インタビュー

非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)とは――病気の特徴や治療法について解説

非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)とは――病気の特徴や治療法について解説
池田 洋一郎 先生

東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 助教

池田 洋一郎 先生

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非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome:aHUS)は、“補体関連因子”などの異常によって起こる病気で、主に血小板減少、溶血性貧血急性腎障害といった症状があらわれます。今回は、aHUSの特徴や治療法などについて、東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科 助教 池田 洋一郎(いけだ よういちろう)先生にお話を伺いました。

aHUSは、“補体”のコントロールがうまくできなくなることによって起こります。補体とは、体内に病原菌などの外敵が侵入すると活性化してそれらを排除し、感染症などから私たちの体を守る重要なはたらきをしている成分です。このような補体のはたらきの制御に異常が生じると、何らかのきっかけで主に血管内皮細胞(血管の内側を覆っている細胞)に障害を起こし、血小板減少、溶血性貧血急性腎障害などの全身症状をきたします。

日本における明確なデータはありませんが、ヨーロッパでは毎年、成人の100万人に2~3人、小児の100万人に7人程度がaHUSを発症するとの報告があります。小児に多い傾向がありますが、小児から大人まで幅広い年齢層で発症します。初発年齢が低いほど重症例が多い傾向にあります。また、発症率に男女差はありません。

aHUSの原因として、補体の活性化をコントロールしている補体関連因子(補体成分や補体制御因子)の病的な遺伝子異常が第一にあげられます。先天的な遺伝子異常以外にも、後天的に出現する補体制御因子に対する自己抗体*によりaHUSが発症することもあります。車に例えると、補体関連因子のうち、補体活性化に関わる成分がアクセル(病原体を攻撃する)、補体を抑制する成分がブレーキ(病原体への攻撃を終わらせる、何もないときに攻撃させない)の役割を果たします。アクセルが異常に踏み込まれたり、ブレーキが作動しなくなったりすると、車が暴走してしまう(補体の活性化を止められなくなる)というイメージです。

活性化を止められなくなった補体成分は、自分の細胞を攻撃してしまうようになります。

*自己抗体:抗体には本来、体外から侵入する細菌やウイルスなどの外敵を攻撃して身を守るはたらきがある。自己抗体とは、何らかの原因により自分の細胞を構成する成分を外敵と認識し、攻撃してしまう抗体のこと。

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血液の成分の1つである補体は、異常な活性化をきたすと血液が流れる血管を裏打ちしている細胞である血管内皮細胞を攻撃してしまいます(血管内皮障害)。すると、この部位に反応して血小板(傷口に集まり止血の役割を果たす血液成分)が集まり、微小血栓を形成します。これにより消耗性に血小板減少が生じ、同時に、赤血球が血管内で微小血栓にぶつかって破壊され(溶血)、溶血性貧血をきたします。aHUSではこのような現象がさまざまな臓器の毛細血管で起こりますが、特に腎臓ではこの影響が強く出るため急性腎障害が起こりやすくなります。急性腎障害になると尿量が減少したり、ろ過機能(腎機能)が急激に低下したりします。

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aHUSの患者さんの約6割に補体制御因子の病的な遺伝子異常が認められますが、その中には家族歴(遺伝性)が確認できない方もいます。実際、家族歴のある患者さんは全体の2~3割程度に過ぎません。aHUSでは、親から子、子から孫へと病的な遺伝子異常が受け継がれたとしても、親が発症し、子は発症せず、孫が発症するというケースもあります。つまり、遺伝子異常があっても必ずしも発症するとは限らないことになります(医学的には浸透率が高くないといいます)。さらには両親ともに遺伝子異常がなくても子どもに突然、遺伝子異常が認められることもあり、家族歴があることが絶対ではないため、問診するうえで注意が必要です。

aHUSでは、血小板が減少して点状出血(点状の皮下出血)ができることがあります。また、赤血球が破壊され溶血性貧血が起こると、全身倦怠感や息切れ、黄疸(おうだん)(全身の皮膚が黄色くなること)、褐色尿(コーラ色の尿)がみられる場合があります。急性腎障害が強い場合には、むくみや尿量減少、食欲低下などの尿毒症症状がみられることがあります。このほかに、発熱や神経症状、腹痛、下痢、下血といった消化器症状がみられることもあります。

