広島県広島市にある広島赤十字・原爆病院は、赤十字の人道・博愛の精神に基づき、原爆医療に長く取り組む病院です。また広島2次医療圏の基幹病院として、高度急性期医療を中心に、災害医療や救急医療等の面からも地域医療を支えています。
また、2030年に広島市内の大規模な病院統合が予定されている中、同院も地域での役割が変化する見通しです。そんな同院の現在の取り組みや今後について、院長の古川善也先生にお話を伺いました。

当院は1939年(昭和14年)に日本赤十字社広島支部病院(後に広島赤十字病院へ改称)として設立されました。陸軍病院時代を経て、1945年(昭和20年)には原爆による甚大な被害を受けました。当院は爆心地から1.5㎞ほどの距離しかなく、当院の職員からも多数の死傷者が出る中、生き残った職員は、一丸となり不眠不休で押し寄せる被爆者の治療にあたりました。
そのような経緯から、1956年(昭和31年)には世界で初の原爆被爆者医療専門病院の日本赤十字社広島原爆病院が敷地内に併設され、1988年(昭和63年)に広島赤十字・原爆病院として統合しました。
当院は2017年10月、建物の全面改修、耐震基準を満たさない建物の解体、立体駐車場の建設などを行ってグランドオープンしました。現在、当院の近隣には3つの基幹病院(広島大学病院、県立広島病院、広島市立広島市民病院)がありますが、ここ中区より西方には大きな病院がありません。したがって西側にお住まいの方が遠方から車で当院に通われることも多く、そのような方には約300台を収容できる駐車場をご利用いただいています。
一方で、2030年には県立広島病院、県立二葉の里病院(旧JR広島病院)、中電病院、広島がん高精度放射線治療センターの4病院がJR広島駅北側に統合移転し、1000床の大規模病院となる計画があります。それにより広島市内での患者さんの流れが変わり、医療圏やニーズの面で当院も大きく変化することになると推測されます。その際には当院の診療科や地域連携のあり方も変える必要があるため、地域全体の医療の質向上に寄与できるよう対応していきたいと考えています。

当院は、一般的な疾患から特殊な疾患まで幅広く診ることができる病院です。診療科はほぼ全科を設置しており、今後も当院の担うべき治療に関しては、きちんと体制を整え、医療を提供していきます。
特徴ある医療としては、すでに述べたように原爆医療が挙げられます。また、原爆が原因の血液疾患の治療に力を入れてきた歴史もあり、血液内科は広島県内だけでなく広く他県からも患者さんがいらっしゃいます。 さらに当院は難病医療にも力を入れており、原爆医療・がん診療・難病医療の3つを特徴として医療を提供しています。
がん診療では、以前より高精度放射線治療装置(リニアック)や手術支援ロボットのダヴィンチXを導入しています。また、外来化学療法室55床と血液がんの関係の無菌室53床を整備しました。その他、2023年には抗がん剤を混合調製できるロボット“ケモロ・ザ・スパイク”を導入しました。抗がん剤の調製は熟練した薬剤師が行いますが、その手技をロボットに反映させ調製することで、医療従事者の安全、人的ミスの防止、薬剤の効率的な使用など、化学療法においてさまざまなメリットがあり、がん診療の大きな助けとなっています。なお、ケモロ・ザ・スパイクは多額のご寄付で購入することができました。この場を借りて厚く感謝申し上げます。
広島県では難病の正しい診断と診療を受けられる体制を整備し、難病を大きく5つの分野に分け、広島大学病院を連携拠点病院にするとともに、5分野の分野別拠点病院、協力病院の指定を行っています。そのなかで、当院は多くの難病の患者さんを診療してきた実績から、2023年に免疫系、血液系、消化器系の3分野で分野別拠点病院に指定されました。難病の初診から診断の期間を短くするよう医療を提供し、患者さんやご家族の希望を踏まえて身近な医療機関で治療が続けられるようにサポートすることが求められています。
また、残りの神経・筋系、骨・関節系の分野でも難病診療の協力病院に指定され、患者さんの受入や難病福祉施設への指導・助言役も担います。このように、難病のすべての分野において何らかの役割を持ち、通常の医療では難しい疾患に対し幅広く診療していくことは、当院の特徴の一つです。
当院の内科では消化器系、呼吸器系、腎臓系、循環器系、内分泌系だけでなく、前述の如く、自己免疫系、脳神経内科系などの体制も充実しています。さらに血液内科では2024年から、難治性の血液がんに対するがん免疫細胞療法である“CAR-T療法”(患者自身の免疫細胞から作ったCAR-T細胞を使ってがん細胞を選択的に攻撃させる治療法)にも取り組んでいます。
また、外傷系では、整形外科の骨盤骨折の治療などは他の基幹病院からも患者さんを紹介いただいています。
もちろん当院だけでは治療できない領域もあり、地域の基幹病院との機能分担や連携は欠かせません。例えば、当院には小児外科と心臓外科がありませんが、緊急手術の場合はそれらを得意とする医療機関にすぐにお願いできる連携体制ができています。また、脳神経外科では血管内コイルの専門医がいないため、必要なときに連絡して広島大学病院からチームを派遣してもらっています。他にも、広島大学や九州大学とのつながりを生かし、まだ保険適用されていない新しい治療法にも数多く取り組んでいます。
このように、他の医療機関との連携を行うことで、今後も患者さんを地域で診ていく役割の一端を担えたらと考えています。
全国的に産婦人科、麻酔科など多くの領域で医師不足が言われていますが、当院も医師の確保に課題を感じています。大学病院であっても人材が豊富ではないため、県や医療圏全体の問題として解決していく必要があると思っています。当院ではここ数年、医師の確保に力を入れてきたため、緩和ケア科や精神科においては医師の確保ができました。患者さんの期待に応えるために、今後も医師を増やしていきたいと考えています。
また、今後は病院としてもっと職員を支えていかねばなりません。例えば、育児サポートの一環で昭和の時代からある院内保育所では24時間体制を行っていますが、さらなる活用を検討したいと思います。
数年前より、入院前からきめ細かく患者さんをサポートする“PFM(Patient Flow Management:ピーエフエム)”の導入が全国的に進んでいます。当院でも地域医療連携課をはじめ、患者さんへの説明指導部門のスペースを大きく取り、この業務に重点を置いています。
PFM部門では、手術目的やクリニカルパスが適用される入院患者さんのほぼ全員に対して入院前から説明を行い、入院中も安心して治療に取り組めるようサポートしています。また、回復期・慢性期病院への転院や逆紹介にもPFMを担当する看護師は重要な役割を果たしています。
これからの地域医療には、地域の先生方との密接な連携が重要になります。新型コロナウイルス感染症の蔓延時、ご紹介は必ず受けるようにしていたので、当院は地域の先生方からご信頼いただいていると感じています。今後もこの関係を強化し、地域全体で患者さんを診ていきたいと思います。
病院が何をしているところか、一般の患者さんには知られていないことも多いのではないでしょうか。当院は地域の皆さんに向けて、院内の情報をブログで発信しています。( https://www.hiroshima-med.jrc.or.jp/ )
各診療科の医師が発信する疾患に対する記事などは、患者さんにとっても有用な情報ではないかと思います。お時間がある時にでも読んでいただければと思います。
また、文字の情報だけでなく、地域の皆さんに向けての出前講座も積極的に取り組んでいます。講演では医師だけでなく、看護師や薬剤師、栄養士など当院の専門職スタッフも地域の健康向上のため話をさせていただいています。医師とは違った立場からの話は、患者さんにとっても身近に感じて理解しやすいかと思います。お近くで当院の出前講座が開催された際はぜひご参加ください。

