胎児診断で判明する代表的な病気として、形成外科疾患では口唇口蓋裂、脳神経外科疾患では水頭症や二分脊椎症(脊髄髄膜瘤など)、小児外科疾患では呼吸器や消化器の病気が挙げられます。今回はそれらの症状や診療の流れなどについて、埼玉県立小児医療センター形成外科の渡辺 あずさ先生、脳神経外科の栗原 淳先生、小児外科の川嶋 寛先生にお話を伺いました。
形成外科では、体の表面の形の異常などを全般的に扱います。なかでも胎児診断で発見される病気としては、主に口唇口蓋裂が挙げられます。
口唇口蓋裂以外にも胎児診断で見つかる形成外科領域の病気にはさまざまなものがありますが、形成外科がメインになって出生後早期から治療に介入する病気となると口唇口蓋裂が多いです。
口唇裂は唇がつながっていない状態、口蓋裂は口の中の口蓋(歯茎~口蓋垂:のどちんこ)が裂けている状態をいいます。口唇裂と口蓋裂が合併している口唇口蓋裂の患者さんもいれば、口唇裂のみ、口蓋裂のみの患者さんもいます。なお、胎児診断で見えるのは主に表面の部分です。そのため口蓋裂だけの場合は出生後に気付くことも多々あります。
日本では、口唇口蓋裂の発生率は500人に1人程度といわれています。はっきりとした原因は分かっておらず、現時点では何らかの遺伝子変異と環境的な因子が複合して発生すると考えられています。
唇がつながっていない状態では、まずミルクや母乳がちゃんと飲めるかが問題になりますが、口唇裂、口蓋裂専用の哺乳瓶を使えばある程度哺乳ができるようになります。直接母乳を飲むのは難しいことが多いです。
胎児診断がついた時点で、希望があればカウンセリング外来(唇裂胎児相談外来)を受診していただき、そのときに今後の治療の見通しや通院頻度などを説明しています。病気について理解を深めてもらうことで、ご両親が病気との向き合い方など心の準備をする機会にもなると思います。
口唇裂は、お子さんの体調や発育・発達に問題がなければ、生後3~4か月頃に口唇形成術(口唇裂の閉鎖)を行い、口蓋裂の手術は1歳~2歳の間に行うことが多いです。
口唇裂と口蓋裂が合併している場合、割れている部分に特殊な器具を装着する“術前顎矯正治療”を出生後早期から行うことがあります。口蓋裂の患者さんはかみ合わせや歯並びに影響が出ることがあり、多くの場合将来的に歯科矯正治療を受けていただくことになります。“術前顎矯正治療”を行っておくと、ある程度歯茎の形を整えることができるので、その後の手術や矯正治療がやりやすくなります。
口唇・鼻の形態や大きさは成長に伴って変化していきます。そのため当院では、18歳前後まで患者さんをフォローしています。
口唇口蓋裂以外では、最近は耳の形を気にされて受診する方がよくいらっしゃいます。病名があるものとしては、耳が小さい小耳症や、耳が一部分埋もれている埋没耳などが挙げられますが、形が少し曲がっていたり、立っていたりと軽微な変形の相談にも応じています。生後すぐであれば、特殊な器具を用いて矯正する治療が可能です。
また、赤あざ、青あざ、茶あざといった生まれつきのあざがある場合、レーザー治療を行うことがあります。当院では、保険診療でできるレーザー治療を導入しています。
口唇口蓋裂はお顔のことなので、将来のいじめなどを心配されるご家族も多いかと思います。しかし病気がお子さんのハンディキャップになるかどうかは、療育環境の影響も大きいものです。受診や治療のタイミングについては私たち医師がしっかりとサポートしますので、ご家族はぜひ、子育てに集中して過ごしていただければと思っています。
当院は紹介状があれば誰でも受診可能です。胎児診断を受けて異常が見つかった場合、希望があれば遠慮せずに、まずは主治医の先生に伝えて当院を受診してください。病院にかかるほどではないかもしれないと放置している方、形のゆがみなど気になっていることがある方も、いつでも相談に来ていただきたいと思います。
脳神経外科領域において、超音波検査による胎児診断で分かる病気の代表は、頭の中に過剰に水がたまってしまう水頭症です。