このように、aHUSでみられる症状にはさまざまなものがあり、症状のあらわれ方や程度は一人ひとり異なります。

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aHUS発症の原因となる代表的な遺伝子として、CFHCFICD46C3CFBTHBDDGKEがあげられます。そのほかの原因として、抗H因子抗体と呼ばれる自己抗体の出現によりaHUSが発症することも知られていますが、頻度としては遺伝子異常が見つかることのほうが圧倒的に多いです。また、自己抗体が出現するメカニズムについては未解明の点が多いです。aHUSの経過(予後)には、原因となる遺伝子の種類が密接に関わるということがわかっています。例としてH因子(CFH)異常がある場合は予後がもっとも悪いことがわかっています。つまり再発リスクが高く、再発を繰り返すことで永続的な血液透析が必要になる可能性が高まります。一方、CD46や日本に多いC3の特殊な異常がある場合は予後がよく、永続的な血液透析が必要となったり命の危険にさらされたりする可能性は低いと考えられます。このように、日本において多くみられる予後のよい特定の遺伝子異常もあるため、海外のデータと国内の状況に隔たりがある可能性を考慮する必要もあります。

aHUSでは、ほかの病気でも起こり得るさまざまな症状がみられます。aHUSだとすぐに判断できるような特徴的な単一の症状があるわけではないため、あらわれている症状がaHUSによるものか否かの見極め(鑑別)が困難なケースも少なくありません。その症状が別の病気によるものであったとしても、それがトリガーとなってaHUSを発症することもあります。さらに倦怠感のみ、ないしは自覚症状がはっきりしないまま血液検査によってaHUSと診断されることもあります。

自覚症状からは鑑別が難しいケースもありますが、血小板減少、溶血性貧血急性腎障害という主要3徴候が同時期に認められればaHUSを疑う根拠になります。血小板が減少していても必ずしも点状出血が同時期に出るわけではなく、また息切れやふらつきだけでは溶血性貧血とはいえず、いずれも血液検査をしなければ確定できません。腎障害についても、褐色尿を認めないことやすぐに尿量の減少を認めないケースもしばしばあり、血液と尿の検査が重要になります。これらの症状がほぼ同時期に出現したと患者さん自身が自覚されていれば診断の助けになりますが、実際には体調の変化を感じて医療機関を受診し、血液検査を受けた結果、主要3徴候が同時期に確認されaHUSが強く疑われるという流れが一般的でしょう。

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aHUSは、原因となる遺伝子異常の“質”によって予後に差が出ます。この差に加え、そのときに抱えている合併症やもともとの腎機能も影響し、急性腎障害が治りやすい方と治りにくい方に分かれます。aHUS発症から治療開始までの時間が長引くと腎臓へのダメージが残りやすく、治療しても腎機能が元に戻らないこともあり、もともと腎機能が正常であった方でも初発のaHUSにて永続的な血液透析が必要になる場合もあります。また、一時的な血液透析ですんだとしても、腎機能が回復しても元どおりには戻らず、後遺症として腎機能が一段階悪化することもあります。早期に診断を受け、早く治療を開始すれば腎機能の悪化を防ぐことが期待できるため、早期発見・早期治療が非常に重要といえるでしょう。

aHUSの主要3徴候のうち急性腎障害の評価として、腎機能の指標である血清クレアチニンを第一に確認すべきです。最近では通常の健康診断でも血清クレアチニンは血液検査の項目に含まれていることが多いです。血液検査だけでなく尿タンパクや尿潜血などを調べる尿検査も重要です。aHUSが発症し悪化している時期には血液検査と尿検査で診断できることが多いですが、早期あるいは極期を過ぎた回復期(自然回復期)では診断に難渋することがあります。血小板減少と溶血性貧血については、血液検査の基本項目である血算のほか、溶血の程度を反映するLDHやハプトグロビンが主要な検査項目となります。特に血算においてはヘモグロビンや血小板の数値だけでなく、破砕赤血球(物理的な赤血球破壊を反映する指標)が出現することがaHUSの診断において大変重要です。破砕赤血球が認められない場合には、ほかの病気を疑う必要があります。

