ひてんけいようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん

非典型溶血性尿毒症症候群

同義語
aHUS
最終更新日:
2023年03月22日
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2023/03/22
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概要

非典型溶血性尿毒症症候群とは、体を細菌やウイルスなどから守る“補体”というタンパク質の制御がうまくできなくなる病気のことです。補体が過剰にはたらくことで、自分自身の血管を攻撃し全身にさまざまな症状が引き起こされます。特に腎臓へのダメージが大きいのが特徴であり、血小板(血液を固めるはたらきを持つ血液中の細胞)の減少や貧血などを伴います。

この病気は補体に関連するタンパク質のどれかに異常が認められ、そのうえで感染、妊娠、臓器移植などを契機に発症することが多いと考えられています。発症すると腎臓の機能が急速に低下することでむくみや尿量の減少が認められたり、嘔吐など尿毒症の症状を認めたりすることもあります。以前は明確な治療法がなかったため、命を落とすことも多くありましたが、現在は治療法が確立され血漿交換(けっしょうこうかん)や補体の活性化を抑える薬剤が使用できるようになり、急性期に命を落とすことは少なくなりました。

原因

非典型溶血性尿毒症症候群は、免疫のはたらきを担う“補体”というタンパク質のはたらきがうまく制御できなくなることによって引き起こされる病気です。

尿毒症症候群”という病気もありますが、その中の約1割が非典型、つまり補体に関連するタンパク質の異常によって起こるもので、その他の約9割は志賀毒素(ベロ毒素)を産生する腸管出血性大腸菌(もっとも有名な菌はO157)による感染によって発症します。

非典型であっても大腸菌の感染であっても、溶血性貧血、血小板減少、急激な腎機能悪化という3つの症状が現れるのは共通です。

補体の成分は細菌などの異物を体内から除去するはたらきがありますが、常に活性化されているわけではなく、必要なときだけはたらきます。非典型溶血性尿毒症症候群では、その制御が不能となってしまい、補体が過剰にはたらいて血管内に強い障害が現れて発症すると考えられています。

補体を調節するタンパク質の遺伝子の異常、またはそのタンパク質の機能を変えてしまうような自己抗体が背景にあり、感染、妊娠、臓器移植など免疫の状態が変化するようなイベントをきっかけに補体が過剰に活性化されて発症することが分かっています。

しかし、補体またはその調節に関わる遺伝子の異常が認められるのは全体の6割程度にとどまり、遺伝子検査を行って病的変異が見つからなくてもこの病気を否定できるわけではありません。補体の制御に関わる因子の機能を低下させる“ 抗H因子抗体”という自己抗体(自分自身の体の一部を攻撃するタンパク質)が産生されることがありますが、どのようにしてこの自己抗体が作られるようになるのかは解明されていません。

症状

この病気は、細菌などを攻撃して体を守る“補体”というタンパク質が過剰にはたらくことで、全身の血管の内皮という部分が障害されて発症すると考えられています。内皮の障害により血栓ができやすくなり、血液を固めるのに必要な血小板が消費されて減少します。

血栓で詰まった血管を通過する際に赤血球が破壊されて“溶血性貧血”を引き起こします。また、内皮の障害により毛細血管を流れる血流が落ちて臓器障害を起こしますが、この病気では特に腎臓が侵されやすいことが特徴です。

血小板減少によって点状出血(紫斑)が出現することがあります。また溶血性貧血によって体のだるさや動悸、息切れおよび皮膚黄染(黄疸(おうだん))といった症状が認められることがあります。腎障害は急性であり、程度によっては尿量の減少(無尿になることもある)、むくみ、食欲低下などが生じることがあります。ほかにも腹痛や下血といった消化器症状、けいれんなど脳神経症状などの症状がみられることがあります。

この病気は適切な治療をしないと腎機能が落ちたままの状態となり、永続的な血液透析などの治療(腎代替療法)が必要となったり、最重症の場合には死亡したりすることがあります。

検査・診断

非典型溶血性尿毒症症候群が疑われる場合は、次のような検査が行われます。

血液検査

血小板減少や貧血の有無、腎機能障害の程度などを評価するために血液検査を行う必要があります。また、この病気と似たような症状を引き起こす病気との鑑別を行うためにも血液検査が必要です。

画像検査

この病気では血栓ができやすくなることで腎臓などのさまざまな臓器にダメージが生じます。CT、MRI、超音波などを用いた画像検査で各臓器の障害を評価すると有益なことがあります。

尿検査

この病気は腎機能障害を引き起こすことが多く、尿タンパクや尿潜血の異常が認められることが多いので尿検査を行うのが一般的です。

遺伝子検査

この病気では患者の約6割に補体のはたらきを制御する遺伝子の異常があることが分かっているため、遺伝子検査が有用です。遺伝子検査は診断の確定だけでなく、予後の判定にも役に立ちます。現在、保険診療で遺伝子検査が可能です。特に維持透析が必要となったケースでは腎移植を行っても再発する可能性があるため、移植前の遺伝子検査が推奨されています。

治療

非典型溶血性尿毒症症候群の治療はこれまで、体内で異常に活性化した補体を除去するための血漿交換などの治療が主体となっていました。血漿交換を行うことで致死率は激減したといわれています。現在では血漿交換以外の治療法として“エクリズマブ”と“ラブリズマブ”という補体のはたらきを抑える薬剤が保険で使えるようになっており、発症したときの治療だけでなく、再発を予防するためにも継続投与されています。

予防

非典型溶血性尿毒症症候群は遺伝子の異常によるものが多いとされる一方で、はっきりした原因が分からないケースも少なくありません。感染などを契機に発症することが多いですが、それがはっきりしないこともあり、予防法は確立されていません。

過去に発症したことがある場合、あるいは血縁関係のある家族で発症した方がいる場合には初期症状からこの病気を疑うこともできますが、初発の場合には診断に難渋することもあります。適切な治療をしなければ死に至る危険もありますので、この病気を疑う症状があるときには軽く考えずに医師の診察を受けるようにしましょう。

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