院長インタビュー

「5つの柱」で地域と未来を支える、“研究・医療拠点”をめざして

「5つの柱」で地域と未来を支える、“研究・医療拠点”をめざして
松波  英寿 先生

社会医療法人蘇西厚生会 松波総合病院 理事長

松波 英寿 先生

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岐阜県羽島郡笠松町、木曽川のほとりに位置する社会医療法人蘇西厚生会松波総合病院。1902(明治35)年、戦国武将の斎藤道三の血を引く松波焸太郎先生が病院を開設して以来、120年以上にわたり地域の医療を支えてきました。

同院の特徴は、急性期医療を担うだけではない点にあります。民間病院でありながら文部科学省の認定を受けた研究機関として「まつなみリサーチパーク」を開設。また病理解剖の実績も積み重ねてきました。10年以上前から独自のPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)を構築し、食事・服薬・心電図・画像に加えてストレス状況まで含めた情報を活用しているほか、医学的な管理のもとで運動療法を行える院内フィットネス施設「メディカルまつなみ」を設置。24時間営業のフランチャイズ型フィットネスクラブとしては日本で初めて病院内に開設しました。治療にとどまらない健康支援の仕組みづくりも進めています。

こうした一民間病院にとどまらない同院のさまざまな取り組みについて、理事長の松波 英寿(まつなみ ひでとし)先生に伺いました。

創設者である松波焸太郎が病院を始めてから、120年以上の月日が流れました。しかし松波家の歴史はさらに古く、戦国時代にまで遡ります。実は、私の祖先は司馬遼太郎さんの小説「国盗り物語」で知られる斎藤道三、もとの名を松波庄九郎といいます。その直系として松波家は江戸時代にこの地で本陣や問屋を営み、参勤交代の大名たちを迎えるなど、古くから地域の要の役割を果たしてきました。

医師としての系譜が始まったのは明治時代です。私の曾祖父である松波焸太郎は、現在の京都大学の前身である第三高等学校医学部の第1期生でした。当時、日本に医学部は3つしかなかった時代です。以来、祖父、父、そして私と4代にわたり、長男は代々外科医としてメスを握り続けてきました。

これは単なる家業の継承ではなく、「もっとも幅広く人の命を救えるのは外科である」という、ドイツ医学の流れを汲む信念が代々受け継がれているからです。

設立当時の松波病院
設立当時の松波病院(松波総合病院ご提供)

当院の歴史は、常に「新しいことへの挑戦」の連続でした。例えば昭和40年代、まだ救急医療体制が整っていなかった頃、私の父、松波英一は自前で救急車を導入しました。これは岐阜県内で2番目という早さでした。警察から直接電話がかかってきては、父が救急車で現場へ駆けつける。そんな時代でした。

また、1977年には国内で3番目となるCT(当時は電算断層X線撮影装置と呼ばれました)を導入、1995年には私の弟である和寿(現病院長)が、岐阜県初となる体外受精(ART)を成功。1997年には私が国内の民間病院で初めての生体部分肝移植手術を成功させたりと、常にその時代の新しい医療を取り入れ、地域の方々に提供し続けています。

現在の松波総合病院
現在の松波総合病院(松波総合病院ご提供)

外科手術の分野では、手術支援ロボット「ダビンチXi」に加え、国産の手術支援ロボット「ANSUR(アンサー)」を導入しており、2台のロボットを使いこなす、民間病院ではまず見られない体制となっています。

特筆すべきは、対応できる術式の多さです。肺(3種類)、食道、胃(3種類)、膵臓、結腸、直腸、腎臓、前立腺、腟、子宮の計10領域(14種類)でダビンチ手術の施設認定を取得し、保険診療を行っています。とくに手間のかかるとされる膵臓がんの手術においても、当院では豊富な実績があり、県内民間病院で唯一保険請求が可能な施設として認められています。これは、私たちの外科チームの積み重ねを証明するものです。

ただ、ロボット手術は機器の話だけでは完結しません。患者さんご自身が納得して治療を選べるように、私たちは「何ができて、何ができないのか」「メリットと注意点は何か」を、データや画像も用いながら丁寧に説明します。

そのうえで、病状や生活背景を踏まえ、外科・内科・麻酔科・看護師など多職種で相談しながら、最終的な方針を一緒に決めていきます。治療は、患者さんとの対話から始まるものだと思っています。