当院は、人道・博愛を実践する赤十字病院のひとつです。特に被爆後の歴史に関しては、人道の象徴的病院だと思います。
また、当院は一般的な疾患から特殊な疾患まで多くの症例を診ており、今後もマンパワーとサポート体制を充実させていきます。
医師同士の垣根も低く、お互いに相談しやすい雰囲気があり、医師も看護師も働きやすい環境だと思います。
さらに、当院からの災害派遣では、研修医の先生方にも発災現場での災害医療を経験してもらっています。マンパワーとしての期待もありますが、それ以上に災害現場での経験は医師の形成として大変勉強になると考え、同行してもらっています。
当院でさまざまな経験を得て大きく成長してほしいと思います。
普段は地域のかかりつけ医院で診療を受けていただき、急性期病院でなければ対応が難しい検査や、高度・専門的治療の必要がある場合は、当院のような急性期病院を受診していただけたらと考えています。そうすることで個々の患者さんに合ったきめ細やかな管理が可能です。
地域の先生から大切な患者さんをお預かりして当院がやるべきことをやり、その先生方にお返しすることが基本だと考えています。赤十字病院、原爆病院としての役割を、しっかり果たしてこの地域の医療を支えたいと思います。
今後とも当院を応援していただけますようよろしくお願いいたします。
世界初の原爆病院として、高齢化している被爆患者さんをさまざまな面からサポートし、最後の一人まで支え、現場から学んだ知識と経験を行政と一緒に後世へ残していかなければならないと考えています。
疾患に関しては、地域がん診療連携拠点病院、地域医療支援病院ですので、がんを中心とした高度急性期医療や地域の医療機関との連携・支援を行ってまいります。
地域の救急医療についても、当院は2次救急でありながら、前院長の時代から「2次から2.5次くらいまでの救急医療は提供すべき」として、広いスペースの救急外来部門を有し救急患者に対応しています。近隣では広島市立広島市民病院や県立広島病院が3次救急に対応しますが、そこだけに患者さんが押し寄せ、地域の救急医療が崩壊することがないように努めています。
また、赤十字病院としての活動は、災害医療も重要です。当院では、DMAT体制が整備される以前から、災害時は必ず6班の医療救護班が即座に出動できる体制をとっています。阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震、能登地震の際も、赤十字社の統率のもと迅速に出動しました。さらに、災害時に医療拠点として機能を維持できるよう、止水板を設置するなどして災害に備えています。災害医療は、行政や他の医療チームとの連携が鍵です。赤十字を背負う病院の使命として、県、DMAT、JMAT等とより一層の連携体制を構築していく所存です。
今後も、県の基幹病院のひとつとして、広島の方々の健康と福祉をしっかり支え、地域の医療を維持してまいります。
広島赤十字・原爆病院 院長
古川 善也 先生の所属医療機関
様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。