けいれん重積型(二相性)急性脳症は感染症による高熱をきっかけに起こす疾患で、患者さんの7割に後遺症が残るといわれています。けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断・予防・治療について、東京大学大学院医学系研究科発達医科学の水口雅(みずぐち まさし)先生にお話を伺いました
けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断基準には、臨床症状3項目、画像所見2項目が用いられます。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断基準となる臨床症状は、まず感染症の発熱時に発症すること、次に1日目にけいれん重積(けいれんが15分〜1時間以上にわたって長時間続く状態)があること、そして3〜7日目にけいれん群発(短いけいれんが何度も起こる状態)があることです。
※けいれん重積型(二相性)急性脳症の詳しい症状経過については記事1『幼児の感染症に伴うけいれん重積型(二相性)急性脳症—原因・症状・後遺症』をご覧ください。
【けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断基準となる臨床症状3項目】
けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断基準となる画像所見は2つあります。まず3〜14日目にMRI・CT検査を行うと、大脳皮質に浮腫(腫れ上がった状態)などの病変がみられること、そして14日目以降に、病変のあった部分の大脳皮質が萎縮し、血流の低下がみられることです。
【けいれん重積型(二相性)急性脳症の診断基準となる画像所見2項目】
記事1『幼児の感染症に伴うけいれん重積型(二相性)急性脳症—原因・症状・後遺症』でご紹介したようにけいれん重積型(二相性)急性脳症は、幼児が感染症にかかったときの高熱をきっかけに発症します。けいれん重積型(二相性)急性脳症のきっかけとなる感染症には、突発性発疹(生後6か月〜1歳代の幼児が罹患しやすいヒトヘルペスウイルス6型または7型による感染症)やインフルエンザ、ロタウイルス胃腸炎などがあります。けいれん重積型(二相性)急性脳症を予防するためには、それらの感染症を防ぐワクチンを接種することが大切です。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の予防のために接種を推奨するワクチンには、インフルエンザワクチン、ロタウイルスワクチンがあります。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、記事1『幼児の感染症に伴うけいれん重積型(二相性)急性脳症—原因・症状・後遺症』でご紹介した通り、いくつかの原因によって引き起こされますが、その一つに、喘息性気管支炎の治療に用いられるテオフィリンという薬剤の使用があります。テオフィリンはけいれん重積型(二相性)急性脳症の症状を悪化させるリスクがあるため、喘息性気管支炎の治療において薬剤の選択を控えるよう考慮する必要があります。現在、小児の気管支喘息診療ガイドラインでテオフィリンの選択についての優先度は以前よりも下がっています。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の治療には、大きく2つの軸があります。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、1日目にけいれん重積があり、3〜7日目にけいれん群発が起こります。治療においては、まずけいれんを止めるために、抗けいれん薬といわれるタイプの薬剤をおもに注射で投与します。使用できる抗けいれん薬には複数の種類があるため、基本的にはガイドラインの推奨に沿って第1選択薬から投与していきます。
けいれんを抑えた後は、けいれんの再発を防ぐ効果のある抗けいれん薬をおもに注射で投与します。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は意識障害が起こるため、患者さん自身で水分や栄養を補給できなくなります。そのため点滴を用いて水分・栄養分を過不足なく補給し、患者さんの全身状態や体温を適切に管理する必要があります。
さらにけいれん重積の症状、または抗けいれん薬の副作用によって呼吸が停止したり、血圧が急激に低下したりすることがあります。その場合には、人工呼吸や血圧を上昇させる薬によって処置し、患者さんの全身状態を正常に保ちます。
上記のような患者さんの状態管理は、必要に応じて集中治療室かそれに準ずる施設で行います。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の急性期治療(通常、数週間)が終わり退院した後は、後遺症に対する治療を通院で行います。また患者さんの状態に応じて、MRI検査など、数か月単位で定期的な検査を行うことがあります。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の後遺症でてんかんが残った場合には、抗てんかん薬による治療を行います。しかしながら、けいれん重積型(二相性)急性脳症の後遺症としてのてんかんは、重症かつ難治性(抗てんかん薬が効きにくく治療が困難)であるという傾向があります。そのため、患者さんによっては複数の抗てんかん薬を組み合わせて飲み続けることもあります。
記事1『幼児の感染症に伴うけいれん重積型(二相性)急性脳症—原因・症状・後遺症』でご説明したように、けいれん重積型(二相性)急性脳症は7割の患者さんに後遺症が残るといわれています。知能低下、高次機能障害(大脳の損傷による症状で社会生活に制約の生じる状態)、失語症などの障害や、運動障害が後遺症として残った場合には、患者さんのケースに応じて、運動療法、作業療法、理学療法などのリハビリテーションを行います。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の新たな治療法に、脳低温・平温療法があります。脳低温・平温療法とは、けいれん重積型(二相性)急性脳症の急性期(1〜7日目)に、全身もしくは頭部を冷却して脳の温度を下げることで、脳の神経細胞を保護する治療法です。脳低温療法では体温を35度かそれ以下に、脳平温療法では36度台に下げます。
脳低温・平温療法は新しい治療法です。しかしながら現状では、確実な効果が証明されたわけではなく、ガイドラインで推奨するまでには至っていません。今後さらに研究が進み、効果が証明されることを期待しています。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、通常の外来診療で対応できる疾患ではありません。けいれんが長時間(15分〜1時間以上)続く、または意識状態が悪いときには、早期に病院の救急外来を受診しましょう。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の経過中に症状が重症化した場合には、集中治療室を有する専門病院で治療する必要があります。いずれにせよ、患者さんの異変を早期に発見し病院で治療することが、症状の悪化を防ぐことにつながります。
けいれん重積型(二相性)急性脳症は、日を追って症状が進行していきます。現在の診断方法では、1日目のけいれん重積型(二相性)急性脳症と、長時間続く熱性けいれんとの区別を確実につけることができません。けいれん重積型(二相性)急性脳症は早期に対応すべきにもかかわらず、多くの場合は、確実に診断のつく3日目以降(けいれん群発が起こる時期)まで治療に踏み切れない現状です。
けいれん重積型(二相性)急性脳症の早期治療を可能にするために、より確実性の高い診断基準をつくる必要があります。最近の研究で、60〜80%ほどの確率でけいれん重積型(二相性)急性脳症を見分ける診断基準ができたところです。今後の研究で、この診断基準の精度を高めていきたいと考えます。
私たちは現在、けいれん重積型(二相性)急性脳症の新たな治療法として注目される脳低温・平温療法についてさらに研究を進めています。
またけいれん重積型(二相性)急性脳症を起こしやすい遺伝子が何種類も発見されています。それらの遺伝子を研究すると、けいれん重積型(二相性)急性脳症による脳内の病的変化についてのヒントが得られるのです。将来的には、そのヒントに基づき新たな治療薬を開発したいと考えます。
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