がん治療においては、先ほど説明した手術に加え、高性能なリニアックによる放射線治療、抗がん剤治療による集学的治療を行っており、さらに岐阜県では当院がいち早く導入した「ハイパーサーミア(がん温熱療法)」を組み合わせた治療も可能です。ハイパーサーミアはがん細胞が熱に弱いという性質を利用した治療法で、放射線や抗がん剤の効果を高めることが期待できます。患者さん一人ひとりの病状に合わせ、これらの武器を自在に組み合わせる「カスタマイズされた治療」を当院内で提供できるのが強みといえるでしょう。

西館には、本格的なフィットネスクラブ「メディカルまつなみ」を併設しています。これは単なるジムではありません。24時間営業のフランチャイズ型フィットネスクラブでは日本で初めて、病院内に設置された「医療法42条施設」です。医師が「運動処方箋」を出し、医学的な管理のもとで運動療法を行える施設として認定されています。糖尿病高血圧などの生活習慣病は、薬だけでなく、適切な運動と食事で改善できるものが多くあります。「Exercise is Medicine(運動こそが薬である)」。この考えを実践し、病気にならない体づくりを医療の枠組みの中でサポートしています。

現在、松波総合病院は501床を有する急性期病院として機能していますが、関連施設を含めると、人間ドック事業、外来診療、入院診療、在宅診療、介護事業(介護老人保健施設、訪問看護、訪問介護、通所リハビリ、居宅介護事業所)など、切れ目のない医療体制でほぼすべての領域の医療・福祉を担っています。

また、最近では地域の他の医療機関との連携も強化しており、地域医療連携推進法人である「美濃国地域医療リンケージ」を設立しました。これは、民間病院である私たちと、美濃市立美濃病院や海津市医師会病院、羽島市民病院といった公立・公的病院、地域の診療所である小林内科が手を組み、医師の派遣や患者さんの紹介などをスムーズに行う画期的な仕組みです。
競い合うのではなく、それぞれの得意分野を活かして支え合う。それがこれからの地域医療のあるべき姿ではないでしょうか。

「美濃国地域医療リンケージ」では、情報を共有しながら、患者さんの状態に応じて「急性期はどこで担うか」「回復期・慢性期はどこへつなぐか」を整理しています。大切なのは、同じ地域の医療機関が同じ目線で患者さんを支えることです。

この取り組みを進めることで紹介・逆紹介を単なる手続きにせず、検査や治療の経過を含めて共有し、患者さんが次の医療へ移るときの不安や負担を少しでも軽減できればと考えています。

災害医療への備えも、地域を守る病院としての重要な責務です。当院は災害拠点病院としての指定を受けており、DMAT(災害派遣医療チーム)の派遣実績も豊富です。能登半島地震の際にも、DMATはもちろん、日本医師会のJMAT、日本病院会のAMATに加え、独自の支援として数百食単位の食事を現地へ届けました。こうした迅速な行動ができるのも、日頃から「何が起きても対応できる」体制を整えているからこそです。

医療の誠実さを示す指標の一つに、「病理解剖(剖検)」があります。亡くなられた患者さんのご遺体を解剖させていただき、死因や治療の効果を検証する。これは医学の進歩に不可欠な行為ですが、近年は減少傾向にあります。しかし当院では、ご家族の理解を得て積極的に行わせていただいており、その数は全国で2位(日本内科学会発表)の実績があります。

これは、私たちが「一人ひとりの患者さんの命と真摯に向き合い、最後まで学び続ける」姿勢を貫いている証です。私自身の祖父母も母も献体を行いました。次の誰かの命を救うために、検証を疎かにしない。その精神が病院全体に根付いています。

医療DXという言葉が流行するはるか前、10年以上前から、私たちは独自のPHR(パーソナル・ヘルス・レコード)の構築に取り組んできました。人間ドックのデータをベースに、患者さん一人ひとりの健康情報を蓄積し、経年的な変化を追える仕組みを作っています。単に検査結果を並べるだけではありません。そのデータが何を意味し、将来どのようなリスクがあるのかを予測するために、このシステムは進化を続けています。

当院のPHRが画期的なのは、扱うデータの幅広さと深さです。血液検査や心電図、CT・MRIなどの画像データはもちろん、服用している薬の情報、さらには日々の食事内容やストレス状況までを網羅しています。なぜなら、病気は生活習慣の積み重ねだからです。「10年前に比べてストレス値がどう変化したか」「食事の傾向がどう検査値に影響したか」。こうした過去の膨大なデータと現在の状態をトータルで管理・分析することで、より精度の高い予防と治療が可能になります。ここまで包括的なシステムを持っている病院は、全国を見渡してもそう多くはないはずです。

