概要
がん性腹膜炎とは、おなかの中にがん細胞が転移した状態を指します。胃がんをはじめとした消化器がんや卵巣がんなど、さまざまながんに関連して発症する可能性があります。
がん性腹膜炎を発症すると、食欲低下や吐き気、嘔吐、息苦しさ、体重減少などの症状が見られます。食事や呼吸に多大なる障害がもたらされる可能性があり、短い期間のうちに死に至ることも懸念される状態です。
がん性腹膜炎では、原因となるがんに効果が期待できる薬物の使用が検討されます。そのほかにも、栄養や食事、呼吸をサポートするために、輸液療法、酸素投与、腹水穿刺などの対症療法が行われます。がん性腹膜炎の経過は非常に悪いことも知られていますが、患者さんの病状に合わせる形で治療方針を決定することが、とても大切であるといえます。
原因
がん性腹膜炎は、さまざまながんを原因として生じる可能性があります。たとえば、胃がんや卵巣がん、大腸がん、肺がん、子宮頸がん、膵臓がんなどをがん性腹膜炎の原因として挙げることができます。がんの再発としてがん性腹膜炎が生じることもあれば、初発時から病気の発症に至ることもあります。
がん性腹膜炎は、がんが発生した臓器から直接的に広がることがあります。そのほかにも、リンパの流れに乗じて病気の発症に至ると想定されることもあります。
症状
がん性腹膜炎を発症すると、全身状態が著しく悪化します。具体的には、食事がうまく取れない、食欲がなくなる、吐き気や嘔吐が生じるなどの症状が見られることがあります。食事が取れないことに加え、がんが広範囲に広がることと関連して、体重の減少を認めることもあります。
がん性腹膜炎では、おなかの中に腹水が多く蓄積することがあります。このため、おなかが大きく腫れる、呼吸運動が著しく阻害されて息苦しさを感じるなどの症状につながることもあります。
がん性腹膜炎を生じることで全身状態が急速に増悪し、血圧の低下、意識状態の悪化などがもたらされ、短い時間の間に死に至ることもあります。
検査・診断
がん性腹膜炎では、腹水がおなかの中に貯留します。この状況を評価することを目的として、おなかの超音波検査やCT検査といった画像検査が行われます。がん性腹膜炎では、腹水の中にがん細胞が広がっています。この状況を確認するために、おなかに針を刺すことで腹水を採取し、それを顕微鏡で調べることが検討されます。
がん性腹膜炎は、あらゆるがんに付随して生じることが知られています。そのため、どの部位のがんに関連して、がん性腹膜炎が生じているかを確認するための検査も検討されます。
具体的に行われる検査としては、胸部単純レントゲン写真、上部下部消化管内視鏡検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などを例に挙げることができます。腫瘍マーカーと呼ばれるものが高値を示す病気もあるため、この状況を確認するための血液検査が行われることもあります。
治療
がん性腹膜炎は、原因となるがんに対応しての治療薬の選択が検討されます。たとえば胃がんが原因とされる場合には、パクリタキセルなどの抗がん剤が検討されます。
がん性腹膜炎では、がん細胞が広くおなかの中に見られ、病状の根治を期待することは現在の医療では容易ではありません(2020年8月時点)。そのため、生じうる症状に対応して、対症療法的な治療介入を行うことが検討されます。無治療のままがん性腹膜炎を放置すると、呼吸障害や栄養障害など、さまざまな症状・病状がもたらされます。患者の抱える症状を緩和させるためにも、対症療法的な視点を取り入れることは、とても重要であるといえます。
がん性腹膜炎では、おなかの腹水を原因として症状が引き起こされることがあります。そのため、おなかに針を刺す腹水穿刺にて腹水を体外に排泄することで、症状の緩和を図ることもあります。うまくコントロールできない腹水の場合は、腹水濾過濃縮再静注法(CART)を行うこともあります。腹水中のがん細胞はもちろんのこと、血球、細菌などの細胞成分と余分な水分を除去して静脈内に返すことで、症状の緩和だけでなく全身ならびに腹腔内臓器の循環動態を改善します。それによって利尿剤の効果増強、食欲の改善、血中アルブミン、グロブリン濃度の上昇などが期待でき、生活の質(QOL)の改善とともに腹水も再貯留しにくくなります。また、利尿剤を使用することで、腹水の軽減を期待することもあります。
また、がん性腹膜炎ではうまく食事が取れないこともあります。その場合には、高カロリー輸液の使用、オクトレオチドの投与、消化管内へのチューブ留置による負担軽減などが適宜検討されます。
がんの中には、禁煙やワクチン接種など、予防的な観点を取り入れることができるものもあります。こうした対応をあらかじめすることで、がんの発生、ひいてはがん性腹膜炎の発症リスクを軽減することも重要です。
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