先天性心疾患の中でも比較的多くみられる心房中隔欠損症の治療方針は、欠損孔(心房中隔に開いている孔)の大きさや心拡大・不整脈など合併症の有無によって異なります。治療をする場合、その方法は大きく2つに分かれ、近年では患者さんへの体の負担が少ない心臓カテーテル治療が第一選択となることが増えてきました。札幌心臓血管クリニックにおける治療方針決定の流れを踏まえ、心房中隔欠損症に対してカテーテルを用いて行われる“ASD閉鎖術”について、同院 循環器内科部長/ストラクチャーセンター長の八戸 大輔先生にお話を伺いました。
一口に心房中隔欠損症と言ってもその重症度は患者さんごとにさまざまであり、治療の必要性も一人ひとりの容体によって異なります。そのため、心房中隔欠損症が見つかった患者さんは、まず心電図や超音波検査、血液検査などの精密検査を行い、治療が本当に必要なのかを判断します。それらの結果を参考に治療の要否や、治療をする場合の適切なタイミングについて検討していくことになります。
健診で心雑音が指摘された方や心電図で異常が認められた場合であっても、心拡大がない、つまり右心房や右心室が大きくなっていない方や不整脈が出ていない方に関しては、基本的に治療の適応にはなりません。生涯にわたって息切れなど心不全の症状や心拡大がなく、無治療で過ごされる方もいます。
心拡大がある患者さんや不整脈が出ている患者さんは治療が必要です。このため、治療の適応を決める際に重要な所見の1つが心拡大となります。
心房中隔欠損症では欠損孔を介して右心房・右心室に余分な血液が流れることで、心筋が引き延ばされ心臓が大きくなります。それでも初めのうちは問題になりませんが、長期間にわたって心筋が引き延ばされた状態が続いてしまうと、心筋の縮む力が衰えて十分に血液を送り出すことができなくなってしまいます。その結果として息切れや体のむくみといった心不全の症状が現れます。また、長期間の心拡大は心臓の壁を通る脈の伝達系にも負担をかけるため、やがて不整脈や、それに伴う脳梗塞などの合併症を引き起こします。欠損孔を塞ぐことで、こうした合併症の発症予防につながります。
治療のタイミングに関しては病気の進行度・症状の程度によって異なりますが、病気の進行度は自覚症状の強さと必ずしも比例しないため注意が必要です。たとえ症状がなくとも、心臓が大きくなってきている場合や不整脈が出ている患者さんに関しては治療の対象となります。
心房中隔欠損症に対する外科手術は歴史が長く、外科医が実際に肉眼で確認しながら手術を行うため、欠損孔を閉鎖するという意味では確実性が高い方法です。おおまかな流れとしては、人工心肺を使用しながら心臓の動きを止め、その間に心臓を開いて欠損孔を塞ぎます。ただし、心臓を止めて人工心肺を使用する必要があるため体への負担は大きく、外科手術のデメリットといえます。
当院では心房中隔欠損症に対し、従来の胸骨切開による手術に比べて患者さんへの負担を抑えたMICS(Minimally Invasive Cardiac Surgery:低侵襲心臓手術)を実施しています。
心房中隔欠損症に対する心臓カテーテル治療では、カテーテルを経由し心臓に送った閉鎖栓(オクルーダー)を心臓の中で広げることで欠損孔を閉鎖します。
心臓カテーテル治療の1番のメリットは侵襲が低いことです。基本的には外科手術と比べて傷が小さいため痛みも小さく、入院期間も短く済む傾向にあります。
一方で、孔の形状・場所・個数によっては治療が適応にならないことがあります。外科手術であれば穴を直接縫合するかパッチを使うなどして、多くの欠損孔に対応可能ですが、心臓カテーテル治療では、あらかじめ決まった形の閉鎖栓を使用する必要があるため、欠損孔が極端に大きな場合や多数ある場合、欠損孔の位置が悪い場合、また欠損孔の周囲に閉鎖栓をひっかけるような組織がない場合には心臓カテーテル治療を行うことは困難です。こういった場合には外科手術をすることになります。
とはいえ近年では、多くの症例は心臓カテーテル治療で対応できるようになってきています。当院では患者さんの体への負担をできるだけ少なくするために、心房中隔欠損症に対する治療の第一選択は心臓カテーテル治療を基本とし、不可能な場合に外科手術を行う方針としています。
心房中隔欠損症に対する心臓カテーテル治療では、カテーテルのほかにオクルーダーと呼ばれる閉鎖栓を使用します。オクルーダーには網目状のディスクが折りたたまれた状態で2枚付いており、この2枚のディスクで欠損孔を挟むようにして塞ぎます。
当院での治療の流れは、まず大腿静脈から穿刺してカテーテルを右心房まで進め、右心房と左心房の間にある欠損孔を通過させたところで、左心房側のディスクを開きます。左心房側のディスクが開いたところでカテーテルを引いて、欠損孔に押し付けます。
閉鎖栓がしっかり欠損孔に密着したところで右心房側のディスクを開くと欠損孔が閉鎖されます。
当院でカテーテル治療に用いている閉鎖栓はいくつか種類があり、患者さんの容体に応じて使い分けています。
心房中隔欠損症の治療の目的は将来的な心不全や不整脈の予防です。治療のために無理をして合併症を起こすということはあってはなりません。そのため当院では、心臓カテーテル治療が難しい症例の場合には自分たちで治療するのではなく、心臓血管外科に患者さんをつないで、できる限り低侵襲で外科手術をしてもらっています。治療選択に際してはカンファレンスで循環器内科・心臓血管外科が相談し合い、しっかりと連携することで患者さんにとって適切な医療を提供できるように心がけています。
医療法人 札幌ハートセンター 札幌心臓血管クリニック 循環器内科 部長/ストラクチャーセンター長
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