先述した7つの原因遺伝子の病的異常の有無については、遺伝学的検査で調べることができます。現時点では保険適用となっており、自己負担額は検査費用の一部のみとなっています。病的異常が見つかれば、aHUSであると確定診断できます。また、抗H因子抗体検査も診断に有用な検査になります。

病的な遺伝子異常が見つかる症例は全体の約6割程度にとどまること、また検査に時間がかかることからも、遺伝学的検査や、抗H因子抗体検査などの抗体検査は、aHUSの確定診断に必須ではありません。一方で、遺伝学的検査や抗体検査にて異常が見つかった場合には、aHUSの診断がより確実になるとともに、遺伝子異常の“質”や自己抗体の有無(抗体の量)が予後の予測や治療方針に影響を与えることになり、大変貴重な情報となります。つまり、永続的に血液透析が必要となるリスクや再発するリスクが予測でき、維持療法(再発を予防し、よい状態を保つための治療)をいつまで続けるか判断する際の重要な判断材料になります。

aHUSでは、遺伝学的検査や抗体検査で異常が見つからない患者さんが約4割います。その4割の方については、検査対象となっている7つの原因遺伝子の中に異常があるものの現在の検査方法ではその異常が検出できない可能性や、検査対象となっている遺伝子以外の病的異常や異なる自己抗体の出現などにより発症している可能性、aHUSの診断基準は満たすものの実際にはaHUS以外の疾患である可能性があります。したがって、将来、検査法が進化することによって今まで以上にaHUSがより確実に診断され、その臨床経過をより詳細に予測できるようになり、また治療もより最適化されるようになる可能性があります。

aHUSの主な治療には、血漿療法(けっしょうりょうほう)と抗C5抗体薬(点滴薬)による治療の2つがあげられます。どちらも第一選択となる治療法です。どちらも非常に高額な治療法になりますが、高額療養費制度や難病医療費助成制度により自己負担額を大幅に減らすことができます。

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血漿療法

血漿療法は、基本的に急性期(発症時)にのみ行われる治療です。これは血液中の血漿(血液の液体成分)を分離して、補体の異常な活性化を促す成分も含めて全て除去し、献血由来の正常な新鮮凍結血漿(FFP)を注入することで血漿を置換する治療となります。新生児や小児で血漿交換が難しい場合などには、自身の血漿を除去せずにFFPを注入する血漿輸注が検討されることもありますが、ほとんどの場合は血漿交換が選択されます。FFPに対するアレルギー反応がみられる場合には、この治療を中断しなければなりません。

抗C5抗体薬(エクリズマブ、ラブリズマブ)

抗C5抗体薬は、補体成分のうち補体経路の進行・増幅において重要な反応を媒介するC5という成分のはたらきを抑える作用があり、この作用でaHUSの進行をくい止め、急性期の症状を改善させることが期待できます。これは急性期の治療(寛解導入療法)だけでなく、安定した状態を維持するための治療(維持療法)にも使われます。維持期にはエクリズマブは2週間に1回、ラブリズマブは8週間に1回投与します。抗C5抗体薬をいつまで使い続けるかについては一定の見解があり、残存症状の有無や程度、安定性、遺伝子異常の“質”などによって判断される指針が提唱されています。

血漿療法と抗C5抗体薬はどちらも第一選択となっていますが、現時点では急性期にどちらの治療法がより有効か、安全かを示す質の高いエビデンスはありません。また血漿療法が実施可能かどうか、抗C5抗体薬が利用可能かなど医療機関によっても対応が異なります。特に小児の場合には、さまざまな理由から抗C5抗体薬の使用が積極的に推奨されています。この抗体薬に対するアレルギー反応が認められる場合にはこの治療を中断しなければなりません。また、この抗体薬が効かない体質の方がまれにいますが、疑われる場合には遺伝子検査にて診断することが可能です。

