概要
ギャロウェイ・モワト症候群とは、腎糸球体硬化症(ネフローゼ)、小頭症(てんかん、精神運動遅滞)を2主徴(主な症状)とし、顔面・四肢の形成異常を合併する先天症候群です。脳の形成異常に関連して運動面、精神発達面の遅れは著しく、けいれんや運動障害を示します。また、出生早期から腎障害も治療抵抗性のネフローゼ症候群が生じることもあります。2014年にはWDR73遺伝子異常が原因となり病気が発症することが報告されました。日本においては難病のひとつに認定されており、200名ほどの患者さんがいると報告されています(2019年時点)。生命予後は厳しいものがあり、けいれんやネフローゼ症候群と関連して乳児期の命にかかわることもまれではない病気です。
原因
ギャロウェイ・モワト症候群は、WDR73と呼ばれる遺伝子に異常が生じうることから発症することが2014年に報告されました。ギャロウェイ・モワト症候群は家族性に発生することが多いことが知られており、こうした家族例を対象にした研究を通して初めて原因遺伝子が特定されています。
細胞が分裂して増殖をする過程では、WDR73遺伝子は重要な役割を果たしています。WDR73遺伝子に異常が生じると、脳の発生過程に異常をきたし、ギャロウェイ・モワト症候群でみられるような神経系の障害が発生すると推察されています。
また、腎臓の中には「たこ足細胞」と呼ばれる細胞が存在していますが、この細胞の形成過程にもWDR73遺伝子が深く関わっていると考えられています。たこ足細胞は、体内にタンパク質を保持するにあたり、なくてはならない細胞です。WDR73遺伝子に異常が生じると、たこ足細胞が機能障害を起こし、タンパク質が尿中に排泄されるようになる(つまりネフローゼ症候群を発症する)と考えられています。
WDR73遺伝子以外にも本症の複数の原因遺伝子の報告がなされており、病気の発生病態がいずれ解明されると考えられます。
ギャロウェイ・モワト症候群は、「常染色体劣性遺伝」と呼ばれる遺伝形式をとります。人の細胞には同じ遺伝子であっても2本の類似した遺伝情報が存在することが知られています。常染色体劣性遺伝形式では、原因となる遺伝子異常を1つ持つのみでは病気は発症しません。しかし、2本ともが異常遺伝子を示す場合、病気を発症することになります。両親が1つずつ遺伝子異常を持っている場合、お子さんが病気を発症する可能性は25%、お子さんが病気の保因者(つまり異常遺伝子を1本持つこと)になる可能性は50%です。残りの25%の場合は、原因となる遺伝子異常を引き継ぎません。
症状
ギャロウェイ・モワト症候群の症状は、神経と腎臓の異常に関連したもので特徴付けられます。脳の形成異常を伴う病気であり、大脳や小脳の一部の構造異常を伴います。頭は小さく、筋緊張が弱いことから哺乳や呼吸に異常をきたすことがあります。合目的な運動ができずに、ジストニアやけいれんを生じることがあります。運動面の遅れを見ることもあり、おすわりや起立を獲得できません。精神・知的発達面の遅れも伴います。重症例では出生後早期からネフローゼ症候群を生じることがあります。全身の浮腫を伴い、血圧が下がったり感染症に弱くなったりします。そのほか、食道裂肛ヘルニアや逆流性食道炎、誤嚥性肺炎などが見られることもあります。
ギャロウェイ・モワト症候群は家族例で見ることが多い病気ですが、症状の出方は千差万別です。多くの方は10代になる前に亡くなりますが、なかには成人まで生存されている方もいます。
検査・診断
ギャロウェイ・モワト症候群では、脳の形成異常を確認するために頭部CTやMRIといった画像検査が行われます。さらに腎臓の異常を確認するために、尿検査や血液検査を行います。尿中にはタンパク質が大量に喪失されており、それと関連して血液中のタンパク質が低下していることが確認されます(ネフローゼ症候群が見られます)。また腎臓の組織を実際に採取して、顕微鏡的にどのようなタイプのネフローゼ症候群であるのかを同定もされます。
治療
ギャロウェイ・モワト症候群に対しての根本的治療は存在せず、症状に合わせた対症療法が行われます。
てんかんを生じることが多いため、けいれんの状況に合わせた抗てんかん薬が使用されます。ネフローゼ症候群の進行を食い止めるための治療も重要であり、ステロイドやその他の免疫抑制剤が使用されます。しかしながら、ネフローゼ症候群の進行を抑制することはしばしば困難であり、最終的には透析や腎移植を要することになります。
ギャロウェイ・モワト症候群は家族例発生が多く、遺伝性疾患としての性格を持っています。それゆえ、遺伝カウンセリングが必要となることもあります。
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