者側にとってもより適したタイミングでより安全に出産に臨むことができるのです。
当院における埼玉県遠隔胎児診断支援システムは、離れた場所で妊婦健診をされている妊婦さんでも、胎児診断で異常があれば当院の該当する診療科において診断を受けることができるシステムです。2020年10月時点で、埼玉県内の20産科医療機関がネットワークでつなげられる規模となっています。
具体的には、ほかの医療機関において普段行っている胎児診断で異常が見つかったとき、このネットワークに画像を転送してもらい、当院の新生児科、循環器科、小児外科、脳神経外科などがその画像を見て病気の診断を行います。重症度が高い病気が判明した場合は、当小児医療センターとさいたま赤十字病院の産婦人科で連携して対応していきます。
命に関わるような重大な病気が事前に見つけられず、出生後にかなり悪い状態で搬送されてくるケースを防ぐ手段が埼玉県内において求められていたことが、システム導入の背景です。県内でも、遠方であれば当院まで片道1時間近くかかってしまう地域もありますが、病気によってはそのタイムロスが命に関わります。同システムを導入することによって離れた場所でも診断が可能になり、早期から病気を把握して速やかに治療につなげられるようになりました。
遠隔胎児診断支援システムの導入によって、専門病院でないと診断できなかったような病気が、遠方からでも早期に診断できるようになりました。また、胎児診断をしている診療所やクリニックが胎児の異常を見つけても、その後より正確な診断や専門的な治療を行うために遠方の病院に送られると、お母さんは出産前から長時間かけて移動しなければなりません。かかりつけの施設で出産した後、また遠方の病院に移動して長期間入院するケースもあったことと思います。
それが、このシステムの導入によって医療機関がよりいっそう連携することで、県全体で同じレベルの胎児診断を提供することができ、妊婦さんの不要な長距離移動をなくすことができるようになりました。さらに、さいたま赤十字病院と埼玉県立小児医療センターが協働する“総合周産期母子医療センター”ができたことで、出産直前の段階で当センターに入院し、計画的な出産、治療に入ることもできるようになっています。
当センターは高度新生児医療の提供を24時間365日の体制で請け負っており、県内の産科医療機関への診断支援なども行っています。この点については、ほかの医療機関の先生から「安心感を持たせてもらっています」とお声がけいただくので、医療者側にとってもメリットになっていると実感しています。
また、当院はもともと早産のお子さんや重症度の高い赤ちゃんを診ているという実績があります。成熟児だけでなく早産児の対応ができるというベースがあり、さらに胎児診断を行っていることで、胎児期から新生児治療までの受け皿になる病院として、地域の産科の先生方の安心感につながっているのではないかと思います。
そのほか遠隔胎児診断支援システムにおいては、ほかの医療機関に診断結果をフィードバックすることで、全体での胎児診断のレベルアップにも貢献しています。
国内の総合周産期母子医療センターの多くは、大学の小児科や地域の総合病院が運営している施設です。一方で当センターは小児を専門とする病院がベースになっているため、外科系や内科系も含めさまざまな診療科がそろっており、小児期の病気のほとんどに対応することができます。
特に、重症度の高い先天性疾患に対しては出産の前からスタッフをそろえ、治療の詳細を綿密にすり合わせて準備しています。ほかの医療機関から紹介があった時点で、センター内の胎児診断に関わる他科と連携しながらカンファレンス(会議)や情報共有を行い、実際の導線やスタッフの配置などもシミュレーションしていきます。
こうした診療提供体制を整えるとともに、さいたま赤十字病院の産科、MFICU(母体胎児集中治療室)と連携することで、母体救命の対応もしっかりと行っています。
胎児診断でお腹の赤ちゃんに病気が見つかった場合、とても不安な気持ちが強くなるかと思います。埼玉県立小児医療センターには相談外来を設けている科もありますので、ぜひ利用していただきたいです。もし病気が見つかったとしても、当院で病気に対する検査や適切な治療をしっかり行っていきますので、どうぞ安心して受診していただければと思っています。
まったく想像していない状態でお子さんに異常が見つかるお母さんやご家族もいらっしゃると思いますが、お子さんに病気が見つかったとしても、私たちが出生後に元気に過ごすための手助けを行います。遠隔胎児診断支援システムやサポート体制の整った施設がある県で妊娠、出産ができることを安心感につなげてもらえるようになれば嬉しく思います。
埼玉県立小児医療センター 総合周産期母子医療センター センター長、新生児科 科長
日本小児科学会 小児科専門医・小児科指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(新生児)・指導医日本新生児成育医学会 代議員日本脳低温療法・体温管理学会 幹事臍帯血による再生医療研究会 幹事日本新生児慢性肺疾患研究会 幹事日本脳循環代謝学会 会員日本再生医療学会 会員日本小児神経学会 会員日本小児呼吸器学会 会員日本小児救急医学会 会員日本遠隔医療学会 会員日本胎児心臓病学会 会員周産期循環管理研究会 会員
活力あふれる新生児科医
埼玉県立小児医療センターで30年近く新生児医療に携わる新生児科医で、特に重症新生児仮死、新生児低酸素性脳症に対する新生児脳低体温療法を1999年12月国内で最初に臨床応用したことで知られる。現在、総病床数78床(NICU30床+GCU48床)を有する総合周産期母子医療センター長として超低出生体重児、遠隔胎児診断支援システムによる先天性心疾患・外科系疾患のチーム医療を指揮している一方で、ベトナム国での新生児医療支援事業や音楽療法に関して海外でも活躍している。
清水 正樹 先生の所属医療機関
閑野 知佳 先生の所属医療機関
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