腎障害とその治療法

急性腎障害は症例によって軽症から重症までありますが、重症な場合には一時的に血液透析を行うことがあります。再発した場合や治療までの期間が長い場合、もともと腎機能が低下している場合、そのほか特殊な状況においては、維持血液透析(退院後も透析クリニックなどの医療機関に通院して血液透析を続ける)が必要となる場合があります。血液透析以外にも腹膜透析や腎移植を選択する場合もあります。

抗C5抗体薬は、aHUSの第一選択となる治療法の1つですが、髄膜炎菌やそのほか一部の細菌による致命的な感染症のリスクが高まることが知られています。そのため、治療開始前に髄膜炎菌などのワクチンを接種しておく必要があります。初発時にはワクチンが事前に接種されている可能性は低いので、ワクチン接種後に免疫がつくまで抗生剤を投与します。ワクチン接種で完全に髄膜炎菌感染症を防げるわけではないため、抗C5抗体薬治療中に発熱を認めた場合には血液培養を含めた血液検査を行ったうえで、すぐに抗菌薬を投与しなければなりません。抗C5抗体薬による治療を安全に行うには感染症の早期発見、早期治療が極めて重要であるため、発熱などの体調不良があれば必ず速やかに受診していただく必要があります。

現在使われている治療薬とは作用機序(作用の仕組み)が異なる薬や、経口薬、自己注射が可能な皮下注射薬といった投与方法の異なる薬の治験が行われており、今後、aHUSにおける治療の選択肢が増えると予想されます。

aHUSは感染など何らかのトリガーにより再発する可能性があり、病気と長く付き合っていく心構えが必要です。患者さんには、次のようなことを大切にしていただきたいと思います。

体調の変化や異常を自覚した場合に医療機関に相談するのはもちろんですが、治療を行っていない場合でも自覚症状の有無によらず定期受診することをすすめています。自覚症状にあらわれない異常が検査で検出されることがありますし、検査で異常(変化)がなかったとしても、その検査結果は重要な意味を持ちます。たとえば、aHUSを発症した後に腎機能の異常が長く残る方がいますが、時間とともに腎機能が変化することがしばしばあり、再発が疑われるときに直前の腎機能がわからないと急激に腎機能が悪化したか判断できなくなります。このようなことを避けるためにも、症状や再発の有無によらず定期受診を推奨します。治療の効果や体調が安定しているかどうかを確認するため、欠かさず受診しましょう。

再発を見逃さないために、ご自身による日頃からの体調観察も重要です。感染により補体活性化が起こりますが、かぜ(感冒)など軽症のウイルス感染でもaHUS再発の契機となることがあります。またワクチン接種なども再発の原因となることがあります。再発時には、速やかに病院を受診していただきたいですが、倦怠感のみの場合には再発に気付くことは難しいかもしれません。倦怠感のみではかぜの症状と思ってしまうことも多く、安静にしていたところ症状が悪化し、その後にaHUSの再発がわかったというケースもあります。通常みられない異常、たとえば褐色尿(肉眼的血尿)や尿量の極端な減少、点状出血・紫斑(皮下の出血)、黄疸(皮膚が黄色くなること)などのaHUSに特徴的な症状があれば、速やかに病院を受診してください。

aHUSの患者さんのご家族には遺伝性が認められる可能性があります。aHUSを疑う症状があれば、早めの受診をおすすめします。特にaHUSの患者さんのご家族が初発の場合には、そのご家族本人が発症に気付かないことも多く、すでに発症している方が見て発症に気付かれることもあります。

aHUSは診断が難しい病気です。分娩直後にaHUSを発症する例や、悪性高血圧と診断された方の中にaHUSの患者さんが含まれている場合もあるため、十分ご注意いただければと思います。診断に迷う点があればご相談ください。

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