院長インタビュー

“働く人を守る”を使命に、診療と就労支援に尽力する産業医科大学病院

“働く人を守る”を使命に、診療と就労支援に尽力する産業医科大学病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]院長インタビュー

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福岡県北九州市に位置する産業医科大学病院は、産業医と産業保健専門職の育成に励むとともに、北九州で唯一の大学病院および特定機能病院として、がん診療をはじめとする先進医療に尽力する総合病院です。2023年には新たに急性期診療棟を開設し、“働く人を守る”病院として産業医学に基づいた就労支援にも取り組んでいます。同院の特徴と思いについて、病院長の田中 文啓(たなか ふみひろ)先生にお話を伺いました。

先方提供
産業医科大学病院ご提供

当院は働く人の健康と環境を守る産業医科大学の大学病院として、1979年に診療を開始しました。それから45年以上にわたり地域を支える中核的な病院として人々を支え続け、1994年には特定機能病院(高度の医療の提供、高度の医療技術の開発および高度の医療に関する研修を実施する能力などを備えた病院)に承認され、今では35の診療科と病床数674床を備える総合病院となりました。

特にがん診療に注力しており、福岡県の地域がん診療連携拠点病院に指定されているほか、北九州医療圏内でも多くのがん患者さんを受け入れています。幅広いがん診療に対応していますが、中でも婦人科がん、大腸がん肺がんなど特にニーズが高いがん診療において、丁寧かつ的確な治療を目指しています。また、子宮(けい)んの治療において、腹腔鏡(ふくくうきょう)による腹腔鏡下広汎子宮全摘術などを適用し、低侵襲(ていしんしゅう)な(体への負担が少ない)治療に努めています。

先進医療も取り入れており、患者さんの負担額はそれぞれ異なりますが、成人T細胞白血病リンパ腫や家族性大腸線腫症、全身性エリテマトーデス、再発翼状片、肺尖部胸壁浸潤がんなどに対しての採用があります。

当院が開院した1970年代には、がんの告知を受けた方がショックや精神的な不安、治療への懸念を抱いて仕事を辞めてしまう、いわゆる“びっくり退職”が頻発していました。しかし、あれから40年以上経った今日では、医療の進歩に伴う生存率の上昇やがんに対する人々の理解が広まり、日常生活を続けながらがん治療と向き合う患者さんも増えました。がんの化学療法を例に挙げると、以前は抗がん薬の副作用として多かった吐き気ですが、今では副作用に対する治療法も発展し、抗がん薬治療を続けながら職場復帰できる方も多くなっています。

ただ、状況がよくなったとはいえ、患者さんにとってがんの治療は精神的、肉体的に大きな負担となることに変わりありません。そこで当院は“患者さんが病気を治療しながら、いかに仕事や学業を続けられるか”をミッションとし、少しでもスムーズに職場や学業に復帰できるよう、医師、看護師、コメディカル(診療を支援するスタッフ)が連携し、術前から術後まで一貫してサポートしています。

患者さんの就労支援を担当するのは、2018年に開設した両立支援科です。まず入院時に、治療と就労の両立支援を希望されるかどうかを確認します。そしてサポートを希望する患者さんには、治療と並行して学業や就労を継続できるよう支援するのです。具体的には、職場の産業医と当院の医師が連携し、どのような病気や症状なのか、どこまでの範囲なら仕事ができるかなどをすり合わせています。基本的には専任の両立支援コーディネーターがサポートしますが、場合によっては医師とも連携して患者さんを支援します。

両立支援科を1つの診療科として位置付けたのは、国内で初めての事例です。全国的に見ると、がん患者への就労支援をまだまだ属人的に対応している場合が多いため、当院がモデルケースとなって全国に広めていきたいと考えています。

当院は、患者さんにとって体の負担が少ない治療を提供できるよう、2018年に手術支援ロボットの“ダヴィンチ”を、2019年にはVMAT(強度変調回転照射法)が可能な放射線治療装置を導入しました。ダヴィンチでは従来不可能だった角度からの視野を確保でき、自在に動く鉗子で細密な操作性が実現できます。VMATは従来の方法よりも良好な線量分布および照射時間短縮の両立が可能となり、患者さんの体への負担も大幅に軽減されます。

これらの設備に加え、2023年に開設した急性期診療棟では、CT装置や血管造影装置を備えたハイブリッド手術室を設置しました。合計で17室ある手術室のうち3室がハイブリッド手術室(現在は2室が稼働)で、高度な画像診断システムにより、複雑で繊細な部分の治療が可能になりました。特に、肺がんなどの治療において必要最低限の部分切除を行えるようになり、患者さんの体への負担が少ない治療を追求しています。

当院は近年、地域の医療機関との連携をさらに強化し、他院への紹介や他院からの逆紹介を積極的に行っています。その一環として、地域の病院や診療所と交流の場を設け、定期的に情報交換を行うとともに、院内に設置した患者サポートセンターで患者さんの入退院や転院をスムーズに行えるよう支援してきました。

このような取り組みを通じて、当院で急性期治療後の患者さんがより通いやすい医療機関で治療を継続でき、退院後の治療や日常生活の不安までも解消することが私たちの願いです。これからも地域の医療機関との連携による医療ネットワークの構築に努め、患者さんの安心感につなげたいと思います。

医療の担い手として私がもっとも大切にしている考えは「自分や家族が病気にかかったときに受けたい医療を実現する」ということです。逆に言えば、自分や家族がされたくないことは、絶対に患者さんにしないように徹底してきました。そして、そのような考えを全職員と共有し、人間愛あふれる病院であるよう努めています。

院内の職場環境については、それぞれの立場にとらわれず、誰に対しても気兼ねなく話し合えるような環境づくりに注力してきました。特に若手の医師には、間違いを恐れず積極的に発言してもらいたいと思っています。そのようにして職員同士が切磋琢磨し、今後も“治療を、そして働くことをあきらめない”を実現するために全力で患者さんに寄り添い、地域の皆さんから信頼される病院を目指してまい進する所存です。

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