病院の質を決めるのは、建物でも設備でもなく、やはり「人」と「システム」です。当院では各診療科がバラバラに動くのではなく、横の連携を密にするために「中央診療部門」の機能を強化しています。
例えば、医局の構造ひとつとっても工夫があります。広い医局は、約180人の医師が一堂に会し、壁を取り払ったオープンな作りになっています。理事長室、病院長室もガラスで区切られ、医局員からまる見えにしてあります。内科医の隣に外科医が座り、その場で患者さんの相談ができる。正式な紹介状を書く手間を省き、スピーディーに適切な治療方針を決定できる環境です。この風通しの良さが、医療の質を底上げしていると考えています。

「文武両道」を掲げ、職員の教育には特に力を入れています。医師はもちろん、看護師やコメディカルスタッフも含め、学ぶ意欲のある人には惜しみない支援を行います。
当院の臨床研修プログラムは非常に人気があり、岐阜県内でも高い倍率を誇ります。これは、幅広い症例と指導体制があれば、優秀な若手は集まってくるという証明でもあるでしょう。また、今後は看護大学の運営も計画しています。金儲けのための教育ではなく、真に地域医療に貢献できる看護師を自分たちの手で育てたい。その一心で準備を進めています。

臨床で得た疑問を研究で解明し、研究の成果をまた臨床に返す。このサイクルを回し、優秀な医療人を育てるため、当院は医師が研究しやすい環境を整えています。

一般の方にはあまり知られていないかもしれませんが、松波総合病院は、文部科学省から認定を受けた「研究機関」でもあります。当院は国の科学研究費(科研費)を申請する資格を持っており、これは市中病院としては珍しいことです。
実際に、厚労省や経産省、文科省から累計で1億円近い研究費を獲得しており、常に複数の研究プロジェクトが動いています。「臨床の現場にいながら、大学レベルの研究ができる」。この環境が、知的好奇心の旺盛な優秀な医師たちを当院に惹きつけています。

2013年には、本格的な研究拠点として「まつなみリサーチパーク」を開設しました。ここは当院のスタッフによる臨床医学研究を推進しており、東京大学との社会連携推進講座をはじめ、国内外の大学や企業との共同研究が盛んに行われています。例えば、肥満や代謝疾患に関する研究では、東大から特任准教授らを招き、豚を用いた実験なども行ってきました。

論文を書くことは、医師の自己研鑽のために必須です。そこで、インパクトファクターが高く、国際的にも高く評価されている医学誌に論文が掲載されれば、病院から報奨金を出す制度も設けています。
その結果、年間で70本近い英文論文が当院から生み出されており、私自身も「The Lancet」や「The New England Journal of Medicine」といった国際的な医学誌に提出した論文に名を連ねています。

ここまで述べてきたことを端的に表すのが、当院のロゴマークです。このロゴには5つの柱が描かれています。それは「医術」「科学」「研究」「教育」、そして「人間性」です。

多くの病院は「医療」だけを行いますが、私たちは教育と研究を車の両輪とし、地域に根ざしながら、文化的な豊かさも提供したいと考えています。この5つの柱がバランスよく立つことで初めて、真に豊かな地域社会を支えることができる。それが、松波総合病院の揺るぎない理念です。

松波総合病院のロゴマーク(松波総合病院ご提供)
松波総合病院のロゴマーク(松波総合病院ご提供)

患者さんご自身にもこれからの時代にふさわしい「賢い選択」をしていただけたらと願っています。
「公立病院だから安心」「大学病院だから安心」という固定観念で病院を選んでいませんか?実際には、民間病院であっても、大学病院と同様に設備や人材を整えている医療機関、そして熱意を持っている場所があります。逆に、名前だけで中身が伴っていない病院も残念ながら存在します。大切なのは、「誰が、どのような環境で、どれだけの情熱を持って診てくれるか」を見極めることです。

私たちは、ペットと一緒に入院できる病棟を整備したり、待ち時間に運動ができる環境を作ったりと、常に「患者さんの生活」に寄り添う医療を追求しています。なぜなら、医療とは人生の一部であり、生活の延長にあるべきだからです。これからも松波総合病院は、伝統を重んじながらも革新を恐れず、地域の皆さんが「ここなら安心して命を預けられる」と思える場所であり続けます。どうぞ、ご自身の目で、私たちの医療を確かめに来てください。

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  • 社会医療法人蘇西厚生会 松波総合病院 理事長

    松波 英寿 先生

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