水頭症とは、髄液*の循環・吸収に障害が起こり、脳室(脳の中の空間)が異常に大きくなる病気です。原因はさまざまで、遺伝、脳腫瘍、頭蓋内出血、脳の形の先天的な異常のほか、脊髄髄膜瘤といった別の病気によって引き起こされることもあります。
水頭症の場合、髄液が流れている脳室という部分が拡大するため、超音波検査を行うことで診断が可能です。
*髄液:脳や脊髄の周りを満たしている液体
赤ちゃんの頭は骨がつながっていないので、髄液がたまるとどんどん膨らんでいきます。そのため、生まれたばかりの頃は頭囲拡大といって頭が大きくなることが一般的です。病気が進行すると大泉門*が膨隆(膨らみ)し、赤ちゃんはミルクを飲めなくなったり不機嫌になったりし、おでこの血管が膨らむこともあります。
より進行すると神経に関連する症状として、目玉の位置が少し下向きになり、黒目が半分しか見えなくなる(落陽現象)こともあります。
*大泉門:頭の真ん中の、骨がまだできていない柔らかい部分。
二分脊椎症とは、脊柱管という背骨のトンネルのような部分が不完全で穴が開いているために、中を通る脊髄が脊柱管の外に出たり、皮膚や皮下脂肪の一部が脊柱管の中に入ったりしてしまう病気です。脊髄と癒着することで神経が引きつれ、損傷することでさまざまな症状が出現します。
二分脊椎症の代表的な病気に脊髄髄膜瘤があります。腰仙部(腰や骨盤の中央付近)に皮膚の欠損を伴うこぶがある場合に、脊髄髄膜瘤と診断されることが一般的です。神経への影響から、足の運動能力や感覚、尿や便の出方などに問題が生じます。そのため、こういった症状が可能な限り抑えられるように手術を検討します。
原因ははっきり分かっていませんが、脊髄髄膜瘤については赤ちゃんの神経ができる妊娠初期の頃の葉酸不足が誘因の1つである可能性がいわれています。そのため厚生労働省は、妊娠を希望する又は妊娠の可能性がある女性は、通常の食事に加えてサプリメントなどからも葉酸を摂取することを推奨しています。
水頭症は多くの場合、出生後に脳神経外科で対応します。症状の進行を確認するため、適宜検査をしながら必要に応じて治療していくことになります。
一方、脊髄髄膜瘤はさまざまな障害が起こり得るため、出生前にご家族とお話しして症状や治療の説明を行っています。脊髄組織が皮膚から露出している場合は、出生後48時間以内に手術を行うため、当院では出生後すぐに新生児科と連携して治療にあたっています。
当院には各診療科の専門家がそろい、胎児診断から治療、その後のサポートまで、担当の先生方と綿密な連携を図っています。こうした診療連携によって、早い時期から病気の診断ができ、治療計画もしっかり立てられることが強みです。
また、さまざまな治療方法を積極的に導入することで、治療がより安全で確実に進むようになっています。たとえばニューロナビゲーション*という特殊な機器を導入したことで、水頭症や脳腫瘍などに対してより安全で確実な治療ができるようになりました。さらに水頭症に関しては、カメラの付いた細い管を通じて状況を映し出す神経内視鏡手術という治療を行うこともあります。神経内視鏡手術は、感染症などの合併症や再手術のリスクを減らすことができます。
*ニューロナビゲーションシステム:画像検査の結果を入力して脳神経外科の手術支援を行う機器。
私が治療を行った方の中に、“脳が判別できないほどの水頭症で命に関わる”とかかりつけの医療機関で診断されたお子さんがいました。確かに重症であり、ご家族は手術を行うことへのショックが非常に大きいように見受けられましたが、出生後まもなく当院で手術をしました。その後は少しずつ病気を受け入れることができたようです。
重い病気やいろいろな遅れがあっても、お子さんは必ず少しずつ成長していきます。それを一緒に見守っていくことが、われわれにとって今できることだと考えています。胎児診断で病気が見つかるとさまざまな不安や心配ごとが出てくると思いますが、主治医とじっくりお話をして、お子さんの成長を見守っていただければと思います。
子どもの病気の中でも、消化管、肺、肝臓、腎臓などの内臓に見つかる外科系の病気を総称して小児外科系疾患と呼びます。特に胎児診断で発見されることがある病気は、主に次の4種類に分けられます。
この中でも、肺の一部分に水がたまる先天性嚢胞性肺疾患(『先天性嚢胞性肺疾患の種類――肺分画症や肺気道奇形などそれぞれの特徴は?』)などの呼吸器疾患、胆管という管が大きく広がる先天性胆道拡張症(『小児の先天性胆道拡張症――どのような症状が出る? 受診はいつすべき?』)などの消化器疾患は、画像診断で特徴的な所見が多く発見されやすい病気です。
また、肛門がうまく作られない病気である鎖肛のように、医療の進歩によって近年胎児診断で発見できるようになってきたものもあります。
出産後1~2日など比較的早く手術が必要となる病気には、横隔膜ヘルニア、食道閉鎖症、十二指腸閉鎖、小腸閉鎖、臍帯ヘルニア、腹壁破裂などがあります。たとえば肺が圧迫されて肺低形成が生じる横隔膜ヘルニアの場合、産まれたらまずは新生児科へ運んで呼吸管理や循環管理(血液の流れを確保する処置)を行い、赤ちゃんの状態が落ち着いてきたら外科医のもとで手術することになります。
症例によっては手術を急がなくてよい病気もあります。先天性嚢胞性肺疾患は、発生した嚢胞(液状の内容物がたまった袋状のもの)がそれほど大きくない場合が多く、呼吸が落ち着いていれば外来で数か月の経過観察を経て、患者さんの成長を待って手術治療を行うことが可能です。
こうした病気は、基本的には胎児診断を行うことで出生前に診断がつけられます。出産後に初めて緊急手術を要することが判明するケースはほぼなく、その背景には近年の胎児診断の精度が向上していることが挙げられます。また、当院では妊婦さんの診察は産婦人科の医師が担当しますが、胎児診断の結果判定は画像診断を専門とする放射線科医が行い、より精度の高い診断に努めています。
胎児診断で病気が発見されたとき適切な治療につなげるためには、お母さんが産婦人科に通っている段階から複数の診療科で連携し、病気や治療方針の情報を共有する体制を取ることが重要です。
そこで当院は、さいたま赤十字病院の産婦人科と共に“総合周産期母子医療センター”として協力して診察や治療にあたっています。具体的には、さいたま赤十字病院の産婦人科で赤ちゃんに病気が見つかったら、当院の新生児科、小児外科、脳神経外科、心臓血管外科など複数の診療科の医師が集まって周産期カンファレンスを行い、治療方針から出産の日程まで決定します。緊急手術を要することが想定される場合には、出産の当日は私たち小児外科の医師が分娩室に待機し、速やかに手術を始めます。
赤ちゃんの治療を進めていくうえでは、治療を担当する外科医が妊婦さんと直接お話しして育児に関する指導を行い、不安を和らげてもらうことが重要になります。これはプレネイタルビジット(出産前に病気のことや治療方法、予後などを説明する)といい、当院でも積極的に取り組んでいる事業です。
当院の場合、私たち外科医がさいたま赤十字病院の産婦人科を訪問して、胎児診断で赤ちゃんに病気が見つかったご家族とお会いします。そこでお子さんの病気の状態や治療方針などの説明を行っていますので、気になることがあれば遠慮なくご相談ください。
当院は小児を専門とする病院ですが、さいたま赤十字病院の産婦人科と連携し、新生児の病気に関しても検査から治療まで積極的に参加していることが特徴です。また『胎児診断が大切な理由――埼玉県立小児医療センターの取り組み』でも述べているように、遠隔胎児診断支援システムを導入して地域の医療機関と綿密な連携を図り、埼玉県にある病院間で周産期における協力体制を整えています。妊婦さんやご家族の方にはどうぞ安心して受診していただければ幸